第4話 伝説の予兆

 翌日、目を覚ました時間は朝の十時を過ぎていた。

今日は土曜日なので、学校は休みだ。


 俺は、起き上がると、スマホでSNSの反応を見る。


「お、いい感じかな」


 どうやら、昨日の生配信も好評のようであった。

そして、動画配信サービスのアプリを立ち上げる。


「この人、仕事早いな……」


 俺の名前で検索を掛けて行くと、俺の切り抜きがいくつもあった。

『Takamori神プレイ集』や『キル集』といったタイトルで投稿されている。


 切り抜き動画とは、最近流行り出したコンテンツのひとつだ。

長時間生配信された動画や、全体で見ればとても長い動画を、第三者が動画の一部を切り取って編集し、再投稿するというものだ。


 例えば、二時間を超える生配信を見るのは大変だが、その切り抜きを見れば、名場面や重要な部分だけを楽しめると人気を博している。


 切り抜き動画を作成されることに、否定的な意見もあるようだが、俺は切り抜きを許可している。

それで、お金を稼ぎ始めたら、問題だが、収益化をしていないなら、プラスになることの方が多いからだ。


 その証拠に、切り抜き動画は余裕で100万回再生を超えているものもある。

切り抜き動画が回ってから、登録者もSNSのフォロワーも一気に増えた。


「この、アスナさんって人には感謝だな」


 アスナさんは、俺の切り抜きを初期からやってくれている人で、いつも生配信をやるとすぐに名場面集を作ってくれる。

再生数もこの人が一番稼いでくれている。

会ったことも、声を聞いたこともないので、どんな人なのかは全くわからないが、俺のファンであることは確かだ。


 いつも、元動画へのリスペクトが感じられる編集をしてくれている。

他のファンの間でもアスナさんの切り抜きが一番見やすいと評判である。


「さて、飯食ったらゲームの練習でもするかな」


 座っていたゲーミングチェアから立ち上がろうとしたその時、俺のスマホが震えた。

画面を見ると、白瀬雪乃と表示されている。

俺の所属している事務所のマネージャーだ。


 直接電話してくるのは珍しい。


「はい、高森です」

『突然すみません。白瀬です。高森さん、今お時間大丈夫でしょうか?』

「ええ、大丈夫ですよ」


 白瀬さんは新卒で俺の所属している事務所に入った。

そして、俺の担当を前任の浅井さんから引き継いだのだ。


 前任も優秀だったが、白瀬さんも優秀なマネージャーだ。

まだ2年目だと言うが、そんなことは感じさせないほどいい仕事をしてくれる。

その上、美人なので社内でも人気なのだとか。


『高森さんにご確認したいことがありまして、夏目莉央さんってご存知ですか?』


 白瀬さんの口から最近、聞いたばかりの名前が飛び出した。


「はい、知ってますよ。最近、美少女プロゲーマーとして色んなメディアに出演している人ですよね?」

『そうです。その、莉央さんから高森さんにコラボ依頼がありました』

「え、俺にですか?」

『ええ、高森さんとコラボしたいそうです』


 まさか、こんなに早く接点が巡ってくるとは、人生何があるか分からないものだ。


『受けますか? 話題性としては十分かと』

「そうですね。僕も一度彼女とはゲームして見たかったんです」

『では、こちらはコラボの方向で進めておきます。それと、もう一点、切り抜きのことで相談がありまして、事務所に来ていただくことはできますか?』

「ええ、構いませんよ。明日は、日曜なので明後日の夕方でもいいですか?」


 日曜には事務所も空いていないことの方が多い。

平日となると、学校が終わってからの時間になってしまう。


『大丈夫です。では、事務所でお待ちしております』


 こうして、白瀬さんとの通話は終了した。


「夏目莉央さんとコラボか、楽しみだな」


 これが、俺の人生を大きく左右する出来事になることを、この時はまだ考えもしなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る