第2話 生配信

「親父は、今日も遅いのか?」

「今日は帰って来れないって。捜査が大詰めらしいよ」


 父は警視庁の管理官をやっている。

柚月と俺がまだ幼い時に、母は亡くなった。


 事故だった。

飲酒運転の車に突っ込まれたのである。


 母を亡くした父は、一時期は亡骸のようになってしまっていた。

しかし、それでも男手ひとつで俺たちをここまで育ててくれた父には感謝している。


 このマンションだって、俺たちのためにいつも家を空けがちだからと、セキュリティがしっかりしている事を買ってくれたのだ。


「忙しいんだな」

「みたいだね」


 事件が起きると、父はほとんど家には帰って来れない。

それでも、たまには帰ってくるのだが、またすぐ捜査本部へと戻る生活をしている。


 皆んなが汗を流して捜査しているのに自分だけ休んでなどいられない。

それが、上に立つ者の使命だと親父は言っていた。


「おにいは今日も配信するの?」

「ああ、そのつもりだったんだけど、どうしよっかな……」


 俺はゲーム配信も趣味の一環としてやっている。

それなりに視聴者も持っているので、インセンティブも貰えるのだが、そこにあまり執着はしていない。


 とても、今日は配信で喋るような気になれない。

柚月のおかげで元気は出たとはいえ、先ほどフラれたばっかりの男なのである。


「だめだよ、おにい。もう、告知しちゃったんでしょ。ちゃんと責任持ってやらなきゃ」

「そうだな。ありがとう」


 俺はSNSで今日の夜に配信すると言う告知をしていた。


 柚月と一緒に食事を済ませると、俺は自室のベッドに横になる。

スマホを操作しながら、配信の時間までネットサーフィンする。


「美少女プロゲーマーね」


 SNSを見ていると、美人すぎるプロゲーマーという記事が流れて来た。

俺は気になって、記事のリンクをタップする。


「お、確かに可愛いな」


 歳は17歳と書いてある。


「俺と同い年か」


 俺と同じ高校3年でプロゲーマー。

その実力は確かなものらしい。


 彼女の顔写真と共にゲームのプレイ動画も記事に貼り付けてあった。


「流石に、うまいな」


 記事をちゃんと読んでみると、彼女は日本国内の大会で優勝しているらしい。


「夏目莉央、覚えておくか」


 今後、莉央とはどこかで接点を持つかもしれない。


「お、そろそろ時間か」


 時計を見ると、時刻は21時を指していた。

俺はゲーミンチェアに座り、パソコンを起動させる。


 そして、ライブ配信の準備を済ませ、ゲームを起動させる。

俺がやっているのはプロホプルというFPSゲームだ。


 FPSとはファーストパーソン・シューターの略で、一人称視点シューティングゲームと訳される。


 操作するキャラクターの視点でフィールドを移動し、銃などを用いて戦うシューティングゲームだ。


 配信を始めると、すぐに視聴者たちが集まってくる。

同接は1万人を一気に越えた。


『待ってましたー』

『Takamoriさんの声好きー』

『神プレイ期待してます』


 コメントが次から次へと流れて行く。


「みんなありがとう。今日は、ソロで一時間くらいやろうかな」


 俺がゲームを始めると、さらに盛り上がる。


「見つけた」


 そう言って、俺はスナイパーを構える。


「はい、終わった」


 見事にヘッドショットを決めて一撃で相手を倒す。


『エイム神だろ』

『待って、今のスナイパー上手すぎ』


 流れて行くコメントの中で、何度も繰り返し出てくるワードがあった。


『やっぱり、世界一はさすがだな』


 そう、俺はこのゲーム、プロホプルの世界大会を最年少で優勝したのだった。

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