第四十話 豪華絢爛な部屋だった
開かれた扉をくぐり中へと入ると、一本真っ直ぐ続く道があった。
両脇は芝生が広がり少し離れた場所には木々や花も植えられている。鳥のさえずりも聞こえとても静かで穏やかな印象だ。
まだそれほど日が高くないため城の影となりひんやりと空気が冷たい。
騎士に先導されながらその道を真っ直ぐと進むと、城内部へと入るための扉へ。騎士が扉を開き「どうぞ」と促した。
入った城の中は一言で言って、というか言葉に出来ないわね、これ。敢えて言うなら「なんじゃこりゃ!」よ!
とんでもなく広いエントランスに、高い天井には何やら絵が描かれている。大きなシャンデリアと小さなランプが無数に灯され、端のほうに目をやるとなにやら彫刻がたくさん並び、豪華に花もたくさん飾られていた。
足元は深紅の絨毯が敷き詰められ、目の前の大階段にもずっと絨毯が続いている。階段の背後には大きな窓が下から天井までと続き、所謂ステンドグラスかしら、日の光が差し込み様々な色でキラキラと煌めいていた。
「ようこそおいでくださいました、ヒナタ様ですね?」
ボーっとしていると、スラッと背の高い五十代くらいだろうか、少し色の薄い茶色の髪をピシッと整えた紳士的な男性が現れた。燕尾服のような服を着ているから執事さんみたいな感じかしら。
「私はこちらの客室棟の責任者を務めておりますオバルと申します」
オバルさんは騎士から荷物を受け取ると「こちらへどうぞ」と促した。騎士は恭しくお辞儀をするとそのまま帰って行く。
「こちらへ」
呆気にとられ呆然としているとオバルさんが階段手前で振り向き、爽やかな笑顔で呼んだ。
「あ、すいません」
慌ててオバルさんの後ろに続く。にこりと笑ったオバルさんはそのまま階段を上って行く。大階段は踊り場から二手に分かれ、左右にさらに階段が続く。
二階部分へ到着すると左右にひたすら長い廊下が続いていた。そこもね、しっかり絨毯が続いてますよ。
長い廊下は片側に部屋らしき扉がいっぱい、反対側にはひたすら廊下か続くのと同じくひたすら窓が続いていた。
一面ガラス張りの窓からは先程通って来たところとは違った景色が見える。木々や花も見えるが、それよりも様々な城の建物が見える。二階建てのところや一階しかない建物があったり、ここよりも高い位置に屋根が見える塔のような建物、様々だった。
なんせ広いわね……、迷子になりそう……。
しばらく廊下を歩いていたオバルさんがおもむろに振り向くと、一つの扉の前で止まった。
「こちらの部屋へどうぞ」
「はい?」
部屋……。
オバルさんが扉を開け中へと促す。中へと入ると……。
「うわぁ…………」
凄い! 素敵! お姫様気分! …………、とはならなかった。
まさに豪華絢爛なお部屋! これ、一体何畳あるのよ! 四人家族で普通に住めるんじゃ!? というくらい一部屋が広かった。
凄すぎてちょっとドン引きになりましたよ。庶民にはちょっと衝撃が強すぎます。
リビングルームのような部屋にはテーブルと椅子、バルコニーにも出られる大きい窓。隣の部屋には何人寝られるんだろうか。大人三人は余裕で寝ることが出来そうなベッドとクローゼット。さらに別の扉の奥には風呂や洗面などの水回りがあった。
普通に一家で住めるわね……。
「こちらの部屋をお使いください」
「え、あ、あの……、これってやはり泊まりってこと……ですよね?」
無駄な足掻きだろうが一応聞いてみた。
「はい? そのご予定だと聞いておりますが……」
オバルさんも困惑顔。すいません、余計なことを聞いて。いや、ちょっとね! ちょっとだけね! もしかしたら日帰りでいけるかなぁ、とか思っただけなんです! 本当にちょっとだけ……、いやまあ、願望も入ってましたが……。やっぱり駄目よね……。はぁぁあ。
オバルさんが不思議そうな顔をしている。
「あ、すいません、なんでもありません」
「そうですか? 何かご入用の際はこちらのベルをお鳴らしください」
そう言ってオバルさんはテーブルに置いてある小さなベルを鳴らした。綺麗なチリリンという音がすると、扉をノックする音が聞こえた。
オバルさんが扉を開け、一人の女性が入って来た。
「城におられる間のヒナタ様の専属侍女を務めます、ニアナと申します。何でもお気軽に申しつけください」
ニアナと呼ばれたその女性は歳は同じくらいだろうか、少し落ち着いた雰囲気の女性で、若草色の髪と金色の瞳が爽やかで美しい。
「ニアナと申します。よろしくお願いいたします」
丁寧に頭を下げられ、ちょっと焦る。
「あ、こちらこそよろしくお願いします」
「謁見は明日の午前中になります。本日は移動などでお疲れでしょう、ゆっくりとなさってください」
オバルさんはそう言うと丁寧にお辞儀をし、部屋から出て行った。
「荷物はこちらのクローゼットに入れておきますね。お茶をご用意いたしますので、ごゆっくりとなさっていてください」
ニアナはそう言いテキパキと片付けると、お辞儀をし部屋を出て行った。
豪華絢爛な部屋に一人残され呆然。
『はぁぁ、やれやれ』
今まで全く無反応、さらにはずっと私の身体に顔を埋め、周りを全く見ないラズが、ようやく動き出した。
抱き締めていた腕からするりと抜け出し着地。思い切り伸びをしていた。
「ラズ……、なんで今まで無言だったのよ。私一人でひたすら緊張したじゃない!」
『うっ、そ、そんなことどうでも良いだろ! それより部屋を満喫したらどうだ』
なんだかなぁ、と思いながらも、呆気に取られていたのが少し落ち着いてきたので、部屋を見て回る。
「はぁぁあ、本当に凄い部屋ね。無駄に広いし豪華」
『無駄って……』
ラズが苦笑していた。だって無駄じゃないのよねぇ。こんな広い部屋を一人で使うなんてもったいないわぁ。貧乏性が出るわね。
『まあ城なんてこんなもんだろ』
「そういうもん?」
『あぁ』
なんでラズがそんなこと知ってんの? とは言うまいよ。
バルコニーに出てみると先程やって来た方角、庭園と噴水が遠目に見えた。さらに奥には小さく街並みが見える。
「遠いわねぇ」
バルコニーの手摺りにもたれかかりボーっとした。あまりに非現実的過ぎて頭が真っ白になるわ。
「明日、謁見かぁ……、ラズも一緒に行っていいかな」
『そ、それは無理だろ!!』
ボソッと呟いた言葉にラズが異様に反応した。
「えー、駄目かな。良いんじゃない?」
『いや! 駄目に決まってんだろ! 王様だぞ! そんな人間に会うのに猫連れて行ってどうすんだ!』
「えー、私一人は嫌だ……」
一人で王様なんてものに会わなければならないなんて嫌過ぎる。
『いや、でもさすがに無理だろ……』
そんなやり取りをしていると、部屋をノックする音が聞こえた。返事をするとニアナさんが戻って来たようだ。
ニアナさんはお茶とサンドイッチをワゴンに乗せて戻って来た。
「お待たせ致しました。そろそろお昼の時間でしたので、サンドイッチもお持ちしました。食べられないものとかはございませんか?」
そう言いながらニアナさんはテーブルに用意してくれる。
「わあ、美味しそうなサンドイッチ! ありがとうございます! 何でも食べられるので大丈夫です!」
そう言いながらサンドイッチを覗き込んでいると、ニアナさんはクスクスと笑った。アハ、食い意地が張っていると思われたかしら。
「どうぞお召し上がりください」
テーブルに着くとお茶も入れてくれる。良い香りが漂い、色の感じからすると紅茶かしら、と考えながら香りを楽しむ。あぁ、落ち着くわぁ、とホッとする。
「猫ちゃんも同じもので大丈夫ですか?」
ニアナさんはラズの分も用意してくれていた。同じように綺麗なお皿に乗ったサンドイッチをもう一つテーブルに置く。
「ありがとうございます、何でも大丈夫です」
適当に答えているのがバレたのか、ラズが小さく『おい』と呟いていた。
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