第15話 娘シャノンに近づく悪意

ーー 校外学習と悪意



入学から6ヶ月、長期休みを前に校外学習がある。


王都から馬車で1日の所にある森で2泊3日の校外学習だ。


4人1組で森に入り目的地を経由して、キャンプ地で2泊して戻る実地訓練だ。

学園側はこれに合わせ、事前に脅威のある魔物や動物を狩って対策をする。

しかしこの行事を知っている、あの男が復讐心に燃えて計画を立てていた。



私たちのパーティーは、メアリー、ポエムに新たに友達になったカルマン侯爵の娘ケリーの4人だ。


「ここから出発よ。皆んな事前の役割を考えて注意してね。」

と私は皆に注意して森に入る。

何故ここまで注意して森に入ったかと言えば、昨日ライディン侯爵の情報部から不穏な動きが見られると連絡があったのだ。


情報部とはイデアお姉さんが率いる部隊で、情報収集に秀でたものを集めた者たちでライディン家に関する情報を中心に活動しているのだ。


危険度はA〜Dまでのランクで上から三番目のCランク、通常兵士対応可能と言うものだ。

しかしこれが森の中となると、そうばかりは言えないところがある。

魔物の存在だ。他所から魔物を連れてきたり、召喚魔法で呼び出せば危険度は上がることになる。


事実今回計画をしているのは、学園を追放されたあの教師だった男である。

男は王都周辺の盗賊と手を組み、学園の生徒を誘拐し身代金をせしめる計画を立てていたのだ。

当然男の目的は、自分の魔法能力の顕示と返り咲きだ。

しかし盗賊はそうではない、ここで事件は最悪な方に傾くのだった。


「カシラ。本当に誘拐だけで済ますんですか?」

盗賊の子分がそっと呟く、カシラと呼ばれた男は

「バカ言うんじゃねえ。3学年の120人もいるんだ半分は殺して残りをさらって売り飛ばした後に身代金をせしめるのさ。」

とカシラは言う。

「流石カシラだ。8〜10くらいのガキだ簡単な仕事ですぜ。」

と子分は言いながら森に姿を消した。




               ◇



「カイトお兄様。キャノンだけでいいのですか。確かに周りには部下を配置して逃げられない様にしてますが。生徒全員は守れないと思いますよ。」

と言うイデアに私は

「この世界は生きるのに厳しい世界だ、その危機感がないままで大人になり貴族ですと威張られても今度は国が危険に陥るんだ。少々の犠牲は必要なんだ。」

と冷たいと捉えられる様な言葉を言う。

「それはそうですが・・・分かりました。盗賊は80人、元教師が召喚魔法で魔物を召喚することも予想され、その危険度は高くてBと思われます。」

と報告を終了した。


私は今度の盗賊らの襲撃計画を利用して、この国の教育を根本的に変えようと考えていた。

我がライディン侯爵領の学校では、卒業時に中央大森林の遠征が卒業試験だ。

自分の身を大森林であっても守れるのが卒業生の資格だ。

故に我が兵士の強さは、この世界一と自負している。


そんな中王都の学園の卒業生はと言うと、危険の低い王都周辺の森でさえどうかと言うレベルのものが大半だ。

これでは他国の侵攻にまともに対応できるはずがない、身をもってそれを感じてもらうのだ。



                ◇



「シャノン本当にこの森に襲撃者がいるの?」

メアリーが聞く他の二人も聞き耳を立てる。


「ええそうよ。イデアお姉さんが掴んだ情報だから間違いないわ。」

「でもうどうしてそれを学園に教えないの?」

当然の疑問をメアリーが言うと

「なんでもこの国の危機感が低すぎるからダメだと、お父様が考えている様なの。」

と答えながら

「多分、生徒にも被害が出ると思うわ。学園には生徒が森に入った時点で連絡が入るらしいの。」

と言いながらさらにシャノンは

「でもね、きっと学園は事前に連絡があっても対応できないとお父様は考えているの。だってこの襲撃計画さえ全く把握できていないもの。」

と言うと皆を見ながら

「他に私たちだけで保護する子はいる?」

と尋ねるシャノンにケリーが

「私の従姉妹が居るの、多分もうすぐここで合流できると思うけど。」

と言ったところで、もう1組の生徒が現れた。

「ケリー。呼ばれたから来たけど、本当に危険が有るの?」

と一人にリーダー的な少女が声を掛けてきた。

「貴方がケリーの従姉妹のサニーね。私はライディンのシャノンよ。ケリーの言った事は事実よ、それでここからは一緒に行動しましょう。」

と声を掛けられたサニーは少しグループで話をして

「ええいいですわ。貴方がライディン侯爵の娘ね。噂は聞いてるは私たちの安全を約束してちょうだい。」

というサニーに

「もちろん、ただ私の注意を守ってね。」

と言いながら4人と握手するシャノン。


これから8人で行動することになる。



                ◇


1日目の夕方。

それぞれの学生が各々野宿地を見つけキャンプの準備を始める。


盗賊らはその周辺でその様子を見ながら、さらう生徒と殺す生徒を選別する。

「こりゃ簡単な仕事だぜ。兄貴男を殺して女を全部攫いましょうぜ。高く売れますぜ。」

といやらしい顔を見せる盗賊ら。


日がとっぷりくれてから盗賊らが行動し始める。

その頃あの元教師は森の入り口に居た。


「まだ救出部隊は来ないのか。これじゃ本当に生徒らが・・いや俺は復讐に来たのだ。」

と自分に言い聞かせて召喚の準備を始める。


その頃学園では二つの情報に対応を検討していた。

一つは国王宛の手紙に

【本日行われている学園の課外授業を狙う盗賊の情報あり。】

と言うもので真偽が不明と学園にきた情報と。

もう一つは学園宛の手紙

【本日学園生徒を狙う盗賊あり、魔物の対応もせよ。】

と言うものだった。


これを受けた学園の教師らは

「タチの悪い嘘でしょう。しかし国王からも同じ情報が来ているので、対応しないわけにはいけないので。引率の教師と事前に狩りをした兵士を再度向かわせましょう。」

とか来考えで遅い対応をはじめた。

たまたまそこに学園長が通りかかり

「何をしているのですか?」

とこ聞かれ

「実はタチの悪い情報が・・。」

と事の次第を伝えると、学園長は怒りに震えながら

「貴方達に危機感が無いのですか!直ちに国王に兵士の派遣を要請しなさい。一人でも被害が出れば、学園の責任ではすみませんよ。」

とものすごい剣幕で叱りつけ指示した。

そして自ら森へ向かったのだ。



                 ◇



慌てて兵士が森に着いたのは、既に夜9時を過ぎた頃。

森に入ろうとしてダイアウルフの群れにその行手を塞がれていた。

「なんでこんな森にダイアウルフが居るんだ。」

兵士は狼狽え森に入ることを躊躇していた。


その頃学園長は、森の中にいた。

「確かに不穏な者達が多く居る様です。私だけではこの数を抑える事は無理ですね。」

と一人で来たことを後悔し始めていた。

「せめてあの子だけは守らなければ。」

と思いでシャノンの気配を探る。




               ◇


「いいわね。今からコンを呼び出すからそこを開けて。」

シャノンは召喚魔法でコンを呼び出した、魔法陣が現れ光が収まるとそこに10m程に成長したコンが現れる。


「きゃー。ど・・ドラゴンですわ。」

とサニーが思わず声を出して驚き慌てて口を塞ぐ。


「ここ子は私のペットのコンよ。皆んなそばに来てじっとしてるのよ。」

とシャノンは言うと周囲の気配を探った。

「ここにも盗賊が向かってるは、私が倒すから皆んな動かないでよ。」

と言うとある方向を見ながら魔法を準備する。


そこに10人ほどの盗賊が現れる。

「ここに上玉が10人居るのは間違いが・・・なんだあれは!ドラゴンだと聞いてないぜ。」

と一人の盗賊が叫んだところで

「ドドドドーン」

と落雷の音と光が森を切り裂いた。

盗賊らはその身から煙を出して、一人残らず倒れる。


「しばらくは大丈夫そうね、ここで朝を持ちましょう。」

と。シャノンが言うとまだ事実を飲み込めない皆は呆然と倒れた男達を見ていた。


「シャノン。あの人たちは死んだの?」

とポエムが聞くとシャノンは頷きながら

「みんな聞いてね。あの男達は私たちを殺すか攫うかそして売り飛ばそうとこの森に入ってきてるの。身を守ることができなければ、あそこで倒れているのは自分達かもしれないのを覚えていてね。」

と説明した。


まんじりともしない夜を過ごす生徒たち、所々で悲鳴や鳴き声、男の怒号が聞こえる。

震える皆んなにシャノンは

「私たちは常に危険に晒されていることを自覚して、身を守る手立てを持つ必要があるのよ。今晩生きて森を出られるのは何人かわからないけど、生き残った者はそのことを忘れてはいけないわ。」

と言いながら魔法を放つ。

「ドドン」

倒れる男3人。


「殺さなければ、私たちが殺されるのね。」

と誰かが呟く。声を出すことも泣くことも許されない状況に身寄せて待つだけのみんな。


そこに誰かが近づく

「あれ、学園長みたい。」

シャノンが呟くその前に学園長が一人で現れた。

「シャノン。大丈夫だった?他のみんなは。」

と小走りで近づきシャノンの身体を確認するとドラゴンに気づく。

「ええ!ドラゴン。・・・大丈夫なの?」

学園長の言葉にシャノンが

「ええこの子はコン私のペットです。」

と答える、学園長は興味深そうにコンに近づきその紺色の肌に手を添える


「ドラゴンとここまで接することが出来るなんて。」

興奮したように呟く学園長。


またどこかで悲鳴が聞こえるが、この暗闇では助けるのは難しい。

明るくなるのを待つしか無いとシャノンも思っていた。

長い夜が明ける。



               ◇



朝日が昇り周りが見えるようになってきた。

周囲には、黒焦げの盗賊が20人余り転がっている。

そしてそこに銀色の大きな何かが舞い降りてきた!

「シャノン無事か?」

銀色に大きなオオカミのような生き物背から一人の大柄な若者が降り立ち、シャノンに声を掛けた。

「キャノンお兄様。シャノンは無事です、ここには何故?」

と兄に顔を見てシャノンが尋ねる。


「「「ええ!あれがお兄様のキャノン様。」」」

何人かの声が聞こえた。


「父上から盗賊に殲滅を命じられたんだよ。シャノンは無事だろうから怖がらせた者を生かして帰すな。て言われて。」

と来た理由を話してくれた。


学園長はまた神獣の登場に

「フェンリルが目に前に・・なんて兄妹なの。」

と興奮に震える手でギンを撫でていた。



「さてシャノン。みんなを一旦森の外に転移させるよ。」

と言うとキャノンは皆をひとまとめに集め、転移魔法を発動した。

皆気づくと、森の外にいた。

「ええ!ここは?本当に・・転移魔法を・・。」

皆言葉にならないようだ。



「ではシャノン、皆を頼むよ。僕は盗賊狩りに行くから。」

と言うとギンに跨り飛ぶように森に入っていった。

兄の後ろ姿を見ながら、シャノンは目がハートに輝く多くの少女らに。

「皆んな。まだ終わってないんだよ、知ってる子が怪我したり死んでるかもしれないからね。」

と気を引き締めさせた。


そこにダイヤウルフに囲まれた男が現れた。

学園長が

「貴方は・・・今回の手引きをしたのは貴方ね。馬鹿なことをしたものね。」

と吐き捨てるように言うと、男が

「お前が悪いんだろうが。俺の実力を侮ったお前らが。」

と言いながらいくつかの兵士の首を投げ捨て

「見てみろ!誰も俺には敵わないんだよ。」

と言ったところでシャノンが前に出て

「本当、バカは死ななきゃ分からないのね。こんなお粗末な男が思い上がるなんてライディン侯爵領ではあり得ないわ。」

と言い捨てると

「コン。本当の強さを見せなさい。」

と声を掛けた、転移のため小さくなっていたコンが本来の大きさに戻る。

ダイアウルフ達が怯えて地面に転がる。

「どうしたんだお前たち。あんな小娘の・・!その後ろのはなんだ!・・・ドラゴンなのか。」

と言い終わる前にコンが喰い千切った。



               ◇



キャノンは目に見える盗賊らを息一つする間も与えず切り捨ててゆく。


「オカシラ!おかしいぜ。仲間の姿がだいぶ少ない。やられているみたいだ。逃げましょうぜ。」

と子分がカシラに声をかけるが、

「いや、囲まれているようだ。ガキを盾に突破するぞ。」

とカシラは言いながら少女を左手に掴み盾のようにして進み出したが急に左手が軽くなった。

見ると左手の肘から先が切り取られていた。

「子供はもらった。次はお前の首だ。」

と若い男が目の前に現れ言う。

「誰だ!」

カシラが叫ぶと

「ライディンの息子キャノンだ。お前たちは生きて森を出る事は出来ん覚悟しろ。」

と声を上げると次々に盗賊を切り伏せてゆく。

「助けてくれ。俺は誘われただけだ、何もしていねえ。」

一人の盗賊がそう言いながら武器を捨てたが、キャノンは無言で切り捨てる。

「こいつ呵責がねえぜ。ホンマモンの人斬りだ。」

カシラが観念して座り込むと次の言葉を言わせずキャノンが首を刎ねる。



ーー  襲撃の後始末




今回の盗賊に襲撃で被害を受けた生徒は

・死者15人

・重傷者35人

・怪我人30人

であった。


これを機に学園の教育目的や危機管理に大きな変更が行われたのは当然で、その後ミセール王国が強国と呼ばれる元となる。



しばらく学園は休学となり、長期休みと合わせて6ヶ月の休校となった。


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平民に生まれ変わった男、努力でスキルと魔法が使えるようになった。〜イージーな世界に生まれ変わった。 モンド @mondo823071

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