もふ・もふ
@tonari0407
もふりたい
もふ、もふ
もふ、もふ
「何?」
もふっ
「もふもふじゃない……」
「悪かったな、人間で」
もふ、もふ、もふ、もふ
頭の中でいくら効果音をつけようと、ひまりの彼氏の頭は『もふもふ』ではなかった。少し色素は薄いが黒いストレートの髪、柔らかめの髪質。うん、やっぱり『もふもふ』じゃない。
ここはどうかな?と思い、ひまりは彼の顎に手を伸ばす。休みの日だからといって剃っていない髭は当然『もふもふ』ではなかった。スマホをいじりながらも、されるがままになってくれているところは忠犬のようにも見えるが。
「ざりざりで痛い……」
好きなだけ触っておきながら、ひまりは不機嫌に頬を膨らませた。こんなのでは到底ひまりの欲望は満たされない。
「そんなに『もふりたい』なら猫カフェでもいけば?俺は行かないけど」
視線はスマホに向けたまま、彼氏の
「抗アレルギー剤、もうないもん」
ひまりは猫好きだが、猫アレルギー持ちでもある。手持ちの薬は飲みきってもうない。
「病院行って処方してもらうだけだろ?」
朔也は即答したが、ひまりはそれを拒否した。
「今、花粉症の季節じゃないじゃん。何て言って処方してもらうの?
にゃんこを『もふりたい』から、薬下さいって?嫌だよ。恥ずかしいし、耳鼻科行くといつも痛い目にあうから出来るだけ行きたくない」
ひまりの頭の中に、鼻の中に器具を入れられ苦しくて涙した思い出が浮かんでくる。
「ゴキブリアレルギーでもあるんだろ?そろそろ暖かくなってきたから、ゴキ対策で薬だけ欲しいって言えば?」
「嫌なこと思い出させないで!Gなんてこの家にはいないもん!」
ひまりは以前猫カフェにいった後、酷い鼻炎になり耳鼻科受診をした。そのとき初めてしたアレルギー検査でほぼ全ての項目に陽性が出たのだ。猫が陽性だったのはショックだっだが、ゴキブリにもプラスマークが書いてあって、何故か嫌な気分になった。もし彼らと共存できる身体であってもそれも嫌だが。
「じゃあ、行けないな。『もふもふ』は諦めろ。俺は夜通し隣で鼻水啜られるのも、酷くなってから病院連れてくのもごめんだから」
朔也の声が冷たくて、ひまりは彼の腕の毛を擦った。
さわさわ、わさわさ
髪の毛よりも柔らかくて、まばらに生えた毛の触り心地は、肌の温かさも相まって思ったよりは悪くなかった。そのまま、触り続ける。
さわさわ、わさわさ
「くすぐったい」
そう言われ、腕が遠ざけられた。
「そんな殺生なー」
ひまりが悲しい声を出すと、朔也がスマホの画面を目の前に出す。
画面を見ると、有名な動画サイトが映し出されていた。ひまりの好きそうな動物を検索してくれたらしく、動物の動画が一覧で並んでいる。
「さっくんー」
言ってくる言葉自体は優しくないが、行動は優しい。ひまりは朔也のそういうところが好きだった。
「ここの動画と今から何か触り心地が『もふもふ』したもの用意してやるから、あとは得意の妄想でその欲望何とかして?」
こうして、ひまりの『もふもふ』が始まった。
もふ・もふ
【追記】
この作品のイメージを表現したイラストを近況ノートに載せています。がっかりしても良い方は覗いてみてください。ここまで読んでいただきありがとうございました!
https://kakuyomu.jp/users/tonari0407/news/16817139555467325936
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