転生先は彼女の妹でした?!

しゅう

幸せな日々

 高校三年の夏、受験勉強で忙しい中でも可愛い彼女がいて幸せな日々を送っていた。とは言っても夏休みはやはり受験勉強の大詰めだったから家にこもってろくにデートもできない日々が続いていた。

 勉強の合間に気分転換にベランダにでて外の景色、蝉の声、むしむしした夏特有の空気を堪能していた。

「おーい、なにしてんのー?」

 どこからか天使の響きがあった。ふと下を見ると彼女が僕を見て微笑んでいる。あぁ、今日も可愛いな。この子と付き合えているのだから幸せ極まりない。

 自己紹介が遅れたが僕は神田裕二。そしてちょうど今日で付き合い始めて半年になる彼女が石田麻紀。

「おー、麻紀ー、気分転換ー」

「そかそか!ちょっとお邪魔してもいいかな?」

「あ、おう、いいよ、上がって上がって!」

 そう言って僕は一度家の中に戻り、玄関に足速に向かう。直前に服装は乱れてないか、だらしない顔をしていないか、鏡で確かめてから玄関を開けた。

 やはり遠目よりかは近くで見た方が可愛い。そして私服姿もなんとも素晴らしい。麻紀はどんな服を着ても似合ってしまう上声も天使だから学校でも人気は凄かった。幾人にも告白され毎回断っていた。それでも断られた人も嫌な顔ひとつせずに彼女の前を去っていくものだから果たして一体どんな断り方をしているのかどうかが個人的にはかなりの疑問点ではある。しかしながら断る方はその限りではなかった。彼女の精神は日に日にすり減っていった。モテることそれ自体は良いけれど断る時にはとても辛いのだという。自分のことを精一杯想ってくれている相手のその気持ちに一切応えられないのだから。

「それなら次告白されたら付き合っちゃえばいいんじゃないの?」

 僕はさりげなくそう彼女に進言してみたが彼女は首を横に振るばかりだった。どうしてか聞いてみても答えてはくれなかった。

 僕は麻紀とある程度近しい関係であるというのは否定できない。いわゆる幼馴染というやつだ。

 小さな頃から家が近くて、親同士もとても仲が良かった。だからこそ毎日のように彼女と遊んでいた。

 彼女は気が強そうに見えて実はかなり脆い。だから僕が彼女を守るんだとその時に思っていた。彼女は年齢を重ねて今に至るまでどんどん打たれ強くなっていって僕が守る必要がないように感じていた。

 でも彼女は彼女のままだった。あらゆる意味で。

 気丈に振る舞っていてもそれを隠し続けている彼女、隠し続けることに疲弊し続ける彼女をずっと見ていられなかった。その気持ち一つで彼女に突拍子もないことを言っていた。

「麻紀がそんなに辛いのを僕は見たくないよ。それなら僕が麻紀の彼氏になる」

 一瞬目を丸くした彼女は両目から留めどない涙を溢れさせて言った。

「うん。よろしくね、裕二」

 もう一度顔を上げて僕を見つめる彼女は笑顔だった。


「どうしたの?私の顔に何か付いてる?」

 首を傾げる彼女に僕は答えた。

「あ、いやちょうど今から六ヶ月前のことを思い出してた」

 彼女は目を見開いて唖然としていた。

「まさか裕二が半年記念日を覚えているだなんて…明日は雪が降るのかな」

「大袈裟だって。そんなに僕が覚えてたのが意外?」

「そりゃそうだよ。でも嬉しいな」

 幸せそうな麻紀を見ていると僕も幸せになる。


 ちょうど昼時だったこともあって麻紀が料理に腕を奮ってくれた。前にも一度食べたことがあるが、麻紀の料理はとても美味しい。特に得意なのがパスタ料理だ。この前はペペロンチーノを作ってくれた。絶妙な塩加減とちょうどいい唐辛子の辛さ。単純な味だからこそ美味しく作るのが存外難しいものだが、麻紀の作るペペロンチーノはそれはもうほっぺたが落ちるということわざの通りだった。

 今日も彼女が作るパスタを楽しみに待つとしよう。

「麻紀ー、今日は何を作るの?」

「今日はカルボナーラ。確か裕二好きだったよね?」

 その通り。よく覚えていらっしゃる。彼女は見た目はもちろんのこと運動神経抜群、その上学力も並大抵ではない。記憶力もかなりのものだ。羨ましい限り。

「お!いいね、それ!麻紀のパスタは全部美味しいから期待しとくね!」

 対して僕は容姿もイマイチ、運動神経は並以下、唯一学力だけは平均以上という冴えない高校生。料理もあまりしたことがないから僕が作ると本当に酷いことになる。今は彼女が料理全般全てをこなすつもりでいるようだが、今後のことを考えるとそうもいくまい。何かできることを手伝うことはいつでも大事だと思う。

「麻紀、何か手伝えることは?」

「んー、今日は特にないかな。食べ終わった後に食器片付けるのを手伝ってくれたらそれでいいよ」

「了解」

 今は特にすることがないというので僕は麻紀が料理をするところをじっくり見学することにした。なんともエプロン姿も美しい。最高。ってそこじゃない。手際を見ないと…。そう思いつつ僕の視線は彼女の手元ではなく彼女そのものに吸い寄せられていく。やはり彼女はいつも綺麗だ。


「「いただきまーす」」

 まず見た目が素晴らしい。綺麗なクリーム色。盛り付けられたパスタの上に置かれる生卵は動かないようにあらかじめパスタにくぼみをつけてある。生卵くんは安心してそこに居続けることができるというわけだ。そして香り。ほんのり香るチーズの匂いがまたたまらない。視覚的にも食欲を刺激される彼女の料理はどの点から見ても素晴らしいという他ない。

 一口口に入れた途端に広がる濃厚なチーズの味。そしてそのチーズとベーコンの味が喧嘩をしないどころか上手く調和を保っている。

 一口食べたあとにすぐに次の一口が欲しくなる。そんな味。ゆくゆくはレストラン経営も夢じゃないかもしれない。


「「ごちそうさまでした」」

 二人して満足したところで後片付けにかかる。僕は食器を洗う担当。彼女は洗ったさらを拭いて食器棚に戻す担当。やはり手際が良い。


 昼食が終わったところで、僕の部屋で勉強を見てくれるという。学力の面でも彼女は僕とは比べ物にならないほど頭が良い。実は彼女が志望する大学もほとんど合格間違いなしといったレベルで、彼女の空き時間に僕の勉強を見てくれることもしばしばなのだ。その上教えるのもとても上手いからすんなり理解できる。今日のノルマが終わったところで彼女は家に帰るらしい。

「麻紀、今日はありがとね」

「いえいえ、こちらこそ。楽しかったよ」

「んじゃあまた」

「うん、お邪魔しました」

 そう言って笑顔で彼女は帰路についた。

 彼女の背中が見えなくなるまで見送ってから家に戻った。

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