第5話 それは坊やだからさ

 この世界にやってきて五年間、あるジレンマを抱えている。


「俺は弱い……」


 今日も村長の息子ダランとその取り巻きに袋叩きにされた。十歳と五歳という差は普通に考えたら大きい。しかし、ここは異世界であり中身は三十二歳のおっさんという事もあり「意外にいけるんじゃね?」と安易に思ってしまい、つい売られた喧嘩を買ってしまうが、段々と自分の弱さを自覚していった。


「生意気なんだよ!! ちーび!!」


「「泣けよ! ほら泣けよ!!」」


 ゴン! ゴン! ゴン!


「ガキども! そんな小さい子を虐めて何が楽しいんだい!」


「いってぇ〜」


「「うぅぅぅ……」」


「げっ! マリエラだ! おいお前ら行くぞ」


「ま、待ってよ〜ダラン様ぁ〜」


「女に助けられて情け無いやつ!!」


 ダランと取り巻き達は足早に逃げて行った。


「坊大丈夫かい?」


「マリエラさん……ありがとう……」


「この村はさ……腐ってるねぇ、子供同士とはいえ限度はあるさ」


 この村に生まれ五年間、この世界はハードモードだなあとゲーム感覚で過ごしてきたので当たり前のように受け入れていた。よくよく考えてみれば確かに異常だった。知らない間に洗脳されていたのだろうか慣れって怖いな。


「小さな子が殴られているのにまわりの大人はそれを見てニヤニヤしながら楽しんでやがる! そろそろ潮時かねえ……」


「!? マリエラさん? ……この村出て行っちゃうんですか?」


 マリエラは何も答えず優しい顔で頭を撫でてくるだけだった。


「強くなりたい……」


 強さへの渇望、ゲーム内ではあったがこの世界へ転生する前の栄光が頭にチラつく。


(ここは異世界だ! 弱肉強食の世界! ならば強さを手に入れて蹂躙するまでだ!)


「坊よ……五歳児らしくない表情をするんじゃないか」


「マリエラさん! どうすれば強くなれますか!?」


「バカを言いな! 五歳児は五歳児らしくその辺で能天気に遊んでりゃ良いんだよ!」


「なんで!?」


「それは坊やだからさ」


(!!シャ、シャ……)


「でも……そうさねぇ、坊は賢い子だから一つだけ教えてあげようじゃないか」


「はいっ!(ついに強さを手に入れるためのロックが解除キタァァ!)」


「それは心さ」


「……心(精神論かよ!)」


「折れない心は何よりも強い! それが奇跡を起こすのさ」


 さすがに五歳の子供に詳細な身体の鍛え方や戦い方を教えてはくれないようだ。


「あ、あの……」


「なんだい坊?」


「精神論は良いので、戦い方を教えて下さい」


 クロウの思いのよらない提案にマリエラの目が点になる。それと同時に背中に冷たい汗が流れ込んだ。


「戦い方を知ろうなんざ十年早いよ! ほらっ! さっさと行きな!」


「はい……」


 マリエラに叱られたクロウはトボトボと家の方へ歩いていくのだった。


「末恐ろしい子だよ……五歳児とは思えない胆力、折れない心、そして大人以上の知性を持つ異端児……そりゃ大人は怖くて近寄れないさね……」


 マリエラのクロウに対する優しさは興味本意という側面が強い。算術ができ、理解力が高く、敬語を使う五歳児は世界中を探しても居ない。


「転生者ねぇ……噂では聞いたことあったけど本当にいるとはねぇ。五歳児で既に称号持ちって……どんな世界から来たんだい坊よ」


 クロウ(転生者)

 種族 人族

 スキル      表示できません

 エクストラスキル 表示できません

 職業       表示できません

 能力       表示できません

 称号 暴虐の支配者


「唯一の救いは、坊がまだ人族だって事だね……こんな称号……魔族として生まれていたら……あんただよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る