攫われ少女と護衛冒険者
健杜
第1話 鎖
「ライト・オブ・ソード」
光で強化された剣で、自分より大きな魔物を切り裂く。
魔物は何の抵抗も許されずに、首が胴体と分かたれて活動を停止する。
それを確認した銀色の髪の少年は満足した様子で呟いた。
「これで依頼は完了だな」
少年の名前はフェイと言い、近くの街にやってきたばかりの新米冒険者で、今は魔物の討伐任務をこなしたところだった。
「売れそうな素材はあんまないみたいだな。【ファイアーボール】」
カバンからナイフを取り出し、討伐証明となる部位を剥ぎ取った後、火の下級魔術で魔物の死体を燃やす。
魔物は生命活動を停止すると、これまで硬かった皮膚が嘘のように柔らかくなり、下級の火の魔術で簡単に燃やせるようになる。
必要な部位を剥ぎ取った後は燃やすのが、冒険者のルールとなっている。
「剥ぎ取りも終わったし、コルデーに帰るか」
コルデーは王都から遠く離れた街で、土地の魔力濃度も低いのでかけだしの冒険者が多く集まる町だ。
魔物は土地の魔力から誕生し、その魔力濃度が高ければ強力な魔物が生まれ、魔力が多ければ多くの魔物が誕生する。
放っておけば街に魔物が侵入してきてしまうので、その前に駆除するのがフェイ達冒険者の仕事だ。
「任務無事終わりました」
街へ戻り、冒険者協会で報告をする。
証明となる魔物の部位の入った袋を受付の人へ渡す。
「フェイさんお疲れさまです。冒険者になりたてというのに、お強いですね」
渡された袋から任務対象の魔物の部位を確認している茶髪に黄色の瞳の女性は、協会の受付のティアという。
この街で人気の受付であり、フェイも初めてきたときは色々なことを教わったものだ。
「ありがとうございますティアさん。冒険者になる前に師匠にしごき倒されたので、下級の任務くらいなら一人でこなせます」
冒険者協会には下級、中級、上級、特級の四つに任務の難易度が別れており、同じ階級の冒険者しか受けることはできない。
今回受けた任務は下級の任務で、フェイは最近この街で冒険者になったばかりなので下級の冒険者だ。
「そんなに強いなら、中級の任務も受けてみてはどうですか?」
「それもいいですね、今度受けてみます」
「はい、楽しみに待ってますね」
冒険者協会の仕組みで一度だけ中級や、上級の任務を受けることができ、見事達成すればすぐにその階級になることができる。
失敗しても、下の階級の指定された種類の任務を規定回数達成すれば、上の階級の認定試験を受けることができる。
だがフェイは、自分の強さがどのくらいなのかを確認するために、まずは下級の任務をこなしている。
「討伐対象の魔物の部位を確認できましたので、記録しておきますね」
「お願いします」
任務は協会の方で記録されているので、自分で何を何回達成したかなどを覚えておく必要はない。
「すみません最後にお願いがあるのですが、聞いてもらえますか?」
「いいですよ。ティアさんにはお世話になっているので、俺にできることなら聞きますよ」
「ありがとうございます」
先程までのにこやかな表情が深刻そうな顔に一変して、ティアは話し始めた。
「最近近くの森で、初心者狩りが行われているようなんですよ」
「初心者狩り?」
「はい、薬草採取などの下級の任務を行っている冒険者の方を狙って、襲う事件が最近増えているんです。どうやら鎖の能力で不意打ちをしてくるそうです」
この街は下級の冒険者が多く集まっているので、そんな出来事があれば彼らは迂闊に任務をこなすことができなくなってしまう。
先程お願いと言っていたので、この話をフェイにするのはただの注意喚起ではないだろう。
「それで、俺は何をすればいいんですか?」
問題の深刻さを理解したフェイは単刀直入に訊ねた。
「フェイさんにその初心者狩りをどうにかしてほしいのです」
「どうにか? 捕まえるとかではなく?」
普通このようなことが起きれば、犯人を捕まえて冒険者協会の方で処罰を下すはずなのだが……。
「はい、私も疑問に思ったのですが、その犯人が少し不思議なんです。痛めつけたりはするのですが、誰も殺さず、荷物を奪ったこともないんですよ。それがあってか、会長がこの街で悪さをしなければ捕まえる必要はないと、おっしゃったんです」
「そうだったんですね」
会長はこの街の冒険者協会で一番上の人間であり、基本的に会長が決めたことは絶対だ。
「それで、この問題をフェイさんに依頼しろとおっしゃったのも会長です」
「会長が?」
「はい。会長はフェイさんの実力を最低でも中級以上はあると考えているようでなので、実力は中級なのに下級の冒険者のフェイさんが適任と言っていました」
確かに、下級の冒険者を狙っているのならフェイもその対象に入る上に、最近この街に来たばかりで顔も、実力も知られていないフェイが適任だろう。
「わかりました。その依頼受けます」
「ありがとうございます。ですが、決して無理はしないでくださいね。危険だと判断したら、すぐに逃げてくださいね」
「心配ありがとうございます。早速森に行ってきますね。すぐに会えないかもしれませんが」
今日はこの後の予定はなかったので、すぐにでも向かえる状態だった。
それに、実力を期待されていると知ったので、嬉しくなっているのもあった。
「では、行ってきます」
「気をつけてください。それと、街に戻ったら安否確認のためにここに顔を出してください」
「わかりました」
返事をしてから協会を出たフェイは、荷物を確認してすぐに街を出た。
森は街から一時間ほど歩いたところにあり、任務がなければ立ち寄ることはあまりない場所だ。
「今のうちに身体強化しておくか。ライト・オブ・アーマー」
光が体を包み、身体能力と防御力が上昇する。
皆、八歳の誕生日を迎えると特殊な能力を授かり、人々はこれを神からの祝福と呼び、感謝している。
フェイの能力は、光を使った強化能力で、自身の肉体や武器、行動など様々なものを強化することができる。
「準備運動がてら、走っていくか」
身体能力が上昇したフェイは、あっという間に森へたどり着いた。
「周囲を見すぎると、向こうに警戒されるかもしれないから、一度罠にかかったほうがいいか」
相手は鎖で縛ってから攻撃をしてくるという話なので、一度捕まって油断を誘う作戦を決めたフェイは、薬草を袋に入れる作業を始めた。
そして、作業を始めて数十分ほど経った頃、目的の人物が現れた。
突然金属音が響き渡ると、足元に魔法陣が現れ、そこから鎖が伸びてフェイの体に絡みついてきた。
フェイは脱出しようと試みるが、生半可な力では引き千切ることは困難だった。
「また馬鹿な初心者がいるな」
フェイを馬鹿にする声と共に一人の男が木の陰から現れた。
黒髪に黒い瞳の男で、腕からは鎖が垂れていた。
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