第19話 理解し合えない

ユニの声が頭の中に響く。


『覚醒による”名捨て”で契約魔法が無効化されたみたいだな。それに気づいて、モドキ達がこっちに向かってくるぜ。』


…シーラ=マクスウェルという存在が無くなったから、契約も無かったことになったということか。…


屋敷の方に目を向けると、目の前の空間が歪み、転移門が発生した。


ヴゥン―


…執事モドキが復活したか。…


転移門から、軍師のレイドックを先頭にして次々に兵士達が現れる。


最後に、3モドキ(父親モドキ、母親モドキ、兄モドキ)が現れる。


兵士を含め現れた全員が、成長した私の姿を見て息を呑んだ。


その状況のなか、レイドックが私に近づき一礼する。


「シーラお嬢様。神級の加護が覚醒したものとお見受けします。マクスウェル家一同、およろこび…も…う…


―「黙れ。」


言霊

―璃空刻幡―


羅漢が声を発した瞬間、レイドックが地面に縫い付けられた。


ギシッ…ミシッ…―


レイドックが悲鳴をあげる。


「ウギャァァァッ…!」


羅漢が三又槍を振り上げる。


「苦諦様を穢れた名で呼ぶな。虫けらが。」


―『待て。』


三又槍を振り下ろす羅漢を念話で制し、レイドックに話しかける。


「レイドック。”私に関わらない”って約束はどうしたの?」


なんとか上半身を上げたレイドックが声を絞り出す。


「…お、お嬢様。あ、貴方様は覚醒者であらせられます。も、もはや、国中が…いや世界中の人間が貴方様と関わることを望んでおります。と、当家といたしましても、是非とも貴方様との縁を結びたいと考えています。」


…くだらない。…


「答えになっていない。約束を”守る”か”守らないか”の話をしている。」


レイドックは、私の表情を見て悟ったのか、力無く俯いた。


「う、うぐぅ…」


兵士達が整列している後方でモドキ達のわめき声が聞こえてくる。


―「何をやっているッ!早くシーラを捕らえよッ!”神殺し”の使用を許可するが、殺しはするなッ!」


―「シーラは悪魔にとりつかれているわッ!早く捕まえてッ!」


―「兵どもよッ!あの小娘を捕まえろッ!王族としての命令だぞッ!」


声に魔力を込めて、最終勧告を通達する。


言霊

―以心伝心―


―『お前達に願うのは、“私と関わらない”ことのみ。このまま退くのであれば、大人しくこの地を去ろう。もし、退かないのであれば、この地が塵芥に変わることを覚悟してもらおう。』―


”塵芥にする”という明確なイメージを、言霊に乗せて一人ひとりに送り込む。


『逆効果だったみたいだな。』


ユニの言葉どおり、兵士達からは恐怖と怒りの感情が向けられてきた。


…最低限のことも理解し合えないのか。…


視界先で父親モドキが剣を天に掲げていた。


―「“神殺し”を最大出力で放てぇッ!」


父親モドキが合図を送ると、兵士達が大砲型の魔導具を起動する。


キュィィィィィン―


大砲型の魔導具は、周囲の魔力を吸い上げながら巨大な魔法陣を展開し始めた。


古代魔導兵器

―ゴッドイーター―


ドゴォォンッ―


爆音と共に巨大な砲弾が私達に向けて発射された。

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