第11話 処分

鎖に巻き付かれ床に伏しているセボンとその姿を見下ろす私を見て、クリスは混乱している様子だった。


「これはどのような状況ですか?」


…ヒビが入っていたとはいえ空間魔法に干渉した…?…


「この執事モドキから襲われたから返り討ちにした。誰もいない地下に誘い出して秘密裏に私を始末するつもりだったとしか考えられない。」


驚いたクリスがセボンを睨んだ。


「執事モドキ?…セボン…。どういうことだ?」


セボンは俯きながら力なく答える。


「…シーラお嬢様がマクスウェルを名乗るに相応しいか私がテストいたしました。」


“ピキッ!―


クリスの周囲の温度が急速に冷やされていき水蒸気が発生する。


「誰からの指示だ?」


…クリスは知らなかった?…


…まあ、どちらでもかまわないけど。…


「…旦那様です。しかし、旦那様からは”力量を測れ”としか言われておらず、テストの内容は私の判断です。」


クリスはセボンに近づき、頭の上に足を乗せる。


ドスッ―


「シーラお嬢様の力量は常時纏っている身体強化のオーラを見ればわかるだろうッ?いったい何をテストしたかったのだ?」


ガスッ―


「…ぐふ…、あ、ある程度の実力をお持ちであることはオーラを見て分かりました。しかし、治癒魔法の力量は実際に傷を癒してみせてもらわないとわかりません。」


ガスッ―


「それで、シーラお嬢様に傷をつけて傷を癒すところをみたかっただとッ?ついでに、戦闘力も図れて一石二鳥だとでも思ったのかッ!ふざけるのも大概にしろッ!素質があるとはいえ、治癒魔法の訓練も受けていない幼子に何がテストだッ!6年間も放置し、連れ戻してみれば暗殺紛いの襲撃を行い、いったい何がしたいのだ?治癒魔法をみたいのであれば、訓練で傷を負った兵の傷を癒してもらえば良いだけのことだろう。腐った言い訳をするなぁッ!!!」


ガスッ―


「…ぐぅ……。」


ドカッ!!!―


沈黙したセボンを蹴り飛ばすと、クリスは私の前に来て跪いた。


「シーラお嬢様、申し訳ございませんでした。手違いがあったようです。これから、お部屋にご案内いたします。」


…うやむやにはさせない。…


「ここでは手違いで、命を狙われるの?農場でも、閉じ込められていきなり刃物で攻撃されることはなかった。」


少し強めの口調で質問すると、クリスは慌てた様子をみせる。


「い、いえッ!そのようなことはございません。この執事が独断で行ったようです。この執事は、私が処分いたしますので、どうぞお許しください。」


…ここで見逃して、対策をたてられて再度襲撃されたら厄介。今回は相手が油断してたから良かったものの、次はどうなるかわからない。…


「処分するなら、私が”もらう”。ちょうど、空間属性魔法が欲しかったから。」


“もらう”という言葉にクリスが反応する。


「恐れ入りますが、“もらう”とはどういうことでしょうか?」


私は左手に巻き付けている鎖をクリスに見せる。


「この鎖で繋いでおけば、常に私に空間属性魔法を供給する道具になる。」


私の言葉にクリスとセボンが絶句する。


「「なッ…。」」


…空間属性魔法を直接吸収したおかげで空間魔法スキルは取得できた。レベルはまだ低いけど、闇魔法と組み合わせれば、複雑な魔法陣でも展開は可能。…


「それに、この鎖には隷属の効果もある。さっき、1%の力も出していないのに立っていられないくらい苦しんでいたから、30%くらい出力をあげれば、確実に自我が崩壊すると思う。そうしたら、時間停止の空間に繋いで、レベルが上がりきるまで空間属性魔法の供給源になってもらう。もちろん、レベルが上がりきったら処分する。」


単なる脅しではないことを悟ったセボンが声をあげる。


「あ、あれで1%…。ま、待ってくださいッ!貴女様だけに忠誠を誓いますッ!だから、どうか…うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


…今さら怖じ気づいたか。…


「今さら遅い。」


鎖に魔力を流し込み隷属の効果を高めるとセボンは頭をかきむしりながらのたうち始める。


…やはり、邪魔するのか。…


スパッ!―


クリスは腰に下げていたロングソードを抜き、鎖を断ち切っていた。


「シーラお嬢様、申し訳ありません。これでもマクスウェル家の使用人。処分するためには、当主様の許可が必要になります。」


…ロングソードに氷属性魔力と身体強化オーラを混ぜたものを纏わせて鎖を断ち切ったか。魔装かそれに限りなく近いものだ。…


疲労困憊の様子のセボンが、私と目が合い小さな悲鳴をあげる。


「ゲホッ…ゲホッ…。…ひぃぃぃぃッ!」


…自我は崩壊しなかったけど、精神に深いダメージは入ったか。…


パチンッ―


私が指を鳴らすと、周囲を包んでいた空間が一瞬で飛散した。


「こ、この空間はシーラお嬢様のモノだったのですか?」


私は鎖の断面を確認しながら答える。


「この執事モドキが造った空間を奪い取っただけ。それより、雇い主のところに処分の許可を貰いに行くんでしょ?処分は私に任せてもらえるようにお願いしておいて。」


我にかえったクリスが慌てて返事をする。


「え、あ、はいッ!」


…気持ちが悪い。…

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