第9話 マクスウェル家

馬車が大きな邸宅の前で停まると、クリスが立ち上がり、手を差し出した。


「シーラお嬢様。マクスウェル家に到着しました。さあ、こちらへ。」


クリスの手をとり、馬車から降りると大勢の使用人達が出迎えていた。


―「「「お帰りなさいませ。」」」―


…人間がこんなに。気持ちが悪い。…


ぎこちない笑顔をなんとか維持しながら、使用人達の前を通りすぎていくと、邸宅の出入口に豪華な衣装を纏った私と同じ髪色の男女が立っていた。


男は長身短髪で冷酷な印象であったが、非常に顔が整っていた。


女は男とは反対にウェーブのかかった長髪で穏和な印象で、こちらも非常に顔が整っていた。


…親か…。思い出すこともなかったから、すっかり顔を忘れてた。…


男が険しい表情で近づいてくると、私の目の前に立ちどまり鋭い視線をぶつけながら言葉を発する。


「よく帰ってきた。これからは、マクスウェル家の一員として励め。」


…ほぼ初対面の我が子に向ける視線と言葉じゃない。でも、感動の再会なんて演出されなくて良かった。…


私は馬車の中で学んだカーテシーをしながら当たり障りの無い返事をする。


「ありがとうございます。これから、精一杯努力していく所存です。」


…ここを出ていく努力をね。…


男は満足したのか、静かに頷くと邸宅の中に向かって歩き始めた。


「フフ。シーラがあまりにも立派に成長していたから照れてるのよ。」


今度は、男の隣にいた女が近づいてくる。


女は私を抱き締め、頭を撫でてきた。


「シーラ。お帰りなさい。寂しい思いをさせたわね。」


…気持ち悪い。…


吐き気を抑えながらなんとか言葉を発する。


「…はい。」


女は、暗い表情で後ろに控えていたクリスに気づいた。


「クリス、どうしたの?」


クリスは決心した様子で真っ直ぐ女の目を見つめた。


「システーニャ様。シーラお嬢様のことで至急報告したい内容がございます。」


クリスの言葉にシステーニャと呼ばれた女の表情が変わる。


「国にいたときから専属で仕えていてくれる貴女のそんな表情は久しぶりに見たわ。良いわ。すぐに私の部屋で報告を受けましょう。まずは私だけ話を聞いた方が良いのよね。」


クリスが頷くと、システーニャは後ろで控えていた執事風の男に指示を出す。


「シーラをお部屋に案内してちょうだい。分かっていると思うけど、シーラはマクスウェル家の長子よ。私と同じように最大限の敬意をもって接してちょうだいね。」


執事風の男はキレイな所作で一礼すると、私に声をかける。


「わたくしは執事のセボンと申します。それではシーラお嬢様。こちらへ。」


私はセボンに連れられて、邸宅の中へと進んでいった。


…気持ちが悪い。…

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