第36話

【クグツ視点】


 もう少し、もう少しでクレアで遊べる。

 ひっひっひ、興奮が収まらない。


 紋章がなじむ前に遊んでも紋章が定着しない。

 早く、早く堕としたい!


「クグツ様!マイルド王国の兵が城に向かってきます」

「兵数は?」


「約千です!」

「私の軍と同程度か。何を考えている?城攻めにはこちらの兵の3倍の兵が必要になる」


「敵はどこに向かっている?」

「真っすぐ防壁の門に向かっているようです」


「クレアを手に入れたからか?ふ、クレアの人望は高いようだ。だがおかげでクレアを助けるつもりで死にに来てくれるか。敵は防壁を超えられないだろう。たとえ超えたとしてその瞬間に大量の魔物に囲まれる。防壁の上から矢の雨と攻撃魔法を浴び、疲弊した状態でなぶり殺しにされる未来しか見えんな。ひっひっひ!攻城戦は守る方が圧倒的に有利なのだ」


 攻城戦を仕掛けるなら強固な門を破壊する必要がある。

 だがその間防壁の上にある安全地帯から矢の雨を浴び続け、魔法の的になり続ける。

 一方こちらは矢を放たれたら防壁の壁に隠れ、矢を打ちながら守るだけで良い。


 しかもだ、ようやく防壁を超えたとしよう。

 すると防壁の内部には大量の魔物がいる。

 私の使い魔が皆を包囲して殲滅するだろう。


 そして万が一それさえ突破しても今度は城攻めがある。

 こちらは門を閉ざして窓から矢を射ればよい。

 向こうに矢を跳ね返すだけの重戦士もいるにはいるが、城にたどり着いたとして、その重鎧が今度は邪魔になる。

 数が減り、孤立して囲まれ、更に重鎧でスタミナを奪われた状態で動けなくなり倒れる。


 城門も紋章魔法で強化しているのだ。

 門を破壊する事が出来ず奴らは全滅するだろう。


 こちらの防衛網は幾重にも張り巡らされている。

 その隙にクレアを壊して遊ぶとするか。





【ゲット視点】


 俺達は城の防壁にたどり着いた。

 クグツの元にたどり着くには、防壁の門を破壊し、防壁内部の魔物を倒し、更に城の門を破壊して内部に突入する必要がある。


 門は木で出来てはいるが、魔法で強化処理が施されており固い。


 エステルが不安げに話しかけてくる。


「ゲット、お願いしますわね」

「分かった。皆にはおとり役をお願いする事になる。短い時間だけ耐えてくれ」


「「うおおおおおおおおお!」」


 副隊長の男が声を上げる。


「総員!突撃いいい!」


 兵が門に向かって突撃する。

 防壁の上から矢の雨と魔法が飛んでくる。


 俺は盾で矢を防ぎつつ門に迫った。


「皆!離れていてくれ!使うぞ!」


 兵士が俺と門の間を空けた。


「エクスファイア!」


 炎の上級魔法で一気に門を破壊した。

 作戦なんて立派なものじゃない。

 ただの力押しだ。


 エクスファイアを使えることをクグツは知らないだろう。

 上級魔法を使える者はあまりいない。

 エクスファイアを使えるだけで国に高待遇で迎え入れられ、特別扱いされる。


 俺は長い間表舞台には出ず、ただ力を蓄えてきた。

 盗賊を倒し、その後魔物を倒しはしたが、それは最近の話だ。


 竜の炎に例えられるエクスファイアを見て敵の動きが鈍くなった。

 それはそうだろう。

 もし俺がエクスファイアを敵に撃てば、1撃で相手を焼き殺せる。

 敵は俺が何発エクスファイアを使えるか知らない。


 死ぬかもしれないと言われて最初に俺に近づく者はよっぽどの変人だ。

 だが、例外もある。


 防壁の内部には大量の魔物がいる。

 女兵士と違って魔物はクグツにとって使い捨ての道具だ。


 命を捨ててでも敵を倒すよう奴隷紋の力で強制されている。

 これがクグツの力だ。


 魔物が我先にと俺に襲い掛かって来る。

 好都合だ。


 まとまって襲い掛かってきてくれて助かる。


「エクスファイア!」


 お前らはエクスファイアの餌食だ。

 エクスファイアの炎で数百の魔物を焼き殺した。

 一気に魔物を焼き殺せたのは大きい。

 魔物が減った事は後々の戦いに響いてくる。


『レベルが50から51にアップしました』


 その後を続くように兵が後ろから俺を追い越して城に迫った。


 エクスファイアはあと1発しか使えない。

 一発撃つだけで100MPを消費する。

 残りは城の門に使う。

 それまでは使えない。


 俺は門に向かうが魔物に囲まれる。


 突撃してくるゴブリンを盾で防いでメイスで殴り倒す。


 何体倒しても魔物が集まって来る。


「くそ!邪魔だ!」


 オークをメイスで倒す。


 魔物を倒しても俺が前に進むのを止めるように新たな魔物が道を塞ぐ。


「ゲットの道を作れ!!」


 副隊長の男が叫び、傷を負いながら兵を指揮する。


「私もいるにゃあ」


 アリシアが素早く魔物を倒す。

 全力で動き、無理をしているのが分かった。


「早く行くにゃあ!」


 俺はみんなが作ってくれた道を前に進んだ。


「エクスファイア!!」


 城の門を焼き壊した。


「「うおおおおおおおおお!!」」


 門を壊した瞬間に歓声が上がる。


「総員!突撃いいいい!!」


 副隊長の言葉で城の内部になだれ込む。

 この場所は乱戦状態に陥っていた。

 もう、エクスファイアは使えない。


『魔法だけではいかん。盾とメイスも鍛え続けるんじゃ』


 ゼスじいの言葉を思い出す。


「ゼスじい、魔法を使えなくても、メイスと盾で戦えそうだ」


「クグツを倒すのはこの俺様だああ!!」


 勇者ダストが城に向かって走る。

 今まで隠れていたのか元気がいい。

 息が上がる俺達とは反対に余裕で城の中に滑り込むように入っていった。


 ダストの卑怯な動きにメイスで頭を殴りたくなる衝動に駆られた。

 だが今は、クレアを助ける。


 もし、ダストがクグツを倒せるならそれでいい。

 俺は!クレアを救出する。


「早く行くにゃあ!」

「行きますわよ」


 アリシアとエステルが俺の横に立った。


「はあ、はあ、そうだな。行こう」


 俺達は城の中に入った。

 走って城に入り、エクスファイアを3発使った。

 MP不足もあり、疲れがで始めていた。




【クグツ視点】


 私はクレアの元に向かった。




「ひっひっひ、奴隷紋の効き目はどうだ?」

「く、殺しなさい!」


 ビキニアーマーと、鎖でつながれたその光景が何とも美しい。

 褐色の肌と、白いビキニアーマーのコントラストが際立ち、私を興奮させる。


 奴隷紋を見ると、半分仕上がっていた。

 

「ふむ、あと半日と言ったところか。だがもう、はあ、はあ、我慢できないな」

「やめ、やめなさい!」


 ガシャンガシャン!


 これだこれ、私がビキニアーマーに手をかけようとした瞬間のこの顔!

 騎士の顔から女の顔に変わる。


 もっとだ。

 もっと恐怖を与えたい!


 ドゴオオオオオオオオン!


「なん、だ?」


 その瞬間クレアの表情が和らいだ。


「クレア、何を知っている?何を考えた?何を考えて安心した!?」


 そこに兵が入ってきた。


「報告します!敵が城に侵入しました!」

「さっきの音は何だ?」


「エクスファイアを使う敵がいるようです!城の門を一瞬で破壊されました!」

「私が紋章で強化した扉を一瞬で破壊したのか!」

「はい!一瞬で破壊されました」


「更に、勇者ダストが城に侵入し、暴れ回っております!」

「勇者の仕業か!?」

「いえ、エクスファイアを使った者は違う者のようです」


「そいつは何だ?」

「わ、分かりません」


 なんだ?何が起きた?

 この国の情報は調べ上げている。


 両手剣の女剣士クレア。


 勇者ダスト。


 南に隠居したゼス。


 力をつける可能性がある者はすべて頭に入れてある。

 この国に来てからも斥候を放ち情報を集め続けた。


 この国に来てから重要な情報は、クレアの美しさだけだと思っていた。


 今まで野心も持たず力を蓄え続けた者がいたという事か?表に出ず?考えにくい。


 それとも、情報が入りにくい南部に化け物がいたのか?

 ゼス以外に、いや、ゼスを超える化け物がか?

 それも考えにくい。


 だが、いるのだ。

 実力者が確かにいる。


 そいつを倒す。

 クレアとのお楽しみは後にしよう。


 私は敵の元へと向かった。



 廊下を歩くと男が歩いてくる。


「へっへっへ、その痩せた見た目とローブ姿、ぎょろぎょろと気色悪く動く目、お前クグツだろ?」

「お前は……勇者ダストか?お前はエクスファイアを使えるか?」


「はあ?何を訳の分からねえことを言ってやがる?まあいい。お前の首を貰ってやる。そこを動くな!」


 お互いが自分の聞きたい事だけを聞き、質問には一切答えない。

 対話は意味が無く、お互いが自然と構えた。

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