第37話

「こっちだにゃあ」


 アリシアの案内ですぐにクレアを見つけた。


「クレア!」

「侵入者か!」


 2人の敵兵が武器を構えるが俺とアリシアが敵を倒す。


 俺はクレアの繋がれている鎖を壁に押し付けてメイスで鎖を破壊していく。


「鍵があるにゃあ」


 兵士から奪ったカギでアリシアがクレアの拘束を解いた。

 さすが斥候。


「丹田の奴隷紋を解除しますわ」


 エステルの魔法で奴隷紋が小さくなっていくが少し残った。


「はあ、はあ、もう、MPがありませんわ」

「ポーションを飲むにゃあ」


 クレアは弱っており、アリシアやエステルと話をしているが声が小さくて聞き取れない。

 ポーションの回復効果は出ているが、傷以前にスタミナが無いように見える。


 この部屋に魔物と兵士が迫って来る。


 おかしい。

 城門を破壊し、乱戦状態に陥っているのに、ここの警備が厳重すぎる。

 敵が多い。


「クレアを介抱して欲しい。ヒール!」


 俺は1回だけクレアにヒールをかけた。


 俺は扉を閉めて部屋の外に出た。

 メイスと盾を構える。


 MPが残り少ない。

 少ない魔力はヒール用に取っておく。

 俺は炎魔法を使えないまま戦った。


 女兵士が剣で斬りかかる。

 いつものように盾で動きを止めてメイスで叩く。


 グオオオオオオ!


 オークの攻撃を盾で止めてメイスで叩く。


 後ろからブラックウルフに噛みつかれるが動じず同じ動きを繰り返す。


 部屋の扉を開けられ、敵兵が中に入ろうとするが、俺はメイスで敵を殴り倒した。

 どうやら皆クレアを取られないよう命令を受けているようだ。

 俺ではなく扉を攻撃されて扉が破られた。


 部屋の中になだれ込む魔物と敵兵をメイスで殴る、殴る、殴る。


 クレアが部屋にいる事を確認した敵は俺にターゲットを移した。


 俺は包囲されながら盾とメイスで戦う。

 アリシアも戦うが、エステルとクレアを守るため前に出る事が出来ない。



 疲れて体に力が入らないが、思ったよりも攻撃の威力は損なわれていない。


『メイスLVが47から48に上がりました』


 昔は、毎日メイスを振れなくなるまで振って盾が上がらなくなるまで盾で防いでいた。


『盾の使い方はもっとあるんじゃよ』


『盾とメイスをバラバラに考えちゃいかん。右手も左手も一体と考えるんじゃ』


 思い出して来た。


 色々ゼスじいに教えてもらった。

 疲れてきたからこそ、あの時の事を思い出す。

 

 俺はゼスじいに大事な事を教えられてきた。

 教えを思い出すように何度も円盾を使い、メイスで殴る。


『盾LVが40から41に上がりました』


『メイスLVが48から49に上がりました』


『盾LVが41から42に上がりました』





 俺は息をあげる。


「全部、はあ、はあ、倒した」

「はあ、はあ、倒した、にゃあ」


 俺は息が上がって少しだけ目が霞む。

 エステルはMPを使い果たし、クレアはまだ調子が戻らない。

 アリシアも疲れており長く戦えないだろう。


「撤退しよう」

「そうですわね。一時撤退しますわ」


 クレアが俺を見た。


「……ゲット、ありがとうございます」


 クレアはまだ元気がない。

 捕まって奴隷紋を使われた事で体に負担がかかっているんだろう。


 俺達は歩いて兵士に撤退指示を出しつつ城の出口に向かった。

 



 出口前のホールには勇者ダストとクグツがいた。

 味方の兵を引き連れて無視して城を出ようとする。


「どこに行くつもりだ!クレアを置いていけ!」

「クレアもアリシアもエステルも俺のものなんだよ!」


 クグツとダストが俺を睨んで怒鳴る。


 その言葉で兵士が動揺する。

 2人の狂気に染まった迫力に飲まれたのだ。


「無視して城の外に出るぞ!勇者ダストはクレアを犠牲にして逃げた!俺もやり返す!」


 そう言って城の外に出ようとする。


「ガーゴイル!出口を塞げ!!すべての使い魔に命じる!城の出口を塞げ!」


 クグツの言葉で城に飾ってあったガーゴイルの石像が動き出して出口を固めた。

 更に外からは魔物が集まり城の出口を塞いだ。


「これで逃げられん!」


「へ!安心しな!この俺がクグツを倒してやるよ!みんなは俺の美技を見習って目に焼き付けておきな!」

「ふ、倒されるのはおまえの方だ!そしてクレアは私の物だ。勇者を倒す光景を見せてやろう」


 クグツの合図で周りの攻撃が止み、両陣営は2つに分かれて観戦する。

 MPに余裕があれば魔物の群れにエクスファイアを撃ち込んでやるが、今はMPが無い。

 決闘で乱戦が止まるって、騎士の世界だよな。

 現代戦だったら絶対に戦闘は止まらなかっただろう。

 クグツとダストごと、エクスファイアで焼いてしまいたい衝動に駆られた。

 俺の力不足が悔しい!

 


「クレアもエステルもアリシアも全部俺のものなんだよ!」

「クレアはすでに私が奴隷の紋章を施してある」

「てめえ!何やってやがる!」

「ひっひっひ!のろまな貴様が悪い」


 クグツと勇者ダストは口だけで戦おうとしない。

 内心いつ戦うんだ?とは思うが何も言わないでおこう。

 乱戦状態だった戦いが止み、皆が戦いの行方を見守る。

 正直助かる、俺は座って観戦する事にした。


 溜まった疲れを少しでも取っておきたい。

 周りを見ると皆疲れている。

 皆少しだけでも休めれば大分動けるようになるだろう。


 誰も何も言わずにクグツとダストのマウント合戦を見守る。




 ◇




「ひっひっひ!言っても分からないようだ。戦いで決着をつけようではないか」

「へ!後悔するなよ!思い知らせてやるよ!」


 動き出した……

 もっとマウント合戦を続けて貰っても良かったんだがな。

 この時だけは特殊なダストのおかげでプラスに働いている。

 いや、そもそもダストが余計な事をしなければ戦う前から優位な状況で戦う事が出来たし、俺のエクスファイアを2発も門に使う事にもならなかった。




 そう言えば、ゲームをしていて、6将の中で一番クグツが嫌いだったな。

 クグツ以外は騎士っぽくて魅力があるキャラが多かった。


 ダストとクグツの話の波長が噛み合っているのを見ると、2人は共通した部分があるようにも見える。

 どっちが死んでもいいけど、今回だけはダストを応援しよう。


 まあ、理想は相打ちだな。

 合法的にこちらの手を汚さずに死んでくれれば都合がいい。

 いや、理想は俺がメイスで殴って……戦闘が始まったか。


 


「ガーゴイル!行け!」

「てめえ!卑怯だぞ!」


 8体のガーゴイルがダストを襲う。


「何を言う、このガーゴイルは私の紋章魔法で動いている。つまりこのガーゴイルは私の能力にすぎん……やはり勇者の力は弱いか。だが逃げ足だけは異様に早いようだ」


 ガーゴイルの爪攻撃に苦戦しつつダストはちょこまかと逃げ回りうまく致命傷を避ける。


 そして、ダストが色の違う床を踏んだ瞬間に地面が爆発した。


「ぐはあ!」

「ひっひっひ、言い忘れていたがそこはトラップの紋章だ」


 ダストがステップを踏む。


「そこは感電の紋章だ」


 バチバチバチバチ!


「あがががががが!ま、まともに戦いやがれ!」

「戦っている。紋章魔法でなあああ!貴様こそ私を一歩でも動かして見せたらどうだ?私は一歩も動いていないのだ!」


 ダストはガーゴイルに囲まれて攻撃を受けるが、突然俺達に向かって叫んだ。


「お前らあああ!黙って見てないで戦えよおおおおおお!!」


 ダストの悪い癖が始まったか。

 最初は自信満々で一人だけで戦おうとするが、すぐに命の危険を感じて皆を巻き込み、自分だけは生き残ろうとする。


 誰も前に出ない。

 俺も何も言わずに見守る。

 ここにいる兵士全員を敵に回したな。

 人望のあるクレアに敵をなすりつけたのは致命的だったな。


 それと全員疲れているんだ。

 ダスト、戦うと自分で言ったんだ。

 最後まで戦ってくれ。



「勇者の力を持っていると聞いて警戒したがこんなものか。トラップの紋章発動!」


 壁から紋章が浮かび上がり魔法弾が放たれる。

 床からは炎や氷、雷が発生しダストを襲う。


 ダストが倒れ、動かなくなった。

 クグツは目をぎょろぎょろと動かしクレアをねっとりと見つめる。


「早くゴミを片付けてクレアを堕とすか」


 クグツはゆっくりと口角を釣り上げて不気味に笑った。


「クレア以外を攻撃しろ!」






 あとがき

 

『美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった』が完結しました。


 PV数で見ると5番目の高さと言う、微妙にしか伸びない作品でしたが、4000フォロワー突破作品ではあるので、見て、楽しんでいただければ幸いです。

 ではまた!


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