第26話
次の街、ノースタウンにたどり着くと、皆が3人を見てくる。
「さすが、ゲットは注目されていますわね」
「え?違う違う!俺以外の3人が美人すぎるからだろ!」
「私はただの剣士です。色気とは無縁の存在です」
「私はただの村人にゃあ。普通にゃあ」
「わたくしも色気とは程遠いただの治癒士ですわ」
「分かってない!みんなモテるんだって!」
「それでは、わたくしがゲットと結婚したいと言ったら、受けてくれますか?」
「この3人なら誰とでも結婚出来る!それくらいみんな美人だ」
「そ、そうですのね。さあ、情報を集めますわよ」
エステルの顔が赤くなっていた。
あれ?意外な反応だ。
こんなに反応されると思わなかったぞ?
俺は赤くなったエステルに気づかない振りをして情報を集めた。
特に困った者の情報は集まらなかった。
「そう言えば、昔この近くにオークの野営地がありました。ですが、突如野営地は焼かれてオークも消えました」
3人は俺を見る。
俺がやったんだけど、やったと言いたくない。
そんなにみられると言いにくくなる。
「エクスファイアなら野営地を焼けるにゃあ」
「待て待て!俺がエクスファイアを覚えたのは盗賊のギルスを倒した時だ!」
「ファイアの連発なら木で出来た野営地を焼くことも可能でしょう」
「うっかりオークが自爆した線もあるよな」
「ですがそれではオークが消えた件がおかしいです。野営地が焼かれてもオークは生き残るでしょう」
「ゲットのファイアなら全滅出来ますわね」
「ゲットはエクスファイアが使えなくてもファイアとハイファイアを使えるにゃあ」
3人が俺を見る。
「つ、次の村に行こう。俺は早く困っている人を助けて王都にいきたい!」
俺は前に進むが、3人は俺を疑っていた。
あんなに見られると、言いにくくなる。
次の村に行けばサラマンダーに困る人が出てくるはずだ。
サラマンダーはでかいトカゲで、炎攻撃のダメージが半分になる。
「サラマンダーに困っているだよ」
ほらな。
ゲーム通りだ。
俺達はすぐにサラマンダーを倒しに向かう。
「次は私も役に立ちそうです」
「サラマンダーは炎耐性を持っていますわ。ゲットのエクスファイアとの相性は悪いですわね」
「私もダガーで戦うにゃあ!」
「エクスファイア!」
サラマンダーの群れを焼き尽くした。
俺の固有スキルとメイスの炎魔法アップの効果で炎魔法の攻撃力は180%に上昇している。
180%のダメージが半分に減少しても、エクスファイアで90%のダメージを叩き出せる。
今はまだ中盤のボス前だ。
ストーリーが進んでいないのに上級魔法を使えるのはチートに近い。
ゲームの強くてニューゲームをプレイしている気分だ。
3人がジト目で俺を見るが、俺はイベントを高速でクリアし、王都に向かう。
「エクスファイア!」
「ゴブリンの群れを倒してくれてありがとう!」
「エクスファイア!」
「ありがとう!」
「エクスファイア!」
「エクスファイア!」
「エクスファイア!」
俺達はすべての魔物を瞬殺して王都にたどり着いた。
「あり得ませんわ」
「ん?」
「レベルが25を超えましたわ」
「30まで行けなかったか、もう少し一緒にいられればもっと強くなれたと思う」
「そ、そうではなくて、一般兵のレベルは10程度ですわ。これではゲットに寄生しているのと同じですわ」
「そんな事は無い」
「気を使わなくていいのですわ」
「違うんだ。アリシア・クレア・エステルと一緒に旅を出来ただろ?楽しかった。一生の思い出になるだろう」
ゲームのストーリーでは、エステルがパーティーに加入してクレアが抜ける。
だが俺はモブだ。
そうはならないだろう。
「ゲットはこれから何をするのですか?」
「ダンジョンに行く」
「2人でダンジョンに挑むにゃあ!」
「……今日はここに泊るのですわ。出来れば3日、いえ、1日だけでも王都にとどまって欲しいのですわ!宿代はわたくしに出させてください!」
エステルが大きな声で言った。
「わ、分かった」
「今日はゆっくりするにゃあ」
エステルは俺とアリシアを宿に案内すると『用事がありますの』と言って急いでクレアと共に王城の方角に消えていった。
「ゲット、見るにゃあ!部屋が広いにゃあ!それにお風呂もあってテーブルにはフルーツが置いてあるにゃあ!」
アリシアはフルーツを口に運び、お風呂に向かった。
ランチもディナーも豪華で、俺とアリシアは満足して過ごす。
日が暮れると宿屋の従業員が部屋に入って来る。
「ゲット様、アリシア様、お客様がお見えです」
カウンターに向かうとこの国の王、エステルの父が入ってきた。
後ろからはエステルと近衛兵がついてくる。
「王、さま?」
「うむ、私は王、そしてエステルの父でもある。エステルの正体はこの国の王女だ。ゼスの教え子と聞いてぜひ会ってみたくてな」
こんなイベントは無かったはずだ。
おかしい。
「緊張せずともよい。話し方もいつもと同じにしてくれ」
王は自らが堅苦しい話し方をやめていた。
ゲームではもっと堅苦しい話し方をしていたけど、ここまでされたら普通に話すことが出来る。
「ゼスから手紙で知った。10年以上あのゼスの訓練に耐え、大盗賊ギルスを打ち倒し、更に村の発展に尽力したと。
そして、クレアと娘のエステルを何の見返りもなく助け、エクスファイアを使いこなし、更にクレアとエステルを好いていると聞いたが間違いは無いか?」
「2人が美人だと思っているのは本当だけど、ゼスじいは優しかったしギルスは皆の力で倒した。村の発展はみんなが頑張ったからだ」
「ふむ、おのれの手柄にこだわらんか、実に素晴らしい!エステルとクレアを嫁にやる価値がある!」
「そんなにすぐに決めていいのか?」
「構わん。正直に言うと、エクスファイアを使える英雄を国の外に逃したくない。エステルとクレアで繋ぎ止めておきたいのだ。エステルとクレアもゲットの事をよく思っている。何も問題はないのだ」
王は俺の手を取った。
エステルは王女の立場を隠す気すらないよな?
ばらすの早くね?
「それにだ、ゲットは死の危険を冒してダンジョンの魔物を倒そうとしているのだろう?
ダンジョンの魔物を倒しても誰からも感謝されることは無い。
だが、誰かがやらねばダンジョンから魔物があふれ出す!
誰からも褒められず、命をかけてダンジョンに進もうとする曇りなき正義の心に私は惹かれたのだ」
悪意と邪念で動いている部分もあるのだ。
俺はダストにやり返す気で動いている。
そのような人間が善人とは言えないだろう。
「俺はそんなに立派な人間じゃない」
「ふ、そういう事にしておこう。エステル、ゲットに一生尽くすのだ」
「分かりましたわ」
エステルが笑顔で俺を見つめ、ほほ笑んだ。
「エステル、いいのか?危険が待っているんだ」
「お供させてください。この命が消えるその日まで」
「ゲット、王たる私が何も代償を払わず何も協力しない。そんな事は許されない。わが愛しい娘を危険に晒す。だが、そこまで心配はしていないのだ。ゲットなら娘を守り、大義を果たしてくれるだろう。
クレアについてだが、もう少し待ってほしい。
だが、ゲットが手柄を立てれば私も動きやすくなる。
ダンジョンに飽きたら分かりやすい形で皆を助け、反対派を黙らせてほしいのだ」
エステルがパーティーに加わり、次の日からダンジョンに向かう事になった。
サクサク進みすぎて、結婚出来る実感が全然湧かない。
あれだ、一瞬の気の迷いってのもある。
エステルは純粋だからな。
仲良くなりたい気持ちはあるけど、ふられる覚悟はしておこう。
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