第18話

 なだれ込んできた盗賊が突然転ぶ。


「な!何が起きやがった!」


 転倒トラップだ。

 俺はトラップのスキルを鍛えていた。


 魔物の襲撃に備えると言ってトラップを大量に設置していた。

 設置すればするほど俺のトラップスキルは磨かれていった。


「今だ!弓を撃ちこめ!」


 後ろにいたみんなが弓を撃ちこむ。

 村人の多くはゼスじいの元で弓の訓練を受けた。

 ゲームで弓は弱い、だが遠くから戦うことが出来るメリットがある。


 ゲームと違い人の心理で戦況は一気に崩れる可能性があるのだ。

 だが弓なら怖くなって逃げ出す事も、混乱する事も無く戦える。


 転んだ盗賊に一斉に矢が放たれて盗賊を倒していく。


「くそが!ひるまず進め!舐められてんじゃねえ!」 


 そのまま進んでくれて助かる。


 盗賊は落とし穴トラップに落ちた。

 落とし穴の下には尖った木を差し込んである。


「ぎゃあああああ!」


 盗賊の悲鳴で他の盗賊の足が止まった。


「お前ら!ビビってんじゃねえええええええええ!」


 そう言ってギルスは後ろから盗賊を斬り殺した。


「お前ら!村人とこのギルス様、どっちが怖い!?俺だよなあ!前に出ねえ奴は殺す!全力で前に出やがれえええええ!ブラックウルフ!一番後ろにいる奴を殺せ!」


 ブラックウルフが後ろにいる盗賊を噛み殺した。


 盗賊は我先に前に出て行く。


 乱戦状態になり、俺とゼスじいは丁寧に盗賊を殺していく。

 攻撃は受けるが、近づいてくる敵には盾とメイスで返り討ちにする。


「ヒール!」


 ゼスじいが俺にヒールをかけてくれた。

 更に俺より前に出て、最も危険な場所で戦うし、ダメージが蓄積すると自分にもヒールを使い近づく敵には大型のメイスで撲殺していく。


 ゼスじいが近くにいる事で安心して戦えた。

 俺はメイスと盾を使い、炎魔法は使わずに盗賊を倒していく。

 不思議と人を殺す事に抵抗感はなかった。


 まとまって攻め、一直線に並んでくれれば範囲魔法のハイファイアで一気に盗賊を焼き殺すことが出来たが、奴らは統率が取れておらず、バラバラに突っ込んでくる。


 ハイファイアで一気に焼き殺すのは無理か。




 ボスのギルスと、使い魔のブラックウルフは前に出ない盗賊を殺すために後ろで腕を組んで戦況を見守っていた。

 そしてその横には中ボスのゴーダーもいる。


「おい、ゴーダー、あのネコ族の女を攫ってこい!」

「分かった」


 中ボスが前に出てくる。

 あいつは盗賊の住処に攻め入った際にギルスの前に戦う敵で、体が大きく、斧を振り回す強敵だ。


 ここで攻めてくるか!

 だが、俺とゼスじいは盗賊に囲まれて身動きが取れない。

 こいつらを倒すには時間がかかる!


 ゴーダーが斧を持ってアリシアに迫る。


 そこに隠れて気配を消しているダストがいた。


「お前、何で隠れている?思い出した。お前、10人の盗賊に囲まれて、身ぐるみを剥された間抜け勇者だ。お前が勇者なわけない。お前はただの間抜けの馬鹿だ」


「違う!俺は勇者だ!100人の盗賊と闘った!」

「違う、間抜けの、勇者もどきだ」


「俺は勇者だっつってんだろうがああああ!」


 勇者ダストが中ボスに斬りかかる。


 3度打ち合い、ダストは斧で胸から腹を斜めに斬られた。


「ぎゃああああああああああああ!!!!」


 勇者ダストは後ろを向いてアリシアに向かって走る。

 そしてアリシアに中ボスを押し付けると、走って逃げて行った。


「げっへっへ。捕まえた」


 アリシアは簡単に腕を掴まれる。

 後ろにいる村人を守るため後ろに下がれなかったのだ。


 反対側の腕でナイフを突き立てる。

 何度もナイフを突き立てるが、中ボスのゴーダーは腕を刺されながらも無視してアリシアを地面に叩きつけた。


何度も地面に叩きつけ、アリシアが動かなくなると引きずってギルスの元に戻っていく。


「ボスに可愛がってもらう。殺しはしない」


 周りの盗賊を倒したゼスじいがゴーダーに迫る。


「アリシアを離すんじゃあああ!!」


 ゼスじいが雑魚に攻撃を受けながら猛攻を仕掛けた事で、ゴーダーがアリシアを離す。


 いくらゼスじいでも、囲まれて消耗しているのにゴーダーに斬りかかったら長い時間は持たないだろう。

 中ボスと雑魚に囲まれつつ戦う事になる。

 だが、アリシアを助けるチャンスでもある。

 ゼスじいの猛攻で盗賊が動揺したのだ。


「ゲット!アリシアを運ぶんじゃ!」

「すぐに戻ってくる!」


 俺はアリシアにの近くにいる盗賊を倒す。


「おりゃああああああ!」


 そしてアリシアを抱きかかえて後ろに下がる。

 後ろから短剣や矢を受けたが、それでも無視して走る。

 




「アリシアを連れて避難してくれ!」


 俺は村人にアリシアを任せて前線に戻る。


 前線に戻ると、ゼスじいが血を流していた。

 完全に包囲され、孤立し、左腕が斬られてだらんと垂れ、右腕だけでメイスを振る。


 俺は走った。

 俺は、失敗した!

 ゼスじいなら耐えられると思った!

 判断ミスだ!


 ゼスじいは捨て身で盾になったんだ。

 打たれ強い俺じゃなく、自分が盾にして注意を引きつけたんだ!


 最初からだ!


 最初から無理をしていたんだ!


 自分が死んでも俺を守ろうとしていた!


 俺は、最初からゼスじいに守られていた!

 

 俺はゴーダーを殺すために全力で走った。

 もう後先は考えない。

 俺は途中で動けなくなるだろう。


 関係ない!

 


「ファイア!ファイア!」


 前にいる邪魔な盗賊を火だるまにしつつ、ゴーダーの死角からメイスを叩きつけた。


「うおおおおおおおおおお!!」


 敵意を引き付けるため叫ぶ!


『メイスのLVが43から44に上がりました』


 ゴーダーは吹き飛ばされるが、俺にターゲットを移して斧で襲い掛かって来る。

 周りの雑魚も邪魔だ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 俺は大声を出しながら攻撃した。

 それにより、自分の中にある恐怖をやわらげ、雑魚を威圧する事も出来る。


 斧の攻撃を円盾でガードし、腹にメイスを叩きこむ。

 雑魚から攻撃を受けつつ何度も何度も殴ってゴーダーを倒した。


『盾のLVが37から38に上がりました』

『メイスのLVが44から45に上がりました』


「ゼスじいを避難させてくれ!!ファイア!ファイア!うおおおお!ファイア!ファイア!」



『ファイアのLVが49から50にアップしました』


 俺は切り札、炎魔法を使った。

 近くにいる盗賊はメイスで殴り、遠くにいる盗賊はファイアで焼き殺した。


「な!なんなんだあいつは!ぐへえ!」

「ひ、ひいい!化け物おお!」


 盗賊が動揺する。

 その隙にゼスじいが助け出された。


 その事を確認すると俺は走って後ろに下がる。


「もうあいつは余裕がねえ!突っ込め!」


 ギルスの命令で盗賊が俺に迫って来る。


 俺の後ろに固まってくれたか。

 ヒールを使えなくなってもいい!

 出し惜しみはしない!


「ハイファイア!」


 俺は振り返りつつ範囲魔法で10人以上の盗賊を焼き殺した。

 もう戦える敵は半分以下だ。


 ゼスじいから学んだ言葉が頭に浮かぶ。


『敵の虚を突くんじゃ』


 炎攻撃を免れた敵に反転して迫った。

 今度はメイスで殴り殺す。


『自分より強い敵には、相手をしたらただではすまんと思わせればええんじゃ』


「敵が減った!今のうちに一気に矢で殺せ!!」


 孤立した盗賊に矢の雨が降り注ぐ。


『戦いは心理戦でもあるんじゃ。弱みを見せず、堂々とするんじゃ』


「ヒール!俺を簡単に殺せると思うなよ!近くに来た奴から殺してやる!!」


 俺は何度も殺すという言葉を使った。

 メイスで盗賊を吹き飛ばす。


「転んだ盗賊を矢の雨で殺せ!」


 次第に盗賊の顔が恐怖で染まり、勢いが無くなる。


「ブラックウルフ!行け!」


 ギルスがブラックウルフを俺にけしかけた。

 流れを変えるつもりだろう。


 ブラックウルフが俺に飛びついてくるが、円盾で動きを止めてメイスで殴る。

 地面に転がったブラックウルフの頭にメイスを振り下ろし、また振り下ろす。


「ち!ブラックウルフがやられたか」


 ギルスは丸いオーブを握って魔力を流し込む。

 そして地面に落とした。


 オーブが土と混ざってゴーレムが発生した。

 ゴーレムの体長は3メートルほどあり、俺に襲い掛かる。


 ギルスは切り札を躊躇いも無く使って来る。

 中ボス・ブラックウルフ・ゴーレムのキーアイテム。

 切り札をすべて使った。


「ハイファイア!ハイファイア!」


 炎強化の威力1.5倍と、メイスの炎威力+30%は累積され、ハイファイアの威力は1.8倍に増加する。


 その上で長年鍛えてきたハイファイアを放った。

 炎がゴーレムの体を覆い、大ダメージを食らわせた。


 ゴーレムが崩れて轟音を放つ。


 それにより盗賊の動きが更に悪くなった。

 盗賊は疲れ、その上で、ゴーダー・ブラックウルフ・ゴーレムと連続で倒したのだ。


「今の内に盗賊を殺せ!皆殺しにしろ!」


 俺の叫びで盗賊がひるんだ。


「ち!駒が死にすぎたか。てめえら!撤退だ!」


 ギルスが盗賊を連れて撤退していく。

 見せつけるように盗賊を焼き殺したのが良かったのかもしれない。

 だが、逃げられて切り札も知られてしまった。


 俺は地面に座って息を整えた。

 息が苦しい。

 動く力はあまり残っていなかった。

 

 MPも空っぽだ。


「「うおおおおおおおおお!」」


 村人が雄たけびを上げる。

 ゼスじいの教え、俺の意図をみんなも分かっていたか。


 ゼスじい、何とかなったよ。





 あとがき

 今日はお休みなので多めに投稿します。 

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