第10話

 俺はコツコツと魔物を狩り、洗礼の時を迎えた。

 洗礼を行える神官が年に一度村を訪れ、神から固有スキルを授ける儀式をしてもらえる。


 ゲームだと俺は炎強化、

 ダストは勇者

 アリシアは疾風を授かるけど、今回も同じかどうかは分からない。


 出来ればダストにはへぼスキルが当たって、俺に良いスキルが来て欲しい。

 対象者が村の教会に集まって来る。


 周りには見物人の村人が少し離れて見守る。


 神官が一人一人に洗礼を行っていく。


 俺は空いてくるまで待つ。


「わくわくするにゃあ」


 アリシアが隣に寄って来る。


「アリシア、前向きでいいな」


「どんなスキルが来ても、今までなかった力を授かるにゃあ。良い事にゃあ」

「確かに、そうだな」


 俺も気にしすぎず洗礼を受けよう。

 俺が頑張って変えられる事でもない。

 出来る事に集中しよう。


 ダストを見るとにやにやとこちらを見て笑っていた。

 ダストは最後に洗礼を受けるのか?


「行って来るにゃあ!」

「うん」


 頑張ってと言おうとしたが、頑張ってどうにかなるものでもない。

 俺は黙ってアリシアの洗礼を見守った。


「アリシアの固有スキルは『疾風』だ」


「「おおおおおお!」」


 この世界では魔法より体力強化の固有スキルの方が価値が高いとされている。

 魔法を覚えるには文字を読んで勉強する必要があるが、文字を読めるものが少ない。

 でも疾風は何もしなくてもすばやさが1.5倍になりすぐに効果を実感できる。


 アリシアが跳ねながら戻って来る。

 明らかにすばやさが上昇していた。


「当たりにゃあ!」

「おめでとう」


「おい!お前早く行けよ!」


 アリシアが俺に笑顔を向けるとダストは怒ったように叫ぶ。

 俺は無言で神官に近づく。


 神官が両手から光を発して、俺の体が光に包まれる。


「ゲットの固有スキルは『炎強化』だ」


 その瞬間にダストが笑い出す。


「はははははははは!言った通りだろ!お前は役立たずの炎強化だよ!見てな、俺が勇者の固有スキルを引いてやるぜ!」


 そんなに笑うほど弱いか?

 炎強化は悪くないと思う。

 炎魔法の威力が1.5倍だから結構強いと思うけど?


 識字率が低いこの世界の人間ならそう思うのは分かる。

 でも、文字を読めて魔導書を理解できる俺達にとって魔法は難しい物じゃないんだ。


 あのバカにしたような態度が嫌だ。

 ダストの固有スキルが勇者じゃなければいいと思う。

 へぼスキルを引いて欲しい。


 

「ダストの固有スキルは『勇者』、勇者だと!」


 神官とそのお供があわただしく動き出し、ダストはどや顔で周りを見渡す。


 だが、村人たちの反応はあまり良くない。


「あいつが勇者?嘘だろ?」

「でも勇者ならこの街から出て行くんじゃないか?」

「早く出て行って欲しいな」


 小声で勇者ダストの悪口が聞こえる。


 温和な村人に悪口を言わせるほどダストは嫌われていた。

 ダストは、自分が嫌われている事に気づいていないようだ。


「見たか!俺は勇者だ!特別な存在だ!はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」


 ダストは大声で笑った後、俺に近づいてきた。


「おい!ゲット!お前最近ちまちま魔物を狩れるようになって調子に乗ってるみたいだが、俺は勇者の固有スキルを得て、お前はただの炎強化だ。どういう事か分かるか?」


「いや?全然?」

「は!お前は無能で、俺は選ばれた存在って事だ。どんなに努力しても勇者の前じゃ無駄だ!全部無駄だ!ま、短い人生おとなしく過ごすんだな」


 確かに勇者のスキルは強い、でも、炎強化が弱いわけじゃないだろ。

 威力1.5倍はゲームとしてはかなり高い。

 いや、ダストにとって勇者以外の固有スキルは全部外れなんだろう。


 でも、都合は良いか。

 俺を舐めて貰った方がいい。

 18才になるまで俺は力を高めるつもりだった。

 ついでにダンジョンの宝を全部取る。


 前から決めていた事ではあるけど、ダストの足を引っ張る。

 俺はやられたらやり返す。


 黙っていた俺を見てダストは笑う。


「おいおいおいおい!何も言えねーのかよ!そうだよなあ!俺が勇者になって、お前は無能の炎強化だ。何も言えねーよなあ!!」


 俺は無言でその場を後にした。

 言葉は意味が無い、実際に行動に移す。

 ダストが手に入れる宝は俺が貰ってやる。


 俺は自分の目的の1つを再確認した。


 ダストの足を引っ張る、やられたらやり返す!




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る