第3話

 俺は父さんに水を貰いつつ、まだ地面に寝転がっていた。

 しばらくして起き上がると手下を引き連れたダストが俺を見ている。


 父さんが居なくなったら俺をいじめるんだろう。

 父さんにも仕事があるから僕にだけ構ってはいられない。


 俺はダストの事を考えた。

 ダストは紙飛行機を作って『紙飛行機』と言っていたけど、この世界に飛行機は無い。

 しかも俺は勇者になるとよく言っているし、俺が18才で死ぬ事を知っていた。


 間違いない、ダストは転生者だ。

 もし、俺が転生者であるとばれたら厄介だ。

 最悪殺されるだろう。


 今は俺よりダストの方が強い。

 そしてダストは俺を殺して死体を隠し、子供のフリをして生きていく事が出来るだろう。

 この村の者も村の人間が人を殺すとは考えないと思う。

 

 父さんが仕事に戻るとダストが近づいてくる。


「お前何で痩せようとしてるんだ?」


 答え次第で俺が転生者だとばれる。

 俺はゲットの顔をして言った。


「ダストが僕を太ってて気持ち悪いって言ったんじゃないか!最近君は意地悪だよ!」

「そんな事言ったか?」


 周りの取り巻きが一斉に言う。


「言ったよ!」

「言ってるよ」

「いつも言ってる」


 ダストはみんなを無視してさらに言った。


「何でメイスを振っていた?」

「君がどんくさいって言ったんじゃないか!」


 ダストは小さな声で「俺の行動で未来が変わるのか」と言った。

 何とかなったか。


 ダストは俺をいじめずに向こうに歩いていく。

 ……助かった。



「おい!」


 ダストが急に振り向いて言った。


「な、なに?」


 心臓がバクバクと鳴った。

 何かバレたか?

 いや、バレるようなことは言っていない!


「魔法は覚えるのか?」

「今は体を鍛えてるんだ」

「魔法を取るなら、炎にしておけ。皆!覚えとけよ!ゲットは『炎強化』の固有スキルをもらう。15になるまで覚えとけよ!俺は未来が分かるんだ!ははははははははは!」


 ダストがどや顔で言った。

 ダストは俺を助けるために言ったんじゃない、自分を凄いと思わせるために言ったんだ。

 でも、利用できる。


「そ、そうか、分かったよ。炎が一番かっこいいと思っていたんだ!魔法を覚えるなら炎にするよ」


 体を鍛えたら、炎の魔法を覚える。

 これで、俺が炎魔法を覚えても不審に思われない。


 15才の洗礼前に炎魔法を取得すれば、そこから疑われて俺が未来を知っている事がバレる可能性があった。

 でも、ダストから炎魔法を取るように言ってくれた。

 自然に炎魔法を取得できる。


 早く強くなろう。

 途中から隠れて強くなることも考えないとな。



 俺はしばらく父さんの訓練を受け、その後神父の居る教会に住み込みで訓練を受ける事になった。 

 神父のゼスじいは子供に怖がられているから、父さんも母さんもゼスじいの元にいた方が俺がいじめられないと思ったのだろう。


 俺は木の棒で叩かれてたまに血を流して帰っていた。

 それに村の大人から俺がどういう目に合っているか聞いているようだ。

 日本なら訴えて終わりだけど、ここは未開の中世だ。

 喧嘩や多少の暴力を受けたからと言って奴を潰すことは出来ない。


 日本でも昔の子供が石を投げて喧嘩をしたりと色々あった様だし、この世界は江戸時代とかの感覚に近いのかな?




 父さんも武器屋として武器の使い方をゼスじいに教わったらしい。


 教会に行く時、母さんは俺を抱きしめた。

 

「ゲット、いい子でいるのよ!辛くなったらいつでも帰って来てね!」

「母さん、大丈夫だよ、行って来ます」


 母さんは俺を本気で心配してくれて、母の愛を感じた。

 でも、母さんが美人で、興奮してしまった。

 少しだけ、いけない事をしているような変な気分になったけど前を向いて教会に向かった。

 この世界はモブキャラですら美人なのだ。


 ゼスじいは教会の前に立って俺を待っていた。


「よくきたのお、ワシが怖くないのか?」

「この前は教会のリンゴを取ろうとしてごめんなさい」

「そうじゃない、ワシが怖くないかと聞いておる」


「悪い事をしないなら怒らないよね?」

「そうじゃな」

「だったら大丈夫だよ」

「ほお?」


 ゼスじいが俺を見た。

 少し昔の俺は教会で熟したリンゴを取ろうとしてゼスじいに怒られた。

 そして、その時は怖くて号泣した。


「もっと痩せたいです!メイスをちゃんと使えるようになりたいです!」


 ゼスじいがにっこり笑って俺を部屋に案内した。




 そして俺は畑を耕している。


「ゼスじい!なんで畑を耕すの?訓練は?」

「ほっほっほ、武器を使うのとクワを使うのは似ておる。それにお前はもっと痩せた方がいいでの」


 おかしい。

 騙されている気がする。

 でも、ゼスじいのおかげでダストにいじめられなくて済む。


 それに、家庭菜園はやりたいと思ってたんだ。

 気分を切り替えよう。


 俺は黙々と土を耕す。

 気分を切り替えれば意外と楽しい。

 その後筋肉痛になり、スプーンを持つ手が震えた。




「ほれ!もっと早く動かんかい!」


 出たー!父さんと同じステップ、しかも父さんの時より厳しい。

 前後左右4方向に動けるようにステップを踏み続け、それに慣れると8方向に動けるように訓練した。




「ほれほれ!ワシに一回でも当てて見んかい!」


 ゼスじいは色んな武器を使いこなしていた。

 僕の盾とメイスのレベルが上がっていく。

 ゼスじいは教えるのがうまい!


 何度も盾を使い攻撃を防ぐ。

 メイスより盾LVが上がっていく。


「ここでメイスじゃ!」


 俺は言われた通りにメイスを振る。

 ゼスじいに言われた通りに動くと、テンポよく攻撃出来る。

 教えるのがうまい。


「ここで盾じゃ!」


 言われた通りに盾で防ぐ。


「盾!メイスメイス!盾!」


 ボクシングの練習みたいだ。

 俺は毎日毎日ゼスじいに訓練を見てもらい、俺はデブからぽっちゃりに変わっていた。


 俺は塀にもたれかかって休む。


「ゲット」


 声に振り変えるとアリシアが塀の外から俺を見ていた。


「アリシア」

「痩せたにゃあ」

「うん、ゼスじいのおかげだ」


「話し方も変わったにゃ」

「変えた。冒険者になった時用に変えたんだ」

「そっかー。もう一緒に遊ばないのかにゃ?」

「俺、もう少し強くなりたいんだ」

「ダストにいじめられるから?それなら私が守ってあげるにゃあ」


「それもあるけど、皆を守れるくらい強くなりたいんだ。たまに魔物が村に入って来るけど、大人たちが守ってくれてるだろ?俺もあんなふうになりたいんだ。そうすればアリシアも守れる」


「……多分ゲットより私の方が強いにゃあ」

「そうだな、でも、大人になったら負けないくらい強くなる、予定だ」


 俺は同い年のアリシアやダストより弱い。

 でも、訓練をすれば動きが変わっていくのを実感している。

 基礎は大事か。


「あ!」


 アリシアは何かを察知してその場を離れた。


「今のはアリシアか、まったく、ちっこいのに大した身のこなしじゃ。アリシアより強くなりたいかの?」

「強くなりたい」


「なら、焦らんことじゃ。基本さえ押さえておれば後が楽じゃ。もっとも、体験せねば分からんかもしれんが」

「全部は分からないけど、半分は分かるよ。メイスをうまく振れるようになった気がする」


「休憩は終わりじゃ、訓練の続きをする」

「ああ、始めよう」




 ◇




 こうして、毎日ゼスじいの訓練を受けて俺は10才になった。

 ゼスじいに畑仕事を手伝わされた時は疑ったけど、ゼスじいは優しい。


 クワで畑を耕す仕事にも意味がある事が分かってきた。

 メイスの振り方とクワの振り方は共通している部分がある。

 これは体感しないと分からない感覚的な部分だ。


 日々の手伝いも、戦闘も共通した動きがある。

 一見関係の無い手伝いも色々やった方がいいと分かってきた。


 メイスと盾のLVが上がっていくごとに点が線になって繋がっていく感覚を実感していた。


 ゼスじいは優しい。

 訓練で大きな声を出すのは俺に死んでほしくないからだ。

 皆を怒るのも、悪い事をして将来困らないように導いてくれていたんだ。


 ゼスじいは俺の為を思って指導してくれている。


 俺は、死にたくない。

 18才のイベントで死にたくないし、ダストに殺されるのもごめんだ。

 

 俺はダストに無能だと思われている。

 今の内に強くなる。そして、ダストにやり返す!


 俺はやられたらやり返す人間だ!

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