episode 37『夜の公園』
視点だけになって森の中や、明かりの消えた博物館のような場所をさまよう夢をよく見る。
ある夜、私はまた見知らぬ国の路地を徘徊していた。見たことのない文字の看板が並んでいた。そのどれもが飲食店のようだったが、視点だけになっているので匂いは漂ってこない。
時刻は夜明け前といったところか。人通りが絶えて閑散としている。あるいはこれは現実の風景ではないから、人は配置されていないのかもしれない。どこまで行っても夜の冷たさだけが漂っているようで、寒々としているけれど、これも私がそう考えているだけかもしれない。
夜の公園に水を吐きだしつづける噴水を見つけた。動くものに出会って私は少し安心する。安心したことで、焦燥感のようなものに取りつかれていたことに気がつく。そこで目が覚めた。
私はベッドから起きあがりコートを羽織った。
顔を軽く水で撫でつけ、口をすすいだ。
外に出ると3月の真夜中は寒い。私は公園に向かって歩いた。歓楽街から少し外れたところに公園はある。
駅の前を通ると、ホームには明かりが灯っているが、入口のシャッターは下りていた。
夜の公園にたどり着いた。噴水は止まっていた。真夜中には止まっているものなのかもしれない。佇んでいる水を覗き込んだ。私の姿を映すほどの水は湛えられていなかった。
なぜか自分の姿を鏡に映したいという欲求が頭をもたげてきた。人の姿を見たいという寂しさのようなものだろうか。
私は鏡を求め、眠りつつあるだろう歓楽街に向けて歩いていった。
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