episode 26『山道』

 なんとなく気が向いたに過ぎない。それとも何かに呼ばれたというのか。

 向かった先は、街からあまり離れていない神社だった。

 街はずれの急な傾斜を上ると、古い社が見えてきた。手入れはされているらしい。石畳はところどころ補修されていたし、ところどころに見える縄も新しい。

 こういう場所が、最近ではパワースポットなんて呼ばれたりするらしい。

 風雨にさらされたお堂に、真新しい千羽鶴がかかっていたりして、はっとさせられた。

 自分はここに何をしにきたのだろう。

 ほんとうに、なんとなく訪れたに過ぎない。何かを求めてきたわけではない。

 ただ、立ち止まって息をしている。深い草の匂いがする。

 汗をかきながら、坂を上っていった。すれ違う人がいれば軽くあいさつを交わした。ところどころに猫がいた。人に馴れているようで、近づくとよく鳴いた。街を見下ろすことができる場所で休憩をした。

 そういえば昔、慣れない山登りをして、道に迷ったことがあった。

 電波は通じたので、友人に泣き言を言ったりしていた。宇宙飛行士にはなれないなとか、そういう軽口を言う余裕ぐらいはあった。

 分かれ道に着いてそんなことを思った。今だって道に迷いそうな自分が可笑しかった。引き返そうか。そう決めてふっと息を漏らした。

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