episode 24『ピエロの溺死』

 ピエロは、月明りの下でねじれたスプーンの真似をしていた。巧みに身体をねじりながら、夜の塔に向けて滑るように進んでいく。塔の周囲は群青色の闇に包まれ、塔の天辺には月明りが落ちていた。

 ピエロはマッチを擦って火をつけた。ランプの明かりを頼りに階段を上っていった。すると、階上に庭園が現われた。

 庭園の中央には二種類の巨木が聳えている。だが、それらは触れてはならないとされている木である。ピエロが探している木ではない。

 ピエロは木の実を探してここまでやって来た。お目当ての木の実は、らせん状に渦を巻いた形をしており、大きさは松ぼっくりぐらい。その実をつける木は、この辺りにしか生えていないと聞いている。

 庭園に入ってもピエロは、ねじれたスプーンの真似を止めない。お目当ての木の実もねじれた形をしている。自分の身体と様々な木の実を見比べて、木の実を探し当てようとしているだった。

 そんなわけで、ピエロはねじれたまま跳びはねていた。視界の庭園が、ベッドのスプリングのように揺れていた。揺れて二重映しになった庭園に、大きな噴水が現われた。噴水の水も揺れて重なっていた。月が傾いて天窓から顔を出した。ピエロは身体をねじって跳躍し、噴水の縁に乗った。そしてそのまま足を滑らせて、縁で頭を打ってから噴水の水に沈んでいった。

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