ラプンツェルとチーズケーキ

雨の粥

episode 4『白骨』

 ガラス張りの地下室の話を聞いたのは少年がなぜか恋人の姉の部屋で過ごした夜だった。

 恋人の姉は全裸でシーツの上にうつ伏せに寝そべり、少年はスウェット地のパーカーだけを羽織った姿ですぐ横のソファーに座っていた。

 往来にはまだ車の音が響いていた。

 壁が分厚いから大丈夫と云われたが先刻までの恋人の姉の声があまりに大きかったので少年の心臓はまだ大きな音を立てていた。

「お腹空いてる? ちょっと歩こうか」

 服を着ると恋人の姉の汗の匂いと化粧品の匂いが移っていて少年は落ち着かなかった。ぼーっとしているとエレベーターで軽く肩を押されて少年は赤くなった。

 二十四時間営業のドラッグストアに向かう道の途中で恋人の姉が切り出した。

「時間も場所もバラバラだけどね、よくガラス張りの地下室にいるんだ」

「ガラス張りって地下室なのに?」

「そう、地下室なのに。ゲームのマインクラフトってしたことある? ツルハシで地面を掘っていくと地底の洞窟みたいなのがあるでしょ。その洞窟の高い天井にガラス張りの部屋がある感じ」

「そこには何があるの」

「それが普通に部屋なんだ。あっ、マイクラは忘れてね。普通にあたしの部屋みたいな。ベッドが大きくて後なんかお風呂があるの。

 で、あたし? がお風呂入ってるかベッドで本読んでる。でもそれあたしじゃないと思うんだ。骨だし」

「骨?」

「白骨みたいな。理科室の模型みたいなんじゃなくてもっとリアルな。骨だけど動いて普通にしてんの」

 、白骨になって本を読んだりバスタブに浸かったりしているところを想像してみた。なんとなく落ち着かないというか、取り返しのつかない後悔の念のようなものが浮上してくる感覚があった。

「前はそれだけだったんだけど、今日は違ってて」

 在宅の仕事が一段落したのでコーヒーとシナモンロールを用意してテーブルに付いたらしい。

 気がつくとガラス張りの地下室だった、と。

「それだけならまたかって思うだけだけどね」

 それも凄いが……。

「床もガラス張りなんだけど、なんか視線を感じて下を見たらさ、日も差さないのに花が絨毯じゅうたんみたいに地面を覆ってて。花畑みたいな。花に埋まるみたいにあたしが死んでて。悲しかった。だけどよく見たら横にもう一人死んでて、手を繋いでた。

 それが君だった。

 君のことなんて写真でしか見たことなかったのにね。それでなんかどうしてもってなって誘った。……ごめん」

 二人の視線が重なった。少年は恋に落ちてしまった。



   ――了――

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