限定召喚士ハルキゲニアの嘘

おてて

第1話 天井

俺の名前はハルキ。


きのう、死んだら暗闇からピンクの妖精が出てきて

「あなたは死にました。転生後の職業は?」と聞いてきた。


出たよ。異世界転生かよ。

転生するするとは聞いていたが、

それは宗教の天国とか地獄とかと同じで誰も実証不可能なやつだ。

ただ噂では無双できるって話。

無双するするとは聞いている。

さあ異世界で無双しよ。


「転生後の職業は?」

賢者だな、オールマイティの職業は。

魔法も使えて剣も使える。

いや、まてよ。レベルが上がりやすいのは格闘家か。

素手でモンスターを倒せるから最初からレベリングしやすいとも聞いた。

まてまて僧侶だろう、この場合は。

僧侶なら自分で自分の傷を治せるのだから。

ダンジョンでも死ににくい。死なないことを優先すべきではないだろうか。

一度死んだ身なのだから死んだ気で頑張ります。

という心意気と僧侶は矛盾するかも。

「ブブー、時間切れ。あなたは村人レベル1で転生します。」

そう告げてピンクの妖精は暗闇に消えた。


目覚めると俺は村人として異世界転生していた。

レベルは1。

なぜ自分の職業やレベルが分かるかって?

これはもう理屈ではなく理解した。

例えば足に筋肉がつきやすい体質だとか。

髪の毛が水にぬれるとクリクリになりそうだとか。

右利きだとか。

自分で自分のことは良くわかる。

そういう感覚ですぐに理解できた。

俺は村人レベル1だ。

村人という職業はダンジョンでモンスターを倒してもレベルが上がらない。

地道に農業をしたり村祭りに参加して恋したりして、

10年ぐらいするとやっとレベル2に。

困ったことに、それも感覚的に理解できてしまった。


あのピンクの妖精野郎。

時間切れがあるなら「あと2分ですよ」ぐらい言え。

だいたい時間切れだとデフォルトの村人になるというシステムはどうかしている。

村人は冒険に出てもモンスターを倒しても、

レベルが全く上がらない。

それはそうだ。

逆に戦士や賢者が農業で野菜を作っても

村祭りに参加して恋をしても経験値は得られない。

とくに戦士として成長する経験は得られない。

時間切れ、もうこれは転生トラップだろう。

そんなに簡単に異世界で職業など決められない。

全てあのピンクの妖精が悪い。


幸運なことに所持金が100ゴールドもあった。

100ゴールドといえば高い宿屋が一泊1ゴールドだから100万円前後か。

7日間ほど情報収集をかねて高い宿屋に泊まってみた。

残り90ゴールドを使い切れば終わってしまう。

ギルドで仕事を紹介してもらうしかなさそうだ。

俺はまず近くの魔法屋で魔法の服を買った。

ギルドに行ってカウンターで登録をしなければならない。


「このギルドは初めてですね、お名前は?」

「俺の名前はハルキゲニア。」

「ハルキゲニアさんのご職業は?」

「高レベル召喚士。」

「珍しいですねハルキゲニアさん。それでは登録しておきます。」


ギルドの建物内は待合所のような古い木のテーブルがたくさんあった。

3名の戦士と1名の魔法使いがパーティを組むか交渉をしている。

そのひとりの女戦士は黄金色のヨロイを着ていて美しい。

カーテンからこぼれた陽光は金色の戦士を天井で踊らせている。


ゲニアってなんだ。

召喚士として、なめられたくなくてハルキゲニアなんてイカツイ名前をつい。

またたいそうな大嘘をこいたものだ。

後ろにいた僧侶は召喚士という言葉を聞いてチラチラ俺を見ている。

ギルドの建物内にも緊張感が伝わっているのが分かった。


ここは召喚士らしくふるまわなければ皆の期待にそむく。

50ゴールドの大金を出して買った魔法の服のそでをスッと動かす。

見よ、これが魔方陣を書く準備動作だ。

スッ。

スッ。

本当に魔方陣を書いてしまうと建物内に召還してしまうからしないが。

スッ。

もう完全に高レベルの召喚士。

スッ。

魔界から召還するのだから俺も悪そうな顔をしておいたほうが良いだろう。

スッ。

スッ。

ニヤッ。


その後ギルドの受付に呼ばれた俺は、あるパーティの冒険に参加するか聞かれた。

北の山のドラゴン討伐だ。

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