第24話
あの日以来、アイツと秘密の関係が始まった。
それはお互いに時間の合った日で、いつ、何処でとかの決め事は無かった。
互いに偶然残業が重なると、それが合図になる。
会社の鍵を閉めて、アイツが「友達と飯を食って帰る」と嘘の帰るコールを入れるのを少し離れた場所で聞きながら駅へと向かう。
アイツが乗り換えする駅で、私達は秘密の逢瀬を繰り返す。
いわゆる「休憩時間」の間だけの恋人。
それでも、今まで感じた事の無い幸せな時間に、私は年甲斐も無く溺れて行く。
それが誰かの悲しみの上に成り立っている関係だという事を、忘れていたのだ。
……いや、忘れたフリをしていたのだ。
それは、コーヒーを入れに給湯室に向かっていた時だった。
給湯室には数名の女子社員がたむろしていた。
(仕方ない。コーヒーは後にするか……)
と踵を返した時
「もう、ずっと何も無くて……。キスさえしてくれなくなったの……」
アイツの奥さんの声だった。
「私、早く赤ちゃん欲しいのに……。もう、飽きられちゃったのかな?」
ぐすぐすと鼻をすする音と、他の人達の彼女を慰める声が胸にずしりとのしかかった。
自分のお腹に触れ、何度身体を重ねても、決して命が宿る事の無い身体。
何度触れ合っても、それは変えられない事実だ。
まだ若い彼には、きちんと彼の遺伝子を残せる若い人が相応しい。
老いらくの恋に、付き合わせてはいけないと気が付いた。
私は足音も立てず、ゆっくりとその場を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます