第7話 認めたくない想い
まだ自分が20代の頃、職場に40代で未婚の女性が居た。
性格は大雑把で、制服のスカートの裾が解れると、平気でホチキスで留めるような人だった。
若い女の子が大嫌いで、ちょっとでも会社の男性に優しくされると、その子を1日無視するような人で、当時、パートで来ていた50代の女性から
「結婚は失敗しても良いから一度はしなさい。じゃないとあぁなるわよ」
と、女性からも笑われているような人。
彼女はいつまでたっても若いつもりで、10代の男の子が自分にだけ話しかけてくるのはなんでだと思う?って、私に「好きなんじゃ無いんですか?」と、明らかに言わせたい顔で聞いて来た。
私には2つ下に弟が居たので、10代後半の男の子が40代後半の女性に好意を持つとはどうしても言えなくて、
「お母さんみたいに思ったのでは?」
と言ってしまたのだ。
すると彼女は顔を真っ赤にして怒り出し
「あなた、失礼ね!」
と怒鳴ると、その日から私への虐めが始まった。
連絡事項は伝えない。
わざと私に電話応対をさせ
「ごめんなさいね〜。新人だから、な〜んにもわからないのよ!」
って叫んで取引先に言ったりしていた。
彼女の虐めはあからさまだったので、社内で問題になり、自主退職していった。
(私の他にも、新人が何人もいじめられていたのが原因だったのだけど……)
あの姿を見て、私はずっとあぁはなるまいと思って生きて来た。
どんなに自分が若く見えたとしても、所詮は40代。
肌の艶や張りが違うし、何より手の甲が若い子と明らかに違う。
老いる事を怖いと思った事も無かったし、私は魅力的に生きている諸先輩方が憧れだった。
自分も良い年齢の取り方をしたいと思っていたし、実際、そう生きていると思っていた。
何不自由の無い生活。社会的地位。
そんな自分の今までの価値観が、根底から覆されそうで怖かった。
あの日以来、三島健人は私を見掛けると声をかけてくるようになった。
とはいえ
「おはようございます」
とか
「今日はノー残DAYですから、さっさと帰ってくださいよ」
とか、相変わらず、可愛らしさのカケラもない会話。
でも、その言葉が温かく感じてしまうくらいには、私は彼に惹かれてしまったらしい。
後から分かったのは、彼の奥様は同じ会社で総務の女の子という事。
本社総務で、美人で有名な子だと社内の噂で聞いた。
今は時短勤務をしていて、妊活しているとかいないとか……。
子供を望めない私には、若い子との恋愛を望んではいけないと頭で理解していた。
私には、彼の遺伝子を残すことはもう無理だから……。
あんなに早く「女」であることを終わらせたかったのに、今、こんなに足枷に思うなんて……人間とは欲深い生き物だと思った。
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