第4話 年下のくせに

出会いは最悪だったのに、何故か彼とは縁があったようで……、別に示し合わせてもいないのに、毎日、偶然に改札でバッタリと出くわした。

いい加減、彼も私も眉を寄せてしまう。

決して小さいとは言えない駅の改札で、何故、偶然だとしても毎朝、到着時間が違うのに出会ってしまうのか?

あまりにも偶然が重なるので、敢えて時間を大幅にずらしたのにも関わらず、やっぱり駅で遭遇してしまった。

彼は、いつも何を考えて居るのかわからない顔で、駅で遭遇する私を見下ろしていた。

(ストーカーとか思われたら嫌だな…)

と一瞬思ったが、ふと

(あ!大丈夫か。40過ぎのババアが自分を追い掛けるなんて思う訳無いしね)

って安心していた。

(独身だったらそう思われてしまうかもしれないけど、一応、既婚者だし)

と、そんな風に考えていた。

既婚者で40歳過ぎて何が楽って、昔は痴漢やら勘違いされてストーカーの類に遭ってはいたけれど、結婚してババアになったから、誰も女として見ない楽さ。

もう、満員電車も怖くない!

それが嫌だと言う人もいるけれど、私は居心地の良さを感じていた。

年齢を重ねる事に不安や恐れなんて、この頃の私には全く無かったのだ。

だから年齢を聞かれても実年齢を答えていたし、周りからどう思われようが、なんと言われようが関係無かった。

変えようの無い事実を、無理して変えようと若作りしている人の気持ちがわからなかった。

私はずっと、パンツスーツに身を包み、颯爽とオフィス街を歩く女性に憧れていた。

異動して3日経過した頃、同じ職場の女の子が私の悪口を言って居るのが聞こえた。

「あんな風に、男か女かわからなくなったらお終いじゃない?」

フリフリの可愛いワンピースと、お姫様みたいにカールした髪の毛。

女を武器にした感じの彼女を、私は遠くから

「そういうあんたも、歳を取るんだよ」

って達観して見ていた。

そんな彼女だが、困った事に仕事が全く出来ない。

いや、やる気が無いと言った方が正しいのかもしれない。

いつもトイレで髪の毛やら化粧直しばかりしていて、「お前は仕事をしに来て居るのか?男を漁りに来てるのか?」と聞きたくなる程だった。

定時きっかりに帰るし、仕事もミスが多い。

電話応対も語尾を伸ばすので、注意したらパワハラだと上司にクレームを言って来た。

段々、やる気が無い子に仕事を任せるくらいなら……って、私が彼女の酷い書類を黙って手直しするようになる。

そうなると、彼女は益々付け上がって仕事をしなくなっていた。

表立って分かる電話応対はやってくれるが、派遣先が決まった派遣社員のジョブカードを一切作らない。

私、コディネーターで、事務職じゃないんだけどな〜と思いながらも、自席に戻って新しい派遣社員のジョブカードを確認した。

……困った。

今までは誰が何処へ何日に面接があるのかをわかる程度にはしてくれていた。

が、私の担当が全く手を付けられていない。

「友利さん、A社の事が何も入力されてないんだけど……」

と声を掛けると、社内チャットツールで他の部署の子と遊んでいたようだった。

「あれ〜。だって鮫島さん、出来る女だから〜。私の手伝いなんて、必要ないんじゃ無いんですか?」

って、髪の毛をいじっている。

「あのさ、勤務時間はちゃんと仕事してくれないかな?困るんだけど」

と言うと、部長が席に戻ったのを確認してから

「ひっど〜い!私が悪いって言うんですか?私、鮫島さんと一緒に仕事とか、本当に無理ですぅ〜」

って泣き出した。

いや、泣きたいのはこっちだよ。

すると部長は眉を寄せて私を呼び出し、一方的に注意をして来たのだ。


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