海底から逃げてみたくて

佐薙縋

第1話  

人生を変えてみたい。




俺は、佐木優人。25歳。

バンドをしながらバイトをしている。世間から見たらフリーターだろう。バンドを初めて三年が経った。ライブをしても来てくれるのは5人がやっとである。周りの人たちがどんどん売れていく。音楽業界のことを知るたびに嫌気がさす。自己肯定感はとてつもなく低い。だからこそもう生きる希望なんてない、なんてよく考えてしまう。曲で一般受けは狙いたくない。自分たちのスタイルを貫き通さなきゃダメだと。3年経ってもこのままな現状に焦りを感じていた。いい曲をかけない自分に嫌悪感を抱いている。そんな時にメンバー2人が辞めると言ってきた。俺がもっといい曲をかけていれば続けられたのにとひどく自己嫌悪に駆られた。周りのバンドを見ていると自分たちは海底で藻掻いている海藻にしか思えない。今までごめん、と言って解散することに。人生の唯一の生きがいを失った。



その日の夜、居ても立ってもいられずバーに行った。


悔しさと様々な感情から自暴自棄になって飲みまくった。時間も午前2時を回るところ、突然店主の加藤さんが言った。


「治験やってみないか。」


条件はこうだ。

・期間は三か月。

・治験が出来るのは2人のみ。2人で一部屋に暮らしてもらう。

・報酬は500万円。生活費として100万円支給。

・仕事などはやめる。



・効能に関しては教えられない。



最後の一つだけ気になったが、酔った勢いで「やる」と言ってしまった。


俺の人生は終わったも同然だし、大金がもらえるならやるしかない。バンドをやっていても稼げるのはごく一部だと知っているから尚更だ。日程と場所を教えてもらってその日は帰った。






時間は経って1週間後。言われた場所に集まった。そこにいたのは黒髪ロングで華奢な女の子だ。さっきからすごく睨まれていてる気がする、元々女性は苦手である。先が思いやられる。必要書類を書き終えて治験へ。


意外と治験はすぐに終わった。薬が大きかったため苦戦した。そして、お互いに生活費、位置情報を管理するためのスマホを貰った。服と食べ物などを買って住居に向かった。



住居に着いて、職員の方から書類を受け取った。相手のざっくりとしたプロフィールだ。

・名前は星街七海。21歳。

・仕事は、コンカフェ店員。

などの情報が書いてあった。そしてすぐに職員の方々は帰った。



とりあえず話しかけてみようとして、「趣味はなんですか?」「音楽」「好きな食べ物は?」「オムライス」「好きな…」「私は仲良くなる気はないから」とバッサリ切られてしまった。自分のコミュニケーション能力の低さにひどく落ち込んだ。でも彼女も俺も煙草は吸うみたいだ。一緒に吸ってなんとか話しかけてみようと思った。


「これだけは聞きたい。なんで治験受けたの?」


「逆にあなたはなんで?」


「人生に飽きたというか、どうなってもいいし、これが終われは大金貰えるしいいかなって」


「私も同じだけど文句ある?この3か月間私に近づかないで。この部屋にたまたま一緒に住んでいるだけなの。わかる?」



俺の一番苦手なタイプの人だった。怖いな、なんて思ってしまう。






この薬の性能を知らない二人の生活が始まった。










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海底から逃げてみたくて 佐薙縋 @kyomukyomu_000

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