第15話
「『Oct』ですか?」
聞いた事が無いギルドだな。まあ世界中にギルドはいくらでもあるし知らないだけだろう。
「ええ。今の所メンバーは非常に少ない上、目立った成果を出していないからまだ知名度は低いけど、全員が同年代の中でも抜けて優秀だと断言できるわ」
「そんな所に付いていけるんですか?」
可能性はあるかもしれないけれど、今の所俺はただの雑魚なんですが……
「勿論。私が認めた人材なのだから胸を張りなさい。それに、このギルドは新人の育成に注力していて、一人前になるまでギルドマスターが直々に教育を施すことになっているから」
「凄いですね……」
いくら少人数だからってギルドマスターがそこまでやってくれるんだ。
「加えて、希望者には住宅手当もあるし、病気やケガをした際はギルド側が全額負担するわ。そして給料は最低でも手取りで月75万よ」
「破格すぎませんか……?」
こんな好待遇聞いたこと無いんですけど。実質年収1000万オーバーな上に福利厚生も完備って。
「あなたレベルの人材を求めるギルドだからこの程度は当然よ」
当然じゃないんですが……
「もしかして、さっき挙げなかった所が不味かったりするんですか?休み無し休憩無しとか……」
「そんなことは無いわ。今挙げた部分以外も普通のギルドとほぼ変わらない待遇よ」
「ええ……」
何でそんなギルドが知名度無いの……
最早待遇だけで日本で有名になると思うんだけど。
「で、入るかしら?入らないかしら?」
困惑していると、杏奈さんが結論を急かしてきた。
答えは勿論————
「入らせていただきます」
選択肢は当然一択しかない。
知らないギルドではあるけれど、待遇は良いし、紹介しているのは『師走の先』という有名ギルドのギルマスの妹だ。殺されるみたいな事態は発生しない筈。多分。
「分かったわ。ではとりあえずこの用紙にサインをお願い。後、探索者登録カードを頂戴。コピーするから」
「はい、どうぞ」
俺は言われるがまま契約書にサインし、カードを杏奈さんに渡した。
「ありがとう」
そのまま杏奈さんは契約書とカードをスキャナーで読み込み、パソコンでどこかに送っていた。
「じゃあこれで全て終了ね。明日から頑張って頂戴」
「明日から、ですか?」
一応学校があるんですけど。
「ええ明日からよ。学校の卒業資格はあるんだから別に行かなくても良いんじゃない?こっちの方があなたにとってはギルドの方が良質な教育を受けられるだろうから」
「えっと……」
高校に行こうとやる気を出し、戻ってきてから一月も経たずに再び不登校になるって色々とどうなんだろう……
「ええ、分かっているわ。そんなに急にそう言われても不安しか無いわよね」
そんな俺の事情を知るわけがない杏奈さんは少しずれた予想をしていた。一応それもあるけども。
「でも信じてもらうしか無いわ。というわけでこれを使いなさい」
そう言って杏奈さんはレベル測定器を手渡してきた。
ん?
「え?」
「どうしたのよ。早くしなさい」
「いや、杏奈さんは『Oct』とは一切関係ないですよね?こういうのってギルドマスターとか、幹部の人の前でやるものじゃないんですか?」
杏奈さんは『師走の先』の人だよね。
「何を言っているの?だからやるのよ」
「え?」
「『Oct』は私が立ち上げたギルドよ」
「え?」
「おめでとう、貴方は私にとって初めてのギルド員よ」
「えええええええ!?!?!?!?!?!?」
俺は熱烈な勧誘を受け、杏奈さん一人しか居ないギルドに入ってしまったらしい。
は?????自分のギルドは???????
「私のギルドに関してなんだけど、さっき辞めたわ。新しいギルド立ち上げるからよろしくって」
「それで許されるものなの……?」
「麗奈姉は私に異常な程に甘いから。この程度なら許してくれるわ」
「ええ……」
「というわけであなたのレベルを見せなさい。私のギルド員なんだから義務よ」
「ええ……」
杏奈さんのいかれた行動に俺は唖然とするしか無かった。
「早く測りなさいよ」
そう言って測定するために測定器を胸に押し付けてきた。
「ちょっと待ってください。これ要らないですから」
俺は嫌な予感がするのでこの測定器を拒絶した。
この測定器は記憶が確かであれば50万くらいするタイプ。
つまり、これにはその人が所持しているスキルとその効果を表示する機能が付いている可能性が高い。
つまり俺が持っている夥しい量のスキルが全て表示される。この少し大きめのスマートフォンの画面に。
絶対壊れるよね。表示条件を超えましたってことで。
「命令に従わないって言うの?ギルドマスターの命令よ?」
そんな事情が分かるわけも無い杏奈さんは圧倒的な力で押し付けてくる。
俺はそれを拒否するべく、胸をきっちりとガードする。
「こんな高価なものを壊すかもしれないから駄目!!!」
そして俺は杏奈さんにそう叫んだ。
「どういうこと?」
俺のこの測定器を破壊するかも宣言を不思議に思った杏奈さんは力を緩め、測定器を収めてくれた。
「あのですね、それには俺の強さの源に理由がありまして……」
俺はレベルが1であることと、その代わりにスキルを無制限に獲得できることを説明した。
「ああ、だからあなたの攻撃力が私と同世代とは思えないほどに高かったのね」
「そういうことです」
「それが発覚したのはいつの話?」
「つい最近だね。これにもっと前から気付いていれば今はもう少し強かったと思う」
「それもそうね。ってことはあなたはダンジョンに潜るよりも外でスキル獲得に励んだ方が強くなれるのかしら?」
「今のうちはそうかな。コスパの良いスキルが結構あるみたいだし。でも、ある程度強くなったらダンジョンに潜った方が強くなれるとは思う」
モンスター特攻スキルや、実践関連のスキルはダンジョンに実際に潜らないと取得しにくいだろうからね。めぼしい身体能力や武術に関連するスキルを取った後はそっちの方が効率的だ。
「なるほど、分かったわ。あなたに必要なのはパワーレベリングでも、戦闘訓練でもなくスキル獲得の為の補助ね」
そう結論付けると杏奈さんはどこかに連絡を取った。
「じゃあスキルを獲得しに行くわよ。付いてきなさい」
そして俺は再びどこかへ連れていかれることに。
今回の移動手段はなんとリムジンでした。金持ちって恐ろしいね。
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