第14話

 これで無事に終わったかと思いきや、俺に対しての最大火力をぶつけてきた。


「決まって……ないです……」


 ここで見栄を張ってもギルドの力を使われたらすぐにバレるので、出来る限り小さい声で言った。


「決まってないのね。ってことはソロで探索者になる予定なのかしら?」


「いや、単に全落ちしただけです……」


 いくら探索者高校の中でも良い高校を卒業したといっても、レベルが1の雑魚なので箸にも棒にも掛からなかった。


「え、何で?」


 それを聞いた杏奈さんは心底驚いた表情をした。


「俺が弱いからに決まっているじゃないですか」


「その理由はあり得ないわ。まさか、面接の時に何か犯罪行為でも起こしたの?」


「そんなわけ無いですよね。本当に弱かったんですって」


「そう、まあ良いわ。話した様子ではおかしな人ではない事は分かるから」


「そこは納得しただけて幸いです」


 ヤバい人間性を持った男だと勘違いされなくて本当に助かった。


「じゃあ、質問なのだけど、もし仮に今から私が紹介するギルドに入れるとしたらどうするかしら?」


「入らせていただくに決まっているじゃないですか」


 言い方的に100%『師走の先』では無いし、ブラック気味なギルドである可能性もあるが、入れるというだけで最高なのだから断る理由なんて無い。


「分かったわ。じゃあ決定ね。そのギルドに今から行くわよ」


「え、本当だったんですか!?」


 流石に冗談だと思っていたんですけど。


「就職先が決まっていないと言っている相手にそんな冗談を言う程鬼畜な女では無いわよ」


「杏奈様……」


 今の俺には目の前に居るお方が女神に見える。


「どんな表情しているのよ。気持ち悪い」


「あっ、鬼畜」


「自分の表情を一度鏡で見てからもう一度考え直しなさい」


「すみません……」


 鏡に映っていた俺の表情は、放送禁止にされてしまいそうなレベルで見てはいけない類のものだった。杏奈様、すみませんでした。



「乗りなさい」


「え?」


 病院から出て、乗れと命じられたのは金持ち御用達のリムジンや高級車ではなく、移動に便利なタクシーでも無く、バイクだった。


「免許は持っているから安心しなさい」


「それって……」


 そう言って見せてきたのはダンジョン探索者用二輪免許。レベルが5を超えているダンジョン探索者のみが取得できる運転免許だ。


 普通の免許と何が違うのかといえば、取得に関する難易度。


 学科試験は普通の免許と変わりないのだが、技能試験の方は異常に難易度が低い。


 どうやらエンジンをかけられて、乗り物を前に走らせられれば合格らしい。


 探索者は動体視力が一般人よりも高い為、事故を起こしにくい事が原因らしい。


 実際に探索者の交通事故率は異常に低いらしいしな。



 それだけならただの便利なシステムなのだが、一つどうしようもない問題がある。


 探索者は運転が荒すぎる。特に若くして免許を取った奴らは。


 運転技術が足りていないのもそうだが、身体能力の影響で荒い運転に耐性がありすぎる為、無意識に運転が荒くなるらしいのだ。


「大丈夫なんですか?」


「当然よ」


 杏奈さんは自信満々だが、俺と同級生なのにC級以上の実力を誇る強者なのだ。想像を絶する運転をしてしまうことが容易に想像できる。


「早く乗りなさい」


 しかし、それ以外の選択肢は与えてくれないようで、強制的に後ろに乗せられる羽目になった。


「行くわよ。捕まってなさい」


「はい……うわっ!!!!」


 あんな強者なのに体はしっかり女性的なんだな、なんて邪な感情を持ったのも束の間、バイクは乱雑な走り出しを見せた。




 今回の杏奈さんの運転のお陰で、小学生に入る前に一度だけ行った、遊園地のジェットコースターを思い出しました。


「ここよ」


「ちょっと待ってください……」


 バイクから降りた杏奈さんは早々に中に入ろうとしているが、今はそれどころではない。抑えなければ吐きそうなんです。



「すいません、もう大丈夫です……ってえ?」


 酔いが治り、ようやく水平方向を見られるようになった俺は、目の前にある建物を見て思わず声を上げた。


「何をしているのよ。さっさと入りなさい」


「いや、だってここ……」


 目の前にあるのはギルド用のビルではなく、ただの一軒家。なんなら表札に卯月と書いてある。つまりこれはどう考えても……


「ギルドに入る気は無いの?」


「え、いや、入りたいです」


 本当に入るべきか否か躊躇していると、俺特攻の脅し文句を言われたので大人しく家の中に入ることに。


「お邪魔します……」


 中は想像通りただの家だった。2Lの水が6本入った段ボールや、明日捨てるであろう燃えるゴミの袋が玄関に置いてあることから、本当に生活しているのだろうことが容易に想像できる。


「お茶を注ぐからそこに座ってなさい」


 そしてリビングに入り、言われた通りにソファに座る。やたらとふかふかで、最早寝れるレベルである。


 当然ながらリビングも玄関同様に生活感溢れる内装となっているのだが、一つ大きな違和感があった。


 机、今座っているソファ。そしてテレビ等が、4人家族で住んでいる割には小さすぎるのだ。


 単にそういう家具ばかりを選んだという考えも無いことは無いのだが、その場合でも座る場所は最低でも4つは確保されているはずである。


 まるで、この家は……


「はい。どうぞ」


「ありがとうございます」


「じゃあ早速ギルドの話を始めるわね」


「はい」


「あなたが入るギルドの名前は、『Oct』よ」

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