第8話

 その後、特に問題は無さそうだったのでそのままスキルの獲得に移ることになった。


 最初は身体能力を上げた方が効率が良いだろうとの判断で、学園内にあるジムに向かった。


「なんか凄く見られてるね」


 そしてジムに入ったら、やたら皆からの視線を受けた。


「そりゃそうだろ。ここのジムは基本的にダンジョンに潜っていない奴らしか使わないんだから。今の時期なら1年生しか居ない筈なのに先輩らしき人が入ってきたら見てきて当然だろ」


「そういえばそうだった」


 基本的にジムは利用せず、外で鍛えていたから気付かなかったけれど、普通レベルが上がったらジムは使わないわ。ここにある器具って一般人用だから負荷に限りがあるし。


 一応探索者用のジムもあるらしいけど、それはレベルアップに必要な経験値が増し、身体能力が上がりにくくなってきた高レベル用で、駆け出しの探索者用の物は存在しない。


「ただ飛鳥の場合スキルを取る事が重要で、負荷は関係ないからね。軽い方が逆に回数をこなしやすくて便利だよね」


「だね」


「ってことでさっさとはじめていくぞ。まずは——」


 それから俺は、健太の指示に従って筋トレを始めた。


 今回選ばれたのは回数が条件のスキル達だったので、10回こなしてスキルを獲得しては次の器具へ向かうという形を取っていた。


 中には一般人には10回こなせるか怪しそうな類の物もあったが、今の俺には大した負担では無かった。


「よし、ここの器具で取れるスキルの初級は取り切ったな!」


 お陰で2時間もかからずに【レッグカール[初級]】や【プルダウン[初級]】等21個×2のスキルを手に入れることが出来た。


「だね……」


「あれ?弥生は?」


「外に居ると思うよ……」


「どうしてだ?」


「周囲の視線に耐えられなかったんだと思うよ」


 俺たちからすればスキルを大量に獲得するという非常に真面目な作業だったのだけれど、周囲から見れば一瞬器具に手を付けては別の器具に移動する意味不明な3人である。


 最初は先輩なのに何しに来たのかな、みたいな視線だったけれど、今では何やってんのあの人たち気持ち悪い、的な視線に様変わりしていた。


 健太程熱中しておらず、俺のように当事者でもない弥生は逃げ出して当然である。


「うわっ、マジだ」


 健太は俺に言われて初めて視線に気づいたようで、相当驚いていた。


「とりあえずさっさと脱出したいかな」


「そうだな」


 俺たちはステータスに物を言わせ、猛スピードでジムから出ていった。


 そして案の定外で待っていた弥生と共に別の場所へ向かった。


「ってわけで、最初は素振りです!」


 次にやってきたのは演習用武器保管庫。木刀や竹刀、スポンジのヌンチャク等の訓練用に作られた安全な武器が並んでいた。


「まずはこれを100回振って中級を手に入れよう」


「うん」


 最初に渡されたのは竹刀。比較的軽く、方針が分かりやすいからだと思われる。


「じゃあ開始!」


 それから俺はどうしたら素早く100回、つまり中級を獲得できるかを意識しつつ素振りを続けた。


 竹刀が終わったら次は木刀、刃が潰された日本刀と様々な武器が続き、最後に寸鉄という初めて聞いた武器の素振りをして丁度30個を突破して終了となった。


「思ってたより時間かからなかったね」


「だね。あまり関係が無さそうでも同じ素振りなら影響があるみたい」


 竹刀の素振りをして得た【竹刀素振り効率[初級]】というスキルは一見竹刀だけ、もしくは刀系統までに影響が及ぶと思っていたのだが、斧や槍、果てはヌンチャクまで影響が及んでいた。


 お陰で6個目は85回、11個目は70回とスキルを獲得すればするだけ回数が短縮されていった。


 加えて効率ではなく普通の素振りスキルにより素振りの速度自体も向上していた為、回数毎の時間も短縮された。


 結果として、最後らへんは最初の6分の1位の時間で終わっていた。


「割と範囲が広いのはラッキーだったね。威力的には皆と同じくらいに見えるもん。ね、健太?」


「そうだな。正直ビビってる」


「まあ身体能力が上がっているわけじゃないから強さ的にはそこまでだけどね」


 あくまで皆に追いついたのは武器を振るう速度のみで、それ以外は何も変わっていないのだ。


 だから近接を避け、遠距離攻撃を徹底された場合、どうやっても追いつけないので確実に負けるとは思う。


 それでも大きな進歩だけどね。


「じゃあ次って言いたい所だけど、そろそろご飯の時間だから寮に戻ろっか」


「そうだね」


 時計を見ると6時50分を過ぎており、夕食の時間である7時まで猶予が無かった。


「終わったらもう一回来よう」


「分かったよ」


 まだ俺にスキルを取得させ足りないらしく不満気な健太にそう約束し、夕食に向かう事にした。


 俺が一人で帰ってきた時と違い、健太と弥生が隣に居たので不用意に絡みに来る人は居なかった。


 夕食後は相手が居ないと出来ないタイプの武術系スキルを20個程獲得した。



 そして翌日も二人と一緒に、ということは無く、三人で事前に作成したメモを元に一人で練習となった。


 一番大変研修が終了したらしいので授業には出ているけれど、流石に放課後は忙しいらしい。


 まあ、折角戻ってきたのに二人に頼りっきりってのも恥ずかしい話だからこっちの方が都合が良いかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る