第4話

「なんかまた来ちゃったな……」


 というわけで夏希に出かけてくると伝えてやってきたのは、もう二度と来ないと思っていた探索道具専門店。


「さっさと目的の物を買って帰ろう」


 長居すると精神がやられそうな気がしたのでさっさと用を済ませよう。


 というわけで店内に入った俺は、迅速に計測器がある場所に向かった。


「あった」


 目的の物の名前はそのままで、スキル取得限界計測器。見た目は一見どこぞの硬貨だが、数字が書かれているはず場所に何も書かれていない。


 そしてお値段は驚異の100円。


 一応難易度がそこそこのダンジョンじゃないと手に入らない逸品なので最初は10万とかしたらしいのだが、全人類同じ結果しか出ないので徐々に値が下がり、今では100円で売られている悲しき商品だ。


 そんな悲しき商品を手に取り、俺はレジで会計をしたら怪訝な目で見られた。


 まあ、小学生とかならともかく高校生くらいの男が何の価値も無い商品だけを買いに来たらそんな顔をするのは当然である。


 俺はその視線に耐え、会計を済ませて真っすぐ家に帰った。


 そして、念のために勉強部屋に入った。


「よし、使うか」


 箱を開封し、コインを取り出した俺は説明書に従ってコイントスをして、なんとかキャッチした。


 意味が分からないが、それが正しい使い方らしい。


 期待に胸を膨らませて、コインを隠している手を離す。


『∞』


 そこに書かれていたのは5ではなく、8を横に傾けた数字。


 なるほど、8個か。


「じゃないわ」


 どう考えてもこれは無限だ。


 このコイン、丁寧なことに上がこちらだとマークが付いているのだ。理由は分からないが、6と9を間違えないようにするダンジョン側の親切心だろう。


「ってことは……?」


 本当に無限にスキルが獲得できる?


 まだ信用に値しないので、違ったとしても大丈夫そうなスキルを取ってみる。



 よし、これにしよう。


 選ばれたのは『集中』と『読解』。条件の都合上、集中が最上級、読解が上級まで。合計で6つだ。8個を超えるので、取れたら無限で確定としよう。


『スキルを獲得しました』


 取れた。というか6つ取るとスキル名が省略されるんだな。


「とりあえず、取れるだけ取ってみようか」


 俺は現状獲得条件を満たしている有能そうなスキルを取れるだけ取ってみよう。


『スキルを獲得しました』


 最上級まで獲得できたのは主に『国語』、『算数』、『数学』、『理科』、『社会』、『英語』、『運動』等の学校教育で強制的に課される中で、小学校から始まった類の物。


 上級まで獲得できたのは主に『物理』、『化学』、『数学』、『地理』、『公民』、『古文』、『漢文』といったその中から細分化された類の教科。


 中級まで獲得できたのは、『古文文法』、『有機化学』、『ベクトル』等、科目の1分野と更に細分化されたもの達。


 初級まで獲得できたのは、ブラウザとか動画とかでちょっと調べた程度の情報を得た類の分野。


 それ以外にも『読書』とか『日本語』とか勉強に関連するスキルを色々取ったが、挙げるとキリが無いので省略する。


 とにかく結論として、滅茶苦茶勉強に関する効率が上昇した。


 ちゃんと計算していないし、どれがどの範囲まで影響するのかが分かっていないので詳しい所は分からないけれど、


『ワインの学習時間が10時間を突破しました。よってスキル【ワイン理解[初級]】が取得可能になります』


『ビールの学習時間が10時間を突破しました。よってスキル【ビール理解[初級]】が取得可能になります』


 と孤児院のパソコンでそれぞれ軽く40分位眺めただけでこのスキルが取れてしまったことから、勉強効率は1.5倍程度だろう。


 今までの知識が全く影響しない物でこれなので、持っているスキルと関連性が深い物を選べば2倍を軽く超えるのではないだろうか。


「……」


『スキルを獲得しました』


 俺は身体能力に関連しそうなスキルを手当たり次第に獲得した。


 そして庭に出た俺は、安全のために十分な距離を取ってから立ち幅跳びをした。


「うわっ!」


 想像以上に飛距離が出た結果、壁に衝突しかけた。


「大体5m位かな」


 探索者ではない高校生の平均が確か2mちょっとだった筈なので、大体2.5倍くらいになっているっぽい。


「とりあえず裏山に行ってみよう」


 とりあえず孤児院の庭程度の広さでは危ない事だけは分かるので、人気が無くて広めの空間が確保できる裏山へと向かった。




「なるほどね……」


 それから大体30分程検証を行った結果、身体能力が平均して2倍くらい上昇していることが分かった。


「ただ『跳躍』が反映されるだけじゃないみたいだね」


 ただ真上に飛ぶだけなら、『跳躍』のスキルが各級適用されるだけだと思っていたけれど、この様子だと『着席』、『起立(地面)』、『立ち幅跳び』、『足曲げ』、『対空気抵抗』等、跳躍とは一見関係なさそうなスキルも、動作が少しでも似ているからという理由で反映されていそうだ。


「でも皆の半分くらいか……」


 ウチの高校では生徒が卒業する際の平均レベルが10前後だと言われている。


 で、その身体能力は大体一般人の4倍に該当するらしい。


 だから2倍ちょっとの俺はその半分。


 レベルで換算すると3とか4とかその程度だったはず。これはダンジョンに潜り始めて1カ月とか2か月で達成できる程度のレベルである。つまり3年生としてはどうしようもない雑魚に過ぎない。


 しかし、


「皆に追いつくことさえ出来れば」


 探索者としてやっていけるかもしれない。


 比率は低いけれど、こっちは乗算で強くなっていくんだから。


「行かなきゃ!」


 居ても経っても居られなくなった俺は、全力疾走で家まで戻った。


「夏希!やっぱり探索者として生きていくよ!」


 そして、俺はテレビを見ていた夏希に宣言した。


「え?急にどうしたの?」


 当然ながら困惑している夏希。そりゃそうだ。探索者を諦めて勉強までしていた人が突然探索者になると言い出したんだから。


「強くなる光明が見えたんだ!」


 まだ確定ではないけれど、確信はあった。


「そう、良かった。何かを見つけられたんだね」


 そんな俺の表情を読み取ったのか、嬉しそうな顔で言ってくれた。


「うん」


「じゃあさっさと動き始めなきゃ。それでもまだ皆よりは弱いんでしょ?」


「まあね」


「なら早く行きなよ」


「分かってる。ありがとう」


「行ってらっしゃい」


「行ってきます!」


 俺は必要最低限の物だけをかき集め、学校へと走って向かった。

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