高校でずっと虐めてきたアイツ、一人暮らしを始めたら何故かお隣りさんだった件。
すろう
第1話 「最悪の再会」
「ふぅ、この箱でやっと全部か…」
「おーい司、この本棚ってここら辺であってるか?」
「あぁ、合ってる合ってる」
そんな会話を親父としながら、引っ越しの作業が進む。
今日からこの俺、北島司は一人暮らしを始めることになったのだ。
「それにしても、あの司がまさか上京して一人暮らしすることになるなんてなぁ...」
突然、親父が口を開く。
「な、なんだよ急に...」
「父さんも母さんもずっと心配してたんだぞ?いつもパソコンの前で『エミちゃん可愛いぃ!!!!』とか叫んでたあの司が、まさか都内の大学に受かっちまうだなんてな...あの時は槍でも降ってくるんじゃないかと思ってたんだからな?」
「はぁ、何だよそれ...あと、エミちゃんだけは馬鹿にするなよ?」
エミちゃんは俺の最推し。エミちゃんを馬鹿にした奴、絶対にユルサナイ。
「さて...それじゃあ父さんはこれで帰るけど、いいか?」
「あぁ、大丈夫」
「...それじゃあな、飯はしっかり食えよ?」
「...戸締りはしっかりしろよ?」
「...はいはい、分かってるから」
「...何かあったらすぐに」
「過保護かアンタは」
無理矢理親父を外に出した俺は、ガチャッと玄関を閉める。
そうして引っ越し祝いにばあちゃんに買ってもらったソファーに寝っ転がり、早速スマホを弄り始める。エミちゃんがヒロインの漫画、『胸キュン高校生ライフⅧ』の続きを読みたかったのだ。お察しの方々もいるの思うのだが、俺は生粋のオタクだ。
「エミちゃん今日もてぇてぇわぁ...まじ天使だわ」
そんなことを呟きながら、画面をスワイプしていった。
一区切りついて、スマホの時計を見ると17時30分を指していた。
「...あ、そういえばお隣さんに挨拶してなかったな」
母さんから言われてたっけ。引っ越しが終わったらお土産を持ってお隣さんにあいさつしなさいって。
俺は体を起こし、ひとつの紙袋を持って玄関へ向かう。
この部屋はマンション3階の302号室。右隣の303号室は空き部屋で、左の301号室は鈴坂と書いてあった。
ピーンポーン。俺はそのインターホンを押した。
「はーい」
女性の声だ。一体どんな人だろうか。綺麗なOLさんだったらいいな。
「あのー、隣に引っ越してきた者なんですけど...」
「あ、今行きまーす」
ガチャッ。
俺は、これから起こる出来事に後悔することになるとは思ってもいなかった――。
「こんばんは、隣に引っ越してきた北じ.........え」
一瞬、俺の思考回路は停止した。
茶髪のロングヘア。整った顔立ち。華奢な体型。誰もが見た瞬間、この人は『清楚系美少女』だと思ってしまうだろう。
だが、俺はこいつを知っている。
目の前の女、鈴坂結衣は高校生の時に俺を虐めてきた同級生だ。
「お、お前!まさか鈴坂か!?どうしてこんなところに...!」
そう俺が問うと、そいつは表情を一気に曇らせて...
「そ、それはこっちのセリフよ!!どうしてアンタがこんなところに...」
「言っただろ?俺は今日隣に引っ越してきたんだよ」
「はぁ!?陰キャのキモオタが私の隣に住むとかマジ最悪なんですけど!」
目の前の清楚系美少女は何処へ行ったのやら。まるでゴミを見るような目で俺を罵ってくる。あぁ、最悪だ。こいつと喋るだけで気分が悪くなる。
「...これだけ渡しておく、じゃあな」
半ば強引に紙袋を鈴坂に渡し、自分の部屋に戻ろうとする。
「...は?アンタのお土産なんていらないんだけど」
知るかそんなこと。
まだちょっと生暖かいソファーに座り、一言
「変わんねぇのかよ、アイツも」
高校でずっと虐めてきたアイツ、一人暮らしを始めたら何故かお隣りさんだった件。 すろう @slow_1025
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