第45話 運命

「んー! よく寝れたー」

「起きられましたか⁉」

「うわっ! びっくりした! なんでそこにいるんだよ⁉」


 オズが気持ちよく眠りから覚めたと思うと、横にはジークが椅子に座っていた。

 なぜかジークは焦っており、オズが目を覚ますとすぐに大きな声で話しかけてきた。

 オズは、不機嫌そうにジークがなぜ部屋にいるのかを尋ねた。


「ザワザワザワザワ」

「ってか、朝からうるさいなー」


 オズが暮らしている建物の外には、沢山の人が群れており、騒いでいる。


「魔王、じゃなくてオズ様、外で街の人たちが大騒ぎしております!」

「めっちゃ聞こえるよ。昨日のバハムートの事だろ?」

「はい」

「それなら、説明すれば大丈夫だろ」


 オズは何も問題が無いかのように平然としている。

 しかし、ジークはオズとは真逆の考えをしているのだ。

 余裕そうに着替えているオズにジークは問う。


「どうやって説明をするのですか?」

「それは、昨日のことを全部素直に話すだけだって」

「今の状況では、誰もそのようなことは信じてくれませんよ!」

「まあ大丈夫だって。じゃあ、行ってくる」

「ちょっと待ってください!」


 オズは、ジークの話に耳を傾けずに足早に部屋を出て、建物の外に出た。


「出てきたぞ!」

「早く捕まえろ!」

「うわっ、マジかよ」


 オズが外に出たと同時に人々は、オズに向かって走ってきた。

 オズは慌てて群れから距離を取り、大声を出す。


「昨日のモンスターは僕のではないんだ!」

「そんな言い訳が通用するわけねぇだろ!」

「街を襲っただけじゃなく、嘘までつきやがるぞ!」

「聞いてくれよ! 頼む!」

「うおぉぉぉぉ!!!!」


 人々はオズの話に対して聞く耳を持たず、ひたすらオズを捕まえようとする。

 それに対してオズは、逃げながら声を張り上げて説明する。


「どうにか話を聞いてもらわねぇと……は?」

「失望したぞ」

「グハッ」


 オズがどうしようか考えていると、上からラッシュに不意打ちをやられてしまった。

 頭を投げられた為、オズの意識はだんだんと薄くなっていく。


「頼む、聞いて、く、れ……」


 オズはその場に倒れ、気絶してしまった。



 ◆



「くっ、頭が痛い。ってここは何処だ⁉ なんで縛られているんだ?」

「早くやれー!」

「こんな奴を生かしておくなー!」


 オズが目を覚ますと手足が縛られて、ギロチンの下に寝転がっていた。

 オズは状況が理解できずにパニックになっている。

 そして、多くの観衆がオズの周りを取り囲むように集まっている。

 観衆たちは、オズに対して罵詈雑言を浴びせている。


「オズー!」

「オズ君!(キラーン)」

「オズゥー!」

「オズ!」

「……」

「みんな! 頼むよ! 誤解を解いてくれよ!」


 そんな中、Sクラスのみんなが必死にオズの名前を呼ぶ。

 オズは、必死にクラスのみんなに誤解を解いてもらえるように頼む。


「同級生の言葉は信用できないよなぁ!」

「おおぉぉぉ!!!」


 完全にオズが犯人とされており、5人でも弁解の余地が無いようだ。

 5人は必死にオズが犯人ではないことを訴える。

 しかし、誰も聞く耳を持たない。


「悪魔が!」

「悪魔はさっさと消えろ!」

「悪魔!」


 観衆がオズのことを悪魔と呼びだす。

 次第にその声は大きくなっていく。


「悪魔!」

「悪魔!!」

「悪魔!!!」


 バンッ!


「「「オズ!」」」


 クラスのみんなが大きな声でオズの名前を呼ぶ。

 大きな音と共にギロチンの刃が落ちてくる。

 刃の向かう先は、もちろんオズの首だ。


「悪魔……か。ハハッ」


 オズは小さな声で呟き、そして笑った。

 オズは心の中で


 せっかく人間の為に頑張ったのに……

 転生しても人間から嫌われる運命だったのか……


 と、自分の運命を憎むかのような気持ちになっていた。

 それと同時にとても大切なことを思い出した。


「ゼシル、あいつだけは倒さねぇと……」


 ビュウゥゥン!!!


 ドンッ!


「い、居ないぞ!」

「どこに行ったんだ⁉」


 刃がオズに触れようとした瞬間にオズの姿が消え、刃はそのまま下まで落ちた。

 その場にいる全員がオズのことを探す。


「あそこ居るぞ!」


 オズは何もなかったかのような姿で立っていた。

 観衆は、オズに向かって走りだす。


「やり残したことがある。それが終わるまでは死ねない」

「何言ってんだ!」

「僕は人間界から姿を消す。探しに来るなよ。特にお前ら」

「オズ……」

「……」


 オズは淡々とした口調で話す。

 そこには息を呑むような緊張感があった。

 誰も言葉を発することができない。


 ビュウゥゥン!!!


 そうしてオズは突風と共に姿を消した。

 しばらくの間、その場にいた人たちは動くことや声を出すことすらできずに、ただ立ち尽くしていた。

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