第33話 アリアの意外な戦い方
「依頼だから、遊べないのかー」
アリアは、この巨大スライムがS級ということを信じていない。
それもそのはずだ。普通のスライムはE級なのだから。
それに、ジャックとサーシャがスライムの体内で遊んでいると思っている。
アリアは、勇者だった頃によく巨大スライムの体内に入り込み、そこから早く脱出するという遊びをよくしていた。
一般的には、スライムの体内での身動きは不可能と言われている。
しかし、アリアは特に苦労することなく身動きをとることができる。
それは、身体の使い方が独特で、最も効率のいい動かし方をしているからである。
アリアは、真面目なので『依頼』となると何でも油断をせずに全力でする。
「
「
そう言うと、
それゆえ、収納できる量は限られている。
アリアにも限界はあるが、必要なもの全て入れても余るほどの大きさがある。
そして、アリアは持っている剣をしまい、刃の反った短めの剣を2つ取り出した。
「これでいくよー!」
「双剣かー。いいねー」
「切り刻んでいくよ!」
取り出した2本の剣は、『双剣』である。
双剣は、刃が短くて反っている為、長い剣よりも威力は落ちるが、攻撃回数が圧倒的に増える。
今回の様な防御力が弱く、再生が早い相手にはもってこいの武器だ。
アリアの考えは、スライムの再生速度よりも早く核まで全力で切り刻んでいくことだ。
「双剣に持ち替えただけで、私の作戦と変わらないわ。どうせ無理だわ」
サーシャが言うように、ここまでだと、先ほどのサーシャとあまり変わらない。
変わっているのは、剣の種類だけだ。
しかし、アリアはただスライムに突っ込んでいくのではない。
そこに誰でもできるが、誰も思いつかない作戦をするのだ。
「ちょっと痩せてもらうよ!」
そう言うと、アリアはスライムの側面を回りながら次々に切り刻みだした。
「そんなことしたら、スライムが分裂するわ!」
「アリアちゃん、何考えているんだ?」
スライムは、本体から切り離されると、その部分に核が作られて活動を始める。
それを知っているはずのアリアが、どんどんスライムを切っていく。
そうして、分裂したスライムが1000体程になると、ジャックとサーシャは体外に出ていて、本体のスライムはちょっと大きいだけのスライムになっていた。
「あ、そういう事なのか!」
サーシャは、小さくなったスライムたちを見てようやくアリアの狙いに気が付いた。
そう、アリアの狙いは、スライムを小さくすることであったのだ。
巨大スライムは、小さなスライムが何体も集まって形成される。
1体の塊としてみると強力でも、細かくしていくとE級のモンスターとなる。
力に頼らず賢明に戦う。サーシャが望むような戦い方であった。
この方法は、ある程度の剣術が必要だが、Sクラスの人たちなら難なくできることだ。
「じゃあ、またスライムが集まる前に、みんなでスライム退治だよ!」
「わ、わかった」
「了解です」
そうして、すぐにスライム退治は終わった。
「みんな、お疲れ様。今日はこれで終わりだから、帰って休んでいいよー」
レイからの話が終わり、3人は学校へと帰る。
「アリア……」
「どうしたの?」
「ごめんなさい!」
「きゅ、急に何のこと⁉」
「あなたが才能に頼っているだけだと思っていて嫌っていたの。でも、今回の戦い方を見ていると、そんな事はなかった。本当にごめんなさい!」
サーシャは、アリアが才能だけを頼りに、何も考えずに行動していると思っていたようだ。
サーシャは、昔から村の人たちに弱いと馬鹿にされていた。
しかし、沢山考えて一生懸命努力し、Sクラスになった。
そんな時に、いつもヘラヘラしていて何も考えずに、才能に頼っているようなアリアに出会ったのだ。
『才能に頼る』、このことがサーシャがアリアを嫌っていた理由であった。
しかし、今回の戦いでアリアが考えながら戦っていることを知り、努力をしていると理解したのだ。
「全然いいよ。これから仲良く生活していこうよ!」
「うん。ありがとう」
アリアは、笑顔でサーシャに言った。
サーシャは、気まずそうにも笑顔を見せた。
「俺も、周りに流されてたよ。ごめん!」
「全然いいよ。仲良くしようね」
「おう! それで、好きだ! 付き合ってくれ!」
「ごめんなさい」
「即答だと⁉」
今回の講義で3人の仲は一気に縮まった。
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