第20話 決戦?

「そろそろ時間か」

「そうだね。緊張するよ」

「アリアでも緊張はするんだな」

「そりゃあするよー。だって、世界の平和が託されてるんだよ。オズは緊張しないの?」

「1人だったらしないんだけどな」

「それってどういう事よ!」

「まあ、緊張してるってことよ」

「ふぅーん」


 2人での修行が始まってから、1ヶ月があっという間に過ぎた。

 今、2人はバハムートが封印されている石像の前にいる。


「そろそろ移動するか」

「そうだね」

「摑まっとけよ」

「おっけー」

転送トランスファー


 そうして、オズたちは村から遠く離れた何もない場所へと移動した。



 ◆


「よし、大丈夫だな」

「準備開始だね!」


 2人は、戦いのための準備を始めた。

 先ほどまでの空気感は一変し、緊張した空気が流れる。

 2人は、自分の力が通用するのか、世界を守れるのか、など様々な不安が空気をより一層張り詰める。

 集めた情報からすると、今の状況では、五分五分の力の差であればいい方だ。

 しかし、あくまでも情報なので、実際の強さは分からない。

 人間にとって、分からない以上の不安要素は無い。


「オズ、準備できたよ!」

「こっちもできたぞ」

「やっと来たね」

「ああ、油断はするなよ」

「わかってるよ」


 ガタガタ!


「う、動いた!」


 石像が激しく揺れ始める。

 これは、封印が解けかけている証拠である。


 ガタガタ!


「来るぞ!」

「うん!」


 ドガァァン!!!


 石像が壊れると共に、地面が大きく揺れ、目の前にはとてつもなく大きいドラゴン、『バハムート』が現れた。

 バハムートは、他のモンスターとは比べ物にならない程のオーラを放っている。


「すごい迫力だ。本当に勝てるのか?」

「ここまで来たら、やるしかないよ」

「お前たちか。この私を倒そうとしているのは」

「そうだ。お前、話せるんだな」

「当たり前だ。私を誰だと思っている」

「くそ、厄介だな」


 バハムートは、ビブラートの聞いた声で話す。

 バハムートが話せることを知った2人の表情は、さらにきつくなった。

 話せるということは、知能を持っていることを意味する。

 知能を持ったモンスターは、他のモンスターよりも数倍強くなる。


「お前たちに言うことが―」

「いくぞ、アリア!」

「おっけー、オズ!」

「ちょ、待て待て! お前たち、私の話を聞くが良い」

「なんだ、早くやらせろよ」

「話って何?」


 オズとアリアが戦おうをした時、バハムートは2人に何か話しだした。

 2人は、相手の作戦ではないかと疑いながら、話を聞く。


「私は……」


 バハムートは、ゆっくりと話し出した。

 オズとアリアは、もしもの為に戦闘の体勢をとったまま聞く。


「私は、戦う気はない」

「は?」

「え?」


 2人は困惑のあまり、開いた口が塞がらなかった。

 戦う気しかなさそうな雰囲気で、戦わないなどありえるはずがない。

 2人の返事がないので、バハムートは続けて言った。


「私は、戦わないぞ」

「なんで?」

「戦い、好きなんじゃないの?」

「だって、お前たちに絶対に勝てないもん」

「何を言ってるんだ? 2人合わせてやっとくらいだろ?」

「お前たち、何を言ってるのだ? お前らの1人でも、私は瞬殺されるぞ。今も全身が震えてたまらん」


 オズとアリアは、1つ想定外なことがあったようだ。

 それは、2人が強くなりすぎていたことである。

 2人の実力は五分五分の為、気づかなかったようだが、とっくの前にバハムートを越していたようだ。

 バハムートは、2人の圧に気圧されて、動けなくなっている。

 ビブラートの聞いた声というのは、単純に声が震えていたのである。

 2人は、自分を低く見積もり過ぎた為にそのような考えを持っていたのだ。


「そんなこと言ったって、お前を倒さないと安心しないから、倒すよ」

「そうだね。何するか分からないし」

「これだけ言っても疑うのか……」

「まあ、危険なモンスターだし」


 バハムートは半ば絶望した声で言った。

 声だけでなく、全身で悲しみを表現しているように見える。


「それじゃあ、小さくなってよ」

「わ、わかりました」

「アリア、何をする気なんだ?」

「私に考えがあるの」


 アリアは、何か思いついたようで、目を輝かせながら進めていく。

 バハムートは、困惑しながらもアリアに従う。

 もう、バハムートの威厳は一切残っていない。


「これくらいでいいかな」

「あの、何をするんですか?」

「オズの『テイム・モンスター』になってもらうの」

「なるほど。それなら安心も保証できるな」

「わ、私がですか?」

「そうだよ! じゃないと倒すよ?」

「わ、わかりました」


 アリアの考えとは、オズが『テイマー』となってバハムートを支配することであった。

『テイマー』とは、モンスターやその他の動物とかを飼い慣らすことである。

 バハムートに拒否権は無い為、早速行われた。


「無属性魔法、支配テイム

「これで安心だね」

「だな。ナイスアイデアだったな」

「えっへん!」

「あのー、私は帰ってよろしいでしょうか」

「おう、いいぞ。必要な時に呼ぶから、よろしくな『ハム』」

「あの、ハムっていうのは……」

「ああ、お前の名前だ。長いのは嫌だからな」

「わかりました。では、失礼します」


 そうしてバハムートは、消えていった。


「意外とあっけなく終わったね」

「そうだな。僕たちも帰ろうか」

「そうだねー」


 こうしてオズとアリアは、想定外の方法で世界の平和を守った。

 最強のモンスターを飼い慣らした人間が、これからどのような生活を送るのかは、誰にも分からない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る