第13話 アリアの決心(1)

「オズ、朝よー。起きなさーい!」

「はーい。んー! よく寝たー!」


 母さんの声で起きたオズは、目を擦りながらリビングへと降りて行った。


「母さん、おはよう」

「オズ、おはよう。朝までねるなんて、余程疲れてたのね」

「朝まで、って帰った時間夜に寝たんだから普通じゃないの?」

「覚えてないの? 夕方前に帰ってきて、寝るって部屋に行ってから、起きてこなかったんだよ」

「あ、そうだった」

「身体には気をつけなさいよ。それじゃあ、朝ごはんにしましょう!」

「はーい」


 昨日オズは、かなり歩いたのに加えて、全力の魔法を使ったことによって疲労がたまっていたのだ。

 そのせいで、オズは半日も寝ていたことや、帰った時間でさえ覚えていない。


「さあ、食べましょう!」

「いただきまーす」

「オズ、」

「ん、なに?」

「話があるんだけど……」

「な、なに?」


 母さんのさっきまでの笑顔は消え、真剣な表情で話す。

 オズは、何を言われるのか想像がつかずに、緊張した様子で母さんを見る。


「……」

「……」

「……」

「……」


 しばらくの間、沈黙が続く。

 そんな沈黙を破ったのは、母さんでもオズでも無く、アリアだった。


「オズー! 遊びに行こー!」

「ったく、話があるってのに」

「オズ、いってらっしゃい」

「えっ、で、でも、話があるって―」

「話はまた今度にするわ」

「わ、わかった」


 母さんは、笑顔でオズに言った。

 オズは、少し戸惑いながらもアリアの元へ向かった。


「おはよう、アリア」

「おっはよー!」

「朝から元気だな。疲れは溜まってないのか?」

「溜まってるよ」

「じゃあ今日はのんびりしよ―」

「そんな時こそ、運動でリフレッシュでしょー!」

「なんでそうなるんだよ!」

「それじゃあ、今日は街まで競争ねー! スタート!」

「お、おい、街までどれだけかわかってるのか⁉」

「細かいことは気にしなーい! 早く来ないと置いていくよ!」

「もう、仕方ねぇな」


 オズは、アリアの元気さを見て、思わず笑顔がこぼれた。

 そして、さっきまでの不安が一気に吹き飛んだような感じがした。


 ビュウゥゥン!!


「お、オズ⁉」

「早くしねぇと置いていくぞ」

「魔法を使うなんてずるいよ! 魔法は使わないって言ってたじゃん?」

「そんなこと言ったっけなー。覚えてないな」

「それなら私だって! 身体強化アビライズ!」


 ビュウゥゥン!!!


「神と悪魔、やっぱりあいつらは怖いや」


 アリアの魔法は完ぺきではない為、結果として互角の速さで走っている。

 その速さは、この世界の乗り物のどれとも比べようにならない程だ。

 2人は、そのままのスピードで街に着いた。


「はぁ、はぁ、今日は、僕の勝ちだ」

「はぁ、はぁ、今日のは、たまたまだよ。 ちょっと手加減してあげたんだよ」


 今日の勝負はオズが勝ったようだ。

 アリアは、悔しかったようで言い訳を次々に並べている。

 街までは、普通に行くと2日は掛かるところだが、2人は僅か20分で到着した。


「オズ、なんで街まで来たの?」

「お前が行きたいって言ったからだろ!」

「行きたいなんて言ったっけ?」

「自分ではっきり言っただろ。なんで行きたかったんだ?」

「まあ、歩きながら話すよ」


 そうして、アリアとオスは歩き出した。

 今日のアリアは、何か変だ。どこか、悲しい目をしているように見える。


「街はやっぱりすごいねー」

「そうだな。それで、なんでなんだ?」

「君、かわいいねー。お兄ちゃんたちと遊ぼうよー」

「なんですか、どっか行って下さい」


 いかにもバカそうな2人組が、アリアにナンパしてきた。


「そんなにツンツンしなくてもいいんだよー。こんな弱そうな奴と遊ぶより、俺らと遊んだほうが楽しいってー」

「オズよりお前らと遊んだ方が楽しいって?」

(ま、まずい。こいつら、アリアを怒らしやがった)

「アリア、早く行こ」

「クソガキ、待てよー」


 バカ2人がオズのことをバカにして、アリアはとてつもなく怒っているようだ。

 アリアが怒ると、2人は死んでしまうと思ったオズは、アリアの手を取って立ち去ろうとしたが、1人がオズの腕を掴んできた。


(バカ! 死にたいのか!)

「お前ら、オズから手を離せよ。殺すぞ」

(ああ、終わった)

「お嬢ちゃん、怖いねー。それにしても、こいつは女の子に守られて、恥ずかしくないのかぁー」

「オズ、ちょっと下がってて」

(はぁ、仕方ないな。殺されるよりかはマシだろ)

「アリア、お前は下がってろ」

「えっ、」

「おー、坊や頑張るねー」

「うるせぇ、ザコが」

「はぁ? 俺らがザコだって? ぶっ殺して―」


 オズは、速攻で2人に転移魔法を使った。

 2人は一瞬にして、消え去った。


「アリア、行こうか」

「う、うん」


 そうして、2人は人ごみの中へと歩いていった。

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