第10話 森の支配者

「地面は血がいっぱいだね」

「そうだな。服が汚れないように気をつけろよ」

「もちろんだよ。血があるってことは、何かいるのかなー」

「これだけの量があるんだから、ものすごいのがいるはずだ」


 オズとアリアは、特に緊張していない。それどころか、魔法を使わずに真っ暗で進む遊びを始めている。

 地面には、血が溜まっていて、腐ったような匂いもする。

 しかし、このような状況に慣れてしまってる2人は、全く気にしない。

 むしろ、ワクワクした気持ちで真っ暗な洞穴の奥へと進んでいく。


「そろそろ奥に着いてもおかしくない―うへぇ。オズ、急に止まらないでよ!」

「え? 僕、何もしてないけど。どうかしたの?」

「え、オズじゃないんだ。何かにぶつかったの。オズ、魔法で照らしてみて」

「おっけー。閃光フラッシュ

「これで見えるね。って、なにこれ?」

「上を見てみろよ。すげぇぞ」

「なになに、上ですね。おおー! でかすぎでしょ!」


 アリアは、オズと間違えた何かを確かめる為に、オズに光魔法をお願いした。

 そうして見えた視界には、茶色いものしか見えなかった。

 しかし、上を見てみると、それは、巨大な『クマ』がいた。


「こんなクマさん、見たことないよ! 一匹狼みたいでかっこいいなー」

「僕は、どっかで見たことある気がするな」

「そうなの⁉ クマさん、君はオズとあった事あるの?」

「こいつに聞いてどうするんだよ」


 ありえない程で大きいクマを見ても、2人は全く怯えない。

 身体は子どもでも、心は魔王と勇者なのだから当然だろう。


「ぐりゅぅぅ」

「クマ助、どうしたの?」

「勝手に名前つけんなよ」

「グワーッ!!!」

「名前つけてもらえて嬉しいんだー」

「絶対に違うだろ」


 ビュウゥゥン!!!


「わぁお!」

「大きい割には、動きが早いな」


 クマ助は大きな声で吠えると、急に攻撃してきた。

 その力は化け物級で、空ぶった時の風圧によって、オズとアリアが吹き飛ばされるほどだ。


「グワーッ!!!」

「これほど力が強いとはな。ここで戦うと、クマ助のせいで出口が塞がるから、外に出るぞ」

「おっけー。クマ助、こっちにおいでー」

「いちいち煽るなって」


 オズとアリアは、全力で洞穴の外へと走った。

 クマ助も追いかけてくるが、そのスピードは2人と変わらない程である。


「(どっかで見たことあるんだよなー。)あ、思い出したぞ!」

「おお、何を思い出したの?」

「こいつは『悪魔の熊デビルベアー』だ!」

「魔族さんですかー」

「呑気にしてると怪我するぞ。こいつは魔族の中でも上位の方だぞ」


悪魔の熊デビルベアー』は、100年前から生きており、魔族の幹部並みの実力を持っている。

 魔王も目は付けていたが、1匹で生きることを好むので、声は掛けなかった。

 そんなモンスターが、2人の前に現れたのである。


「えぇぇーー!!!」

「(これは、流石にアリアでもビビるか)」

「これなら、本気で戦えるかも!」

「(なんでワクワクしてるんだよ!)」

「クマ助は、私1人で倒すから、オズは見てて!」

「そんな無茶なことは止めとけ!」


 外に出ると、直ぐにアリアはクマ助の方へと方向転換して走り出した。

 アリアは、とても嬉しそうに笑っている。

 恐らく、本気で戦うのが久しぶりでワクワクしているのだろう。


「いっくよー!」

「グワーッ!!!」

「素早いけど、まだまだ余裕で避けられるよー」

「すげぇな。これがアリアの本気か」


 クマ助の攻撃をひらりと簡単に避け、首元に向かって剣を突き刺した。


 グサッ!


 アリアの剣は、クマ助の首に突き刺さった。


「1発で終わっちゃったよ」

「バカ! こいつの弱点はそこだけじゃねえぞ! すぐに離れろ!」

「えっ、」


 ドカジャン!!!


「アリアー!」

「グワーッ!!!」


 一瞬の内にアリアは弾き飛ばされて、地面に叩きつけられた。

 アリアは、全身ボロボロになり、動くことができなくなった。

 魔族の弱点は、光属性の魔法以外にはそれぞれ異なっており、悪魔の熊デビルベアーの場合は頭と首と心臓を一気に切ることであったのだ。

 それができないと、すぐに再生してしまう。


「くっ、はぁ、はぁ、」

「大丈夫か⁉ 受け身でダメージを抑えたか。回復魔法は時間が掛かる。こいつを倒してからでも十分間に合うだろう」


 そうして、オズはクマ助の方へと歩いき、冷静だが、怒りが混じった声で言った。


「時間がない、速攻で片付けるぞ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る