第1話 行方不明の魔王様
『魔族』それは、この世界で人間に相対する種族。
その最強種族を統率していた最強の男こそが、魔王であった。
魔王は、体内に流れているエネルギーを使う『魔法』を火・水・氷・風・無・闇属性に加え、魔族の弱点属性である光の7属性の全属性を使うことができる。
全属性を使うことは、世界でも魔王しかできない。
これこそが最強と言われる所以だ。
そんな魔王が突然、姿を消したため、城内は大騒ぎとなっている。
「魔王様! 魔王様! くそっ、ここにもいない。どうだ、見つかったか?」
「いいえ、こっちにもいませんでした。城内は全部探しました」
「そうなると、外に行ったのか? こんな時に」
「それ以外考えられないですよ。あれだけ酔ってたら、敵味方だけじゃなく、人と物の区別までつきませんよ」
「流石にそんなことはないだろ。まあ、外とは言っても、まだそんな遠くには行ってないはずだ。お前ら、城の周辺を探せ!」
「ハハッ!」
そうして、城内にいた魔族全員が城の周りを隅々まで探した。が、やはり見つからない。
「これは本当にまずいぞ……」
「そうですね、あいつらに知られたらすぐに攻めてきますよ」
あいつら、というのは『人間』のことだ。人間は魔族とは違い、力が弱ければ、魔力も弱い。
だが、そんな人間がどうして魔族に警戒されているのかというと、人間は文明がものすごく発展しているからである。
素の力では、もちろん魔族が秀でている。しかし、人間は道具を用いて魔力を増強させたり、逆に魔族の魔法を弱めたりすることが可能なのだ。
このことが、魔族と人間の力関係を変えている。
そんな人間を何とか力で捻じ伏せてきたのが、魔王なのである。
「ひとまず今日は解散だ。明日、無事に帰ってくることを信じよう」
「でも、明日帰ってこなかったらやばくないか」
「そうだな。あんなに酔ってたんだ。もしかしたら……」
城内に不安の声が響き始めた。
それもそうだ、魔王がいなければ人間には対抗できないのだから。
「皆さん、そんなに魔王様のことを信じられないのですか! 酔っていようとも、我々魔族のトップですよ!」
そう声を上げたのは、ゼシルだった。
普段とは全く違う話し方に皆が驚いたが、ゼシルの言葉が響いたようで落ち着いてきている。
「そうだよな! 魔王様を信じよう!」
「魔王様は最強だもんな!」
そう言って、それぞれの縄張りへと帰っていった。
しかし、翌日になっても魔王は帰ってこなかった。
◆
魔王が行方不明になってから一週間が経った。半数以上が魔王は帰ってこないと思い始めてきていた。
それを感じた幹部たちは、すぐに魔王の代わりを立てることを決めた。
そして、真面目な性格と強さが認められて、ゼシルが魔王の代理となり、幹部会議が開かれた。
「今のままでは魔族に勝ち目は到底ないでしょう」
「くそっ、認めるしかないことが悔しいです。僕がもっと強ければ……」
幹部は皆がそれぞれに責任を感じているが、幹部になってすぐのジークは、特に強く感じている。
「ジーク、お前だけのせいじゃねえ。俺ら全員に責任はあるんだ。ゼシル、それでどうする気なんだ」
幹部たちは、息を呑んでゼシルをじっと見る。
今の状況で賢明な判断が下せるであろうゼシルの意見を魔族の意向とすることにしたのだ。
「一度、魔族は表舞台から姿を消します」
「……」
沈黙が続く。幹部たちは、それぞれに思っていることはあるが、現状ではゼシルの意見が最善策とわかっているため、何も言えないのだ。
そうして、ゼシルから部下たちに会議で決まったことが伝えられた。誰も認めることも、反対することもしない。
しばらくすると、それぞれが覚悟を決めた顔をしていた。
そして、ある者は山奥へと、ある者は『人間界』へと姿を消していく。
◆
魔王がいなくなってから、100年が過ぎた。
魔王の支配が消えたことで、魔族はもう、群れとしては機能しなくなった。
そして、少しずつ暴走が始まり、人間との戦いだけでなく、魔族同士の争いも増えていった。
そんな中、1人の人間がこの世に誕生した。
「おぎゃあ! おぎゃあ!」
そう、泥酔魔王が過失転生したのである。
先に言っておくと、これは酔った勢いで転生してしまった魔王が配下たちにバレずないよう平穏に暮らそうとする。そんな物語だ。
まぁ、あの最強魔王が平穏という意味も人間の普通も知っているわけもないが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます