15:七五三

「しかし、叔父さまはまるでわたしのことを覚えていないのだな。名前はともかく存在くらいは覚えていてくれているものかと思っていたが、ここまで無関心とはな」

 アレクシアは少しばかり口を尖らせて言う。これについては私も弁解のしようがないので、「申し訳ない」と謝ることしかできない。

「どうにも、姉とは疎遠だったからね。姉は元気かな」

「ああ、元気だよ。叔父さまのおかげで少しばかり面倒なことにはなりかけたが、今は何とか上手くやっている。母もわたしたちもね」

「……なるほど」

 確かに、私が捕まったとなれば私の血縁である姉にも何かしらの影響があってしかるべきで。……別にそれについて何も考えていなかった自分にも、気づく。本当に、アレクシアに「無関心」と言い切られても何一つ反論ができない。

「しかし、疎遠といってもわたしは叔父さまを覚えているぞ」

「そうなのかい?」

「ああ。幼い頃に何度か会っているよ。……本当に覚えていないのだな」

 思い返そうとしてみても、どうしても目の前の少女と一致する記憶はなくて、首を傾げてしまう。

「わたしはまだ学校にも通っていない年齢だった。ある日のパーティで初めて見かけたときに、母によく似ているからすぐにわかったよ。この人がわたしの叔父さまなのだなと」

 そう、姉と私はよく似ていて、つまり私とアレクシアもよく似ている。そんな風に覚えられているとは思わなかったけれど。

「叔父さまときちんと会ったのは三回くらいと記憶しているが……、本当に覚えていないのだな。なんとも寂しいものだ」

「本当に申し訳ないね。それだけ会っていれば、少しは覚えていてもよいものだと思うのだけど」

 私の無関心さについては否定できないが、記憶力に関しては多少自信がある。近頃は過去のことを思い出すのが難しくなっているとしても、まるきり覚えていないというのも珍しいとは思うのだが……。

「まあ、叔父さまがわたしを覚えていないのは、当然かもしれないが」

「……何だい?」

「いいや、何でもないさ」

 アレクシアはにぃと猫のように笑う。私は何ともいえなくて、ただ、曖昧に笑うことしかできずにいた。

 

(『雨の塔』の囚人と姪の面会)

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