13.やっぱりついて行く!
数日後、陛下達が立てたキアオラ確保作戦決行の日。
わたしは、お邪魔にならないように参加しないつもりでした。
陛下も、そのおつもりでしたでしょう。
でもっ!
シド達実行部隊の作戦会議は、“王家の隠れ家”よりも近くて利便性が良いとのことで我がカークランド邸の小屋で行われたのです!
時折陛下やエドも来たりして、ご挨拶やお茶・お菓子の差し入れに伺っているうちに……ウズウズしてきたの!
シドを始めとして、皆さんが壁に地形図を貼ったり装備を運び込んだり、真剣な表情で打ち合わせしている姿も羨ましかったわ。
それに、エドも作戦に参加することが判明したから。
わたしも加わりたくなっちゃった……エドのことも心配だしね。
決めたわ……やっぱりついて行くわ!
エドはもちろんのこと、アンに言っても絶対に引き止められるし、最悪お父様に報告されて付いていけなくなってしまうから、極秘で行動するわ。
実行部隊は昨日までに“王家の隠れ家”に移動して備えていて、エドはシドと共に日の出に合わせて我が家の小屋から出立する手筈。
そして今は、まだ日も昇らぬ早朝。
陛下もお父様も、エドを見送る為に小屋に集まっていらっしゃる。
わたしはと言うと……隠れてついて行く為に、まだ寝ている事にしています。
アンには、エドへのお手紙を渡してくれるように頼んであるので、彼女の目も避けられる。
わたしは、こっそりと部屋を抜け出して、裏の使用人通用口から外へ出る。
薄着に寝台のカバーを頭から被り、手にはお酒の瓶。
傍から見ると危ない女にしか見えないので、使用人にも見つからないように慎重に移動する。
屋敷を抜けると、今度は大きな木の陰まで移動。
ひと息ついてから、お酒を自分で被る。
無事にワンちゃんになったわたしは、地面を這うように移動して、エドの移動用馬車に潜り込む。
今は御者も小屋の中に入って、陛下からお言葉を賜っている。その隙に失礼します……
今回は扉に閉ざされた箱型客車ではなく、城下を回る乗合馬車のような客車なので、潜り込みやすいわ。
床に置かれた荷物の陰に大きな体を潜り込ませる。
お尻や尻尾が確認できないので、ちゃんと隠れるように四苦八苦。
なんとか安定した姿勢になって、後は待つのみ!
しばらくすると、エド達は小屋から出てきた。
「では父上、行って参ります」
「うむ。くれぐれも無理はするなよ? シド、エドワードを頼む」
「はっ」
二人が馬車に乗り込むと、御者は馬に鞭を入れる。
馬車は、カークランド公爵家の裏門を抜けて、明るくなり始めたばかりの王都を軽快に駆けて行く。
エドは緊張の面持ちで、シドに最終確認をする。何度も。
もうエドったら! 今から緊張してどうするのよ? もっとドシっと構えていればいいのに……
「殿下。オリヴィア様からのお手紙があったのでは?」
「そ、そうだった」
エドの緊張を見て取ったシドが、エドに声をかけた。
そうよエド。わたしからの手紙でも読んで落ち着いて!
落ち着いていられる内容ではないと思うけど……
エドは上着のポケットから手紙を取り出して、大事そうに両手で持つ。
アンから手渡してもらうお手紙なので、特段封蝋などはしていない。
表には――
『親愛なるエドへ――お見送りできなくてごめんなさい。移動中に見て下さい』
エドは「オリヴィー……」と、愛おしそうに小さく呟いて二枚の便箋を読み始めた。
◆◆◆
〈一枚目〉
エド
貴方が作戦に参加すると聞いて、とても心配です。
(中略)
シド達がいるから安心でしょうけれど、くれぐれも無茶はしないでください。
わたしは屋敷で無事のご帰還をお待ちしております。
〈二枚目〉
――と言うのは嘘で、心配なのでわたしも一緒に行きます!
うまくいけば、ワンちゃんの姿で貴方の馬車に潜り込めているはず。
見つけられるかしら?
お父様には言わないでね? 屋敷に戻ったりもしないで!
邪魔にならないようにしますから、どうか連れて行って。
ひとりくらい鼻の利く“人間”がいた方がいいと思うしね?
あと、心配と言えば、もうひとつ。ふたつかしら?
ひとつは、予備のお酒が用意されているかしら?
確実に変身が解けてしまうでしょうから、準備はお願いね!
もうひとつは、着替えがないこと。
お父様にもアンにも内緒にしているので、用意出来ていないのよねぇ。
だから、お願いね? エド。
愛を込めて……オリヴィア
◆◆◆
便箋を握りしめる音と共に、エドの大きな声がする。
「オリヴィーッ!」
ビクッ!
驚いて身体が反応したら、これまで微妙なバランスを保っていた荷物が崩れちゃった。
まぁ、そもそもが潜り込まなかったら、微妙なバランスにならずに済んでいたのだけれどね。
「ほ、本当に居るのかい?」
ドサドサ崩れてしまった荷物の下から、やっとのことで立ちあがってエドにご挨拶。
「ワンッ! ブワウ!」
(おはよう! エド!)
「いや……ワンッ! って……」
さすがのシドも唖然としていたわ……
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