R15-1226

 お、落ち着かないねぇ

 気持ちは解るけどさ。

 そんなにしてても、何か変わったりはしないから。

 ドンと構えとこうよ。

 大丈夫だよ。

 あの早苗さんだよ?

 きっと問題なくあっさりとやり遂げちゃうって。


 ………。

 そっか。

 早苗さんはお母さんになって

 君はもうすぐ、お父さんになるのか。

 すごいな。

 本当にすごい。

 そんで、不思議。

 そんなに時間が経過したのかなって。

 不思議。

 アタシは

 多分、あの日のままだから。


 でも、そうだよね。

 君は夢を叶えて

 今は心臓に病気を抱えている小さな子どもの助けになってる。

 立派な大人のお医者さんになったんだ。

 君や

 生きている人には。

 時間が流れて

 そして、進んでいるんだ。

 当たり前の事なのに。

 不思議。

 だって、今でも直ぐに思い出すもの。

 色々な君との記憶。


 お家で初めて目を醒ました朝。

 一緒に行った君の学校。


 君の初めての彼女

 君のお家に積もった雪。


 倒れちゃった体育祭。

 そして――夢との出逢い。


 失恋。

 高校受験。

 大学合格。

 一人暮らし。

 早苗さんとの出逢い。


 結婚。


 全部。

 全部全部君の大切な思い出。

 えへへ。

 いいのかな。

 アタシまでこんなに思い出を貰って。


 ………うん。解ってる。

 君はきっと『当たり前だよ』と言ってくれるんだろうね。

 君は、そんな男の子だってもう知ってる。


 アタシはきっと。

 アタシはきっと君と出逢えてとても幸福だったんだ。


 

 ………あ。

 今、聴こえた?

 聴こえたね。

 赤ちゃんの泣き呼ぶ声。

 

 ほら。

 ほら、先生が君を呼んでるよ。


 はは、あはは。

 うん。

 そうだよ。

 今日から。

 君が、この子の。

  


 お父さん。

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