第9話 順平の一日

 閣議の後、中根大臣と丸山大臣は香川官房長官とともに首相に呼ばれて、官邸の小会議室のソファに座る。

「ところで、今回の江南大学での様々な開発のキーになっているのは、その天才少年と云う吉川順平君なんでしょう?」


 最初の首相の問いに中根が答える。

「はい、FRについては理論の発想は牧村先生ですが、その体系付けと応用としてのリアクターのシステムと操作因子を確立したのは順平君です。さらに、FRの理論から展開して超バッテリーへの応用を考えて、その部材の必要な組成と、励起の方法、電力の取り出し方法などを考案したのは彼です」


「なんだ、超バッテリーもFRに劣らず画期的で最重要なものだけど、順平君がすべて開発したのかな?」


「まあ、システムの発想は全体の開発は彼によりますが、無論バッテリーの構成物質の組成や、部品の構成について大分試行錯誤があったようで、そこは大学の研究室が最終化しています。一般的に言えば、開発の8割から9割は彼の功績ですね」


「うん、牧村先生は彼の発想が無ければFRそのものもないから重要だけど、バッテリーの場合は大学の先生方も判っているだろうから、忸怩たるものはあるだろうね。 

 とは言え、完成して頂いたことに関しては、我々施政者は有難いの一言だけどね。

ところで、モーターも核無力化装置(NDD;Nuclear Disempower Devise)にも順平君が同じように絡んでいるようだけど、どうなんですか?」


「ええ、モーターの場合はまさに順平君が殆ど主導したというのはバッテリーと同様ですど、NDDは実証の段階で山戸先生がかなり絡んでいるようですね。

 ところで、あれはアメリカさんも絡んでいますが、権利関係はどうなっているのでしょうかね?特許は出さないのですよね?」


 この中根の問いに防衛省の丸山が応える。

「申請書から真似されるのを防ぐために、他の防衛省関係の開発と同様に基本的には特許は取りません。NDDの実用化には防衛省も人を出して努力はしました。たけど、順平君の発想と理論化が無ければ絶対に出来なかったし、山戸先生が実際に機能するという確認試験をしてくれたことも認識しています。

 だから、防衛省として権利を取って、使用に当たっては他国からはノウハウ料は取ります。対象は今のところはアメリカだけだけど、そのうちイギリス、フランスやおそらく世界中から使いたいと言ってくるでしょうからね。今まで散々アメリカには払ってきましたからね。


 だから、順平君それに江南大学には防衛省が配備したNDDを含めて、一定のノウハウ料を払うつもりです。それについては、契約を結んで1台当たりの料金を決めたいと思っています。ちなみにこれは基本的に国の軍にしか供与しないつもりですよ」


「うん。多分順平君は何にも云わないけれど、後で疎かな対応をされたと思われると困りますからね。それに、防衛に関してはまだまだ順平君は弾がありそうだと、江南にいる職員から報告があがっているよ」


 中根の言葉に、丸山は表情を緩めて喜ぶ。

「うん、それは楽しみだ、我が省も困っている弾はたくさんあるからね。江南市に駐在している研究職の職員がいるから、順平君をより密接にフォローさせるようにしますよ」


 それに首相も苦笑いして賛同する。

「ああそうだね。順平君は我々にとって打ち出の小槌のような存在になっているな。だけど、可能なのならお願いしようよ。安全保障の面では、わが国は周辺にロシア、中国、北朝鮮と油断のならない相手ばかりだし、韓国も国民があれほど反日では危ない。

 それとね、君たちだから言うけど、今度のロシア・ウクライナのことで日本がロシア包囲網に加わったですよね。そのことで、ロシアは一方的に漁業交渉を打ち切ったり、根室で怪しい軍事行動をしたりと、僕も根室など直近にロシア領があるのは、私自身うんざりしている。


 NDDの導入で、ウクライナとの戦争はウクライナがロシアを押し返して終わるはずだから、早晩ロシアのエグザイエフは失脚するだろう。そして、その後で和平交渉が行われるだろうが、ウクライナは多分30兆円ほどの莫大な損害賠償を請求するから、まとまる訳はない。

 そこでアメリカを中心に進められる可能性の高いのは、ロシアの分割だよ。つまり、領土を賠償とするということだ。そうなると、我々日本も不当に奪われた北方領土を取り返すべきなんだよな。


 率直に言って、わが国の場合には国内で過疎地が出来ている状態で、あんなところが帰って来たところで、経済的にはマイナスだよ。だけど、ロシアなんかが数十㎞のところにいるのは嫌だよね。だから北方領土は取り戻すべきなんだよ。

 それで、今のところ、ほぼ間違いないのは、ウクライナもかなりかすめ取ることになるだろうけど、広大な極東ロシアを分割すると云う点だ。だから、どさくさに紛れて北方領土も無理なく取り戻せるだろうと思っている。


 まあ、サハリンは要らないな。近い将来に石油があまり意味なくなる可能性が高いからね。そのためにはいずれにせよ可能なら防衛力をもっと高める必要がある。今回計画しているより遥かに高性能のレールガンとか、反重力戦闘機とか出来ないかな?ハハハ!」


 首相が笑うが、中根が真面目な顔で応じる。

「いや、加藤総理。それはまんざら冗談ではないんですよ。うちの江南市にいる職員が順平君と親しくしているのですが、凄いレールガンとか重力エンジンとかはできると言っているようです。だから、今までの彼の実績に照らせばひょっとしたらひょっとしますよ」


「う、うーん。しかしまさか……。中根さん、君のところの職員は女性だよね。結構若かったよね。美人かね?」


「え、ええ。28歳ですが、客観的に言って美人でなかなか愛嬌もありますね」


「丸山さん、君のところの江南にいる職員に女性はいるかね。すでに君のところの江南市に出向している職員に若い女性職員はいるかね?」


「い、いや。なにせうちは軍ですから、いないはずです」


「じゃあ。経産省に倣ってちゃんと選んで、順平付きの職員を派遣させてください。よく経産省の派遣職員と協力することだね」


「はい、解りました」 


 そのやり取りを少々引く思いで見ていた中根が、再度話を始める。

「ええと、これもご報告した方がいいと思いますので、お話します。順平君は、大学で様々なセミナーに顔を出しているようなのです。これは、学内では『順平セミナー』と呼ばれているようですが、彼が加わるとすごい効果があるようです。

 あっという間に、今までいき詰まっていた案件が解決したり、普通の技術的な討論のはずが、画期的な改良の発想になったり、思わぬ副産物的な発明に繋がったり、ということが続出しているようです。


 これは、必ずしも順平君の発想のみでなく、出席者からの発想が多いようですが、彼が絡むことによって結果としてそういうものが続々と生まれて、特許出願が間に合わず弁理士事務所を2社新しく契約したそうです。

 牧村先生、山戸先生は、『触媒』と言って、これには早くから気づいていたようですね。

 これらの開発された特許に内容があまりにも重要であるため、弁理士に任せるのも問題なので、前から常駐させていた1名に加えて、新たに2名常駐させて、その辺の調整をやらせています。これらの半分は、発光ダイオードをはるかに超える値打ちがあるという見立てです。 

 そういえば、大学は実質休眠状態だった『江南大学技術開発公社』を使って、特許関係の管理をするようです」


「なかなか大学も手際がいいですね。しかし、こういったものでの特許料というのはどのくらいになるのでしょうか」

 今度は香川官房長官が聞く。


「特に核融合発電が大きいようですね。設備と電力使用量として考えているようですが、それぞれ出力の㎾、利用の㎾時当たりで考えているようです。設備が、国内向けが㎾当たり千円、電力が0.1円で、海外向けについては2倍で考えているようですね」


 中根が言いうのに官房長官が異を唱える。

「え?効果に比べてちょっと安すぎませんか?」


「単価にすると安いですよ。でもたぶん国内海外を問わず、すべてがこの方式になるのですよ。我が国の発電能力は大体5億㎾でから、5億㎾の千円ですから、5千億円、電力が年間2兆㎾時ですから年2千億円です。世界ではたぶん日本の十倍の需要がありますから、それぞれ10兆円、年4兆円です。どうです。安いですか?」


 中根がにっこり笑って言うのに、部屋の一同が驚く。

「「「「「ええ!」」」」」


「これは、いくら何でも個人の収入というわけにはいかないでしょうな。海外向けは半分以上を国が税で頂くかな」


 叫んだ後に、官房長官は真面目に言うが、たしかに何らかの仕組みは必要であろう。

「ええ。山戸教授が公社の理事長に就任するようですが、収入が軌道に乗ったら全大学の予算の相当部分を賄うつもりのようです。過去一方的に研究費を減らされてきたのに怒りを感じているようで、研究費は国と将来のために重要だと言っていました」


 中根が応えの形で言うと、首相が苦笑いをして応じる。

「うーん、まあ我々政府と言えども、順平君を擁する江南大学にはあまり強気でられないよね。だから、山戸教授の言うように大学の経費は江南大学に持ってもらうというのもいいかも知れんな。法体系をどうするかの問題はあるけどね。ハハハ!」


 笑った後首相は、真剣な顔に戻って向き直り出席者に向かって言う。

「ところで、順平君の突出した働きは明らかで、今後もそれは変わらない。その意味で彼は我が国の宝だ。よくぞ日本に生まれてきてくれたものだ。それだけに、今年中には、彼がこれらの動きの中心だということが漏れると思う。

 そのため、彼と彼の家族や周囲を守るために、セキュリティ体制を早急に整える必要がある。今年前半の内には万全の体制を整えたい。香川さんこの件はお願いできますか?」


 そこに中根大臣が口を挟む。

「ええと、総理。私の方で大学に掛け合って、順平君の一家は大学の教員住宅に引っ越して貰っています。順平君も2ケ月ほどは大学にバスで通っていましたが、不用心ということで、そうしている訳です。

 特に彼に対するガードの人員はいませんが、7㎞ほどのバス通学よりは安全ですからね。ちなみに牧村先生も同じ官舎に居ます」


 続いて、官房長官が首相の要求に応じるべく応える。

「承知しました総理。また、その件では中根さんありがとうございます。当面の対処が楽になります。中根さんの言われたことを踏まえて、本人・ご両親はもちろん、近い係累を含めて警備体制を構築させます。来週早々からでも、当面陰ながら警備する体制を整えます」


「そうしてください。とにかくこの件は、現在における我が国の最重要な案件です。とりわけ、順平君になにかあったら取り返しがつきませんからね」

 最後に首相がまとめて協議は終わった。


   ―*-*-*-*-*-*-*-


 順平一家は、持ち家を離れて大学の2DKの官舎に住んでいる。順平の通学(通勤?)の安全のために、経産省からの要請を受けた結果である。江南大学の官舎は、アパート1棟に加えて5棟あり、都合よく空いていたもので、フェンスで仕切られているものの、大学構内の一部に位置している。


 だから、警備会社の警備範囲に入っているのでセキュリティ面では大きく改善された。父涼太は、この引っ越しによっても通勤の便は以前と変わらないし、母洋子はすでに仕事は辞めて専業主婦になっているので通勤面では特に問題はない。とは言え、前の家に比べて狭く古いのは否めない。


 FR計画については、携わる民間企業の代表を四菱重工が担当しており、涼太の勤める㈱江南メカトロニクスにとっては、四菱重工は最大の取引先である。順平がキーマンであることは四菱重工と経産省はよく承知しており、江南メカトロニクスの経営陣に対しては、両社から涼平の父の取り扱いについて『お願い』があっている。


 また、同社の幹部社員のかなりのものは江南大学の出身者であり、人材の供給元としての大学の山戸教授からも同社の社長に同様のお願いがいっている。その結果の一環であるが、父涼太はFR計画部という部下2人の新設部の部長になって、給料も相応のものになった。


 さらに、借りている官舎の家賃や引っ越し代は、会社が社宅と云うことで払っている。とは言え、住んでいた家のローンは残っているので、一家の支出は変わっていないが、収入が2割程増えたことで、母は病院事務の勤めを辞めたのだ。


 ちなみに、間もなく順平に莫大な収入が入り始めることはすで両親にも説明されていて、順平も同意の上で、セキュリティ面で有利な位置で家を建てることにしている。

 これはこれは、大学の所有地では隣接地の古い大学の倉庫用地を、新たに住宅地にして払い下げることにしているので、そこの土地に彼らの家を建てる計画だ。牧村も同じ宅地に家を建てる予定にしている。 


 順平は、今朝はその家からの付属小学校への通学なので、登校は徒歩10分弱である。1時間目に音楽の授業があるので、登校しているわけだ。官舎のからの登校者はいないが、校門で同じ付属小学校に通う生徒に出会い、門に立っている3年を受け持つ教師に挨拶する。


「鎌田先生、おはようございます!」

「ああ。順平君、おはよう」


 応じる教師であるが、当然教師も生徒も全員が、順平のことは特定の授業のみを受ける5年生の生徒として知っている。とは言え、その授業以外は大学に通っていることは知ってはいるが、具体的な内容は漏れてはいない。


 今朝は、自分達の教室で歌唱の授業であるので、順平はその引き戸を開けて入る。

「おはよう!」


 順平の声に、すでに教室にいる生徒から「「「「おはよう」」」」と返ってくる。5年3組の生徒たちは順平には複雑な思いはあるが、育ちのいい子ばかりなので挨拶には返すのは当然行う。


「絵梨ちゃん、おはよう。そのブラウス、似合っているね」

 付属小学校では制服はなく、私服であるが、すでに5月の温かい日になので女の子は薄いブラウスだ。順平が隣席の可愛い仁科絵梨に声をかけると、「順平君、おはよう」と彼女は頬を赤らめて返す。


 このように、女性にはさりげなく愛想の良い順平は、大学の女子学生からも『将来の女たらし』と囁やかれている。反対の隣の、森崎要はすこし忌々しそうにそっちを見るが、順平からすかさず「森崎君もおはよう」と言われると「あ、ああ、おはよう」とは返す。


 順平はそのように、同級生とは挨拶を交わすが、話題の共通点がないので殆ど会話はない。無論、大学に通う点で聞かれることは多いが、大部分のことは正直にはしゃべれないので、曖昧に濁すしかないので、語りかける者も少なくなる。


 まず、その日の歌唱の授業の説明については、順平は頭の1/3程度で聞いているが、歌唱の練習については流石に集中して歌う。彼は大学レベルのテキストでも、スキャン程度の速度で目を通せば、理解は出来なくても内容を一時的に覚え込むことができる。


 だから、覚えている内容を、集中の必要のない授業や人がしゃべっているのを聞く間に、2/3の頭脳を使って、本質を理解して頭脳の中で整理蓄積しているのだ。

授業が終わって、順平は挨拶すると同級生からの返事は返って来る。


「では、今日は帰るね。今度は2日後の午後の体育だな。では皆さん、さようなら」

「「「「「さようなら!順平君」」」」」


 まだ午前10時なので、順平は大学の物理学科の倉庫を改造した自分の部屋に行く。そこには、院生の斎藤と経産省からの出向者の日高に、工学部生産工学科のマスター2年の西川省吾が一緒にいる。 


 西川は、少林寺拳法の3段で現役であるためそこそこ強いので、斎藤が腕っぷしはからっきしであることから護衛役として選ばれた。実のところ、学内で留学生が絡んだ順平への誘拐の試みがあったため、急遽取られた措置だ。


 とは言え、その件は相手も学外に連れ出して誘拐しようということでなく、学内の人気のない部屋に連れ込んで情報を聞き出そうという試みであった。そして、それは相手もプロではなかったので、順平自身が襲ってくる相手を投げて防いでいる。


 何事においても研究熱心な彼は、護身術として合気道を選び、本やビデオで自分なりに練習し、体も鍛えてきている。体を鍛えるのも最新のスポーツ科学に沿って鍛えており、年齢として極めて発達した筋肉がバランスよくついている。


 彼が稽古に行くようになった、学内の道場の合気道の指導者によれば、十分に有段者の実力はあるという。しかし、まだ11歳の少年であるので、当然暴力のプロには敵わない。そのため、斎藤が牧村に訴えて、関係する部署で格闘技をやっている西川が選ばれたのだ。


 そして西川は、すでに世の中を動かし始めている順平の傍にいられる今の立場につけた幸運に大いに感謝しており、順平も明るくさっぱりした性格の西川が気に入っている。


 だから、近い将来順平にはプロの護衛がつくことになっているが、西川については専門のスタッフとして働けるので、少なくとも西川がドクター・コースを終えるまでは一緒に行動する予定になっている。 


「おはようーっす。皆さん」

 声をかけて入ってくる順平に、「「「おはよう、順平君」」」と3人は声を揃えて挨拶を返すが、西川が言葉を続ける。


「順平君、午前中は四菱の防衛省オフィスでセミナーだね?」

「うん、すぐに行かなくちゃ。迎えの車はきているかな?」

「さきほど、連絡があった。表にきているよ」

「じゃあ。行くか」


 順平は持っていた手提げケースから小学校の教科書を出し、自分のデスクの上の資料を取って手提げに入れて、先導する西川についていく。

 待っていた車は黒のセダンである。防衛省も、大学に来るときには自衛隊丸解かりの車は使わない。順平たちの姿を見て助手席に乗っていた、平服の職員がサッと降りて、後部座席のドアを開けて順平を迎え座らせドアを閉める。その間に西川は反対側から乗る。


 防衛省も順平の安全には気を使っていて、車両で迎える時は安全のために一人では来ない。それに実のところ、順平が外に出る時は防衛省から護衛がつくようになっている。彼らにとっては、NDDのノウハウを持っている順平の安全には気を使わざるを得ないのだ。


「順平君、今日のセミナーはどういう趣旨なんだ?」


「うん、防錆省から頼まれてねえ。電磁砲つまりレールガンの開発をやっている人たちの話を聞いて欲しいということなんだ。まあ、いわばレールガン・セミナーだな。僕も、自衛隊のレールガン開発については報道を追っているけど、今のスペックでは話にならんな。

 速度は遅いし、電力も食い過ぎで飛行機には乗らないものね。

米軍の開発も追っていたし、それなりに改善のアイディアはあるんだよね」


 前の助手席に座っている、色白の研究者らしき30歳代の男は、明らかに順平たちの会話に神経を集中しているらしく、耳をダンボにしていた。そして、最後の言葉に我慢できずに後ろを向いて目を見開いて聞く。


「順平君、本当ですか?そのアイディアがあるというのは?」

 順平はそれが可笑しくて思わず笑ったが、すぐに真面目な顔になって応える。


「ええあります。多分うまくいくと思いますよ。核融合のための原子の励起のためにも電磁銃を使っているので、電磁波とその働きについては、詳しく調べたのですよ。多分、お役に立てると思いますよ。ええと、貴方は?」


「ええ、今日のセミナーに出させて頂く、防衛研究所の佐々木と申します。今のお話をきいて大いに期待していますのでよろしくお願いします」


 四菱重工の正門を入って、防衛省が借りている建物の前で車から降りる。そこから佐々木が先導して、10人ほどすでに集まっている会議室に入る。順平セミナーの場合は基本的に互いの紹介はせずに、すぐに状況説明に入る。


 それはプロジェクターを使ったもので、すでに開発を終えているアメリカでの成果、防衛省で得られている結果と、行き詰まっている点や今後の方針などが説明された。それに対して、数分毎に順平がコメントをして、問題点の抽出・整理、問題点解決策、さらに改善策を示唆し、述べていく。


 その過程で、出席者の主要メンバーは今後より良い開発をするためにはどうすればよいかはっきり頭に描けるようになる。

 それは、西川でも、殆ど今後どう開発を進めるべきかを頭に描けるレベルのもので、おおむね2時間弱の後には、出席者は疲れ果ててはいたが、満足感に満ちた顔をしていた。その点では順平は全く平気な顔で、疲れた様子は全くなかった。


 順平にとって、この種のセミナーはそれほど集中を必要とせず、新しいことが学べる楽しい時間であるのだ。そして、その中で、出席者の高揚した喜びの感情を受けることは彼にとっても嬉しいことだ。

 もっとも、その時かれの腹は大いに減っていたが。

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