インタールード A-0
自分は、生まれながらにして、特別な力を有していた。
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自分の周囲の人々は持っていなかった、
自分だけに与えられた、特別な力。
自分には神より使命が課せられているのだと、信じて疑わなかった。
小さな農村の農民の親の元に生まれた自分は、しかし、特別な力を有していたこともあり、最寄りの町の郊外にある教会に招かれることになった。
自分の意向もあり、聖職者ではなく、騎士として教会に奉仕する道を選んだ。
人々に害成す獣の討伐。
人々を惑わす異教徒の討伐。
教会の教えに逆らう不信心者の討伐。
討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐。
討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐。
討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐。
討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐。
討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐。
討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐。
討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐。
討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐。
討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐。
討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐、討伐。
何故、こんな田舎の町に、こんなにも討伐依頼が舞い込むのか。
来る日も来る日も、何かを、誰かを討伐する日々。
いつも、自分の手は返り血で染まっていた。
身体には血の匂いが染みつき、取れなくなっていた。
いつしか、夢の中でさえ、何かに向かい、剣を振るっていた。
両親の顔を思い出せなくなった。
自分の中にあった使命感は霞の向こう側へと消え失せていた。
毎日毎日、命を奪う。
自分が生きるためで無く、誰かを助けるためで無く、唯々、殺すために殺していた。
食べる物全てが、血の味に感じられた。
飲む物全てが、血液のように感じた。
摩耗し、疲れ切っていた。
最早、壊れる寸前、不意に声を掛けられた。
思えば、人から声を掛けられたのは、何時以来だっただろうか。
声の主は教会の歳若いシスターだった。
俺の様子を訝しみ、声を掛けたのだという。
それを切っ掛けとしたのか、彼女は毎日、自分に話し掛けてくるようになった。
それを契機としたのか、自分は人間性を取り戻していった。
相も変わらず、自分は剣を振るっている。
だが、それは、自分の大事なものを守るために、大事な人に危害を加えられないために。
もう、食べ物は血の味はしなくなった。
もう、飲み物は血液には感じなくなった。
それは必然だったのか、程なく、自分たちは結婚した。
久しぶりに会った両親は、昔見た姿から、左程変わってはいなかった。
自分は両親の顔を思い出すことができるようになっていた。
程なく、子供を二人授かった。
二人とも女の子だった。
自分の両親も、彼女の両親も喜んでくれた。
自分たちも喜んだ。
幸せだった。
自分は漸く、自分の力の使い道を悟った。
家族を守るのだ。
この幸せを守るのだ。
月日は流れ、娘たちも幼女から少女へと成長した。
彼女は歳を経たのか疑問に思う程に、歳若い容姿のままだった。
自分は未だ教会の騎士を続けており、剣を振るっていた。
その日も、近くの村で異教徒が騒ぎを起こしているとの報を受け、討伐へと向かった。
何時もの如く、剣を振るう。
……だが、この日は、何時もとは違っていた。
斬っても斬っても、再び起き上がってきた。
首を斬り飛ばすことで、
異教徒全員が
異教徒が襲い掛かった相手は村の住人たちにも及んでいた。
殴りかかる者、噛みつこうとする者、犯そうとする者。
異教徒を討伐し終えた頃には、日が暮れていた。
村人にも、騎士たちにも少なくない被害が出ていた。
怪我のため、動かせない者たちと、その護衛の者たちを残し、自分を含めた数人が町へと戻った。
夜の
自分の町から火の手が上がっていた。
自分は脇目もふらず、自分の家へと全速力で向かった。
自宅に火は付いていなかった。
嫌な予感を振り払えない。
家の中では、最早、取り返しのつかないことが起きてしまったのではないか、そんな不安が襲ってくる。
扉を開けるのももどかしく、乱暴に蹴破った。
家中を見て回ったが、誰も居なかった。
不幸中の幸いというべきか、争った痕跡なども無かった。
彼女と娘たちを探して、町中を走り回った。
町で起こっていたのは、先程まで討伐していた異教徒と同じ症状の者たちによる凶行だったようだ。
自分は、手当たり次第に家へと踏み込みながら、家族を探した。
襲い掛かってくる者は、その都度斬り伏せた。
いつしか、自分は町の郊外にある、教会へと辿り着いていた。
他の場所はあらかた探し終わっていた。
此処にも居なければ、町の様子を察して、町の外へと逃げたのかもしれなかった。
無事でいて欲しい。
ただ、それだけを願った。
教会へと踏み込んだ。
そこには、思いの他、多くの人が居た。
人々は入って来た自分に目もくれず、何かに群がっていた。
視界の端に、破り捨てられた衣服を捉える。
どこか見覚えのある衣服に思えた。
人々へと歩みを進める。
徐々に人々が群がっているモノが露わになってゆく。
人々が群がっていたそれは……それは……。
あぁ……あぁ……あああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!
群がっていた全員を斬り伏せた。
その中心に居た三人は、既に事切れていた。
衣服は剥ぎ取られ、乱暴されたのか、血液と体液塗れになっていた。
……その顔は、見間違える筈のない……自分の家族のものだった。
どれ程の間、そうしていたのか。
泣き叫んでいたのか、怒り狂っていたのか、ただ茫然としていただけか……。
自分は三人を抱きかかえたまま、教会の床に座り込んでいた。
何も考えられなかった。
何も考えたくなかった。
考えられない。
受け入れられない。
あり得る訳がない。
許される訳がない。
どうしてこんなことに。
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして。
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして。
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして。
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして。
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして。
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして。
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして。
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして。
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして。
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして。
神の家たる教会で、どうして、このような蛮行が許されるのか!!
信仰とは何だったのか!?
神の与えたもう試練とは、このような行為を指すのか!?
自分の使命とは何だったのか!?
家族を守れなかった自分は、与えられた使命を果たせなかったのか!?
ふと、視界の端に人影が見えた。
何も考えられないまま、反射的に、
視線の先に居たのは、妖艶な美女だった。
金髪の長い髪。
女性的な魅力の溢れた肉体。
それを申し訳程度に覆う、薄地の黒いドレス。
腰まで入ったスリットから覗く、すらりと伸びる脚。
その美女は、こちらを見て、微笑を顔に浮かべていた。
周りには、自分が斬り伏せた町の人々だった者たち。
自分の腕の中には、自分の家族だった者たち。
その光景を見て、美女は微笑んでいるのだ。
正気の沙汰ではない。
正常な人間の所業ではない。
そもそも、こんな容姿の人物が、こんな田舎町に居る訳がない。
ここに居る筈の無い、この状況を
……つまり、こいつが、こいつこそが、元凶なのか!!!!!!
傍らに置いた剣を掴み、一息に相手へと間合いを詰める。
首を斬り落とす筈の一撃は、相手の首に当たって、僅かも食い込むことすらなく砕けた。
得物を失い、瞬間的に自失に
自分と相手の目が合う。
途端、目から何かに浸蝕されるような不快感が走る。
全身に悪寒が走り抜ける。
無意識の内に、力を使った。
≪忍耐≫
≪救恤≫
相手が弾かれたように手を引っ込め、自分から距離を取った。
そこからの記憶は、曖昧だった。
剣が折れてしまったので、拳で足で挑みかかった。
だが、どれも傷一つ与えらえなかった。
代わりに、相手の何気ない手振りだけで、自分は何度も吹き飛ばされた。
気が付けば、もう、立つこともできなかった。
両腕も、両足も、骨ごと砕かれていた。
顎も砕かれたのか、歯を食いしばることも、声を発することもできなかった。
倒れ伏す自分を、相手が見下ろしている。
……目を向けなくても分かる、
許せなかった。
家族を守ると誓いながら、守れなかった自分が。
許せなかった。
この不条理を許容する神が。
許せなかった。
この惨状を引き起こした者が。
許せなかった。
自分たちに起こった悲劇を愉しみ、嗤う者の存在が。
許せなかった。
その元凶を前に、無力に倒れ伏す自分こそが。
自分に残された最後の力を使った。
≪救世≫
これは、遠い昔、自分がまだ【救世主】だった頃の記憶。
自分と【
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