第157話 階梯上げ。

 二週間ほどの間に随分と村は片づけられ、居住空間も整備された。

 

 ログハウスは場所も考慮されており、例の広場の脇にある共同のかまどのすぐ近くに建てられている。かまどの近くには井戸もあり完璧だ。

 そのかまどにも屋根を付けてもらい、雨天時にもそこで調理等は出来るようにしてもらった。


 兵士たちは整備の仕事が終わると、また各々の場所へ帰っていく、数十人でワイワイと過ごしていた二週間を思うと少し寂しいが、元々の予定なのでしょうがない。


 それにしても、ちょっとしたキャンプ場のようになった村の設備に少しワクワクする。ミーモやマイヌイはこの世界で野外での活動も慣れたものの様で、君島と桜木は色々と教わりながらキャンプ飯を楽しそうに作ったりしている。


 これですべてが万全だと思えたが。


 ……一つ問題が。



「ぐぅぅぉぉぉおおおお! ぐぅおおおおおお!」


 まるで地響きだ。

 広くはあるが、ワンフロアの部屋の中で俺達は雑魚寝をしていた。その中で、ビスモンティのイビキがなんとも言えない重低音を発する。


「こ、これは……」

「ここまでだとは思わなんだ……」


 さすがのスペルセスも困ったように熟睡するビスモンティを見つめていた。音ということで、マイヌイに何かできないかと聞くが、起きている間ならなんとかなるが、マイヌイが寝てしまうとまた再び大音量が響き渡るのだ。


 その中で、ビスモンティの隣に眠るミーモだけは、まったく気にせず寝ていた。


 ……いや。桜木も割と平気で熟睡しているか。


「しょうがない。シゲト。飲むか?」

「……え? 良いんですか?」

「シラフじゃ寝れまい」

「そう、ですね」


 コップを差し出すように言われ、バッグからいつも使ってるカップを出す。スペルセスは、自分の鞄から陶器の瓶を取り出すと俺のカップに中身を注ぐ。酒は琥珀色のキレイな色をしていた。


 カップから立ち昇る芳醇でスモーキーな香りに期待感をあげつつ、スペルセスが自分のカップに酒を注ぐのを待つ。スペルセスは酒を注ぐとカップを手に持ち俺の方に手を伸ばす。俺も自分のカップを持ち上げ、応じるようにスペルセスのカップに軽く付ける。


 たまらないな。


 と、横から君島と仁科の視線を感じる……。


「二人だけ、お酒に逃げるのですか?」

「へ? いや。逃げるってわけじゃないが……少しは眠りやすいかなと」

「私達だって……ねえ?」


 君島が恨めしそうに俺のカップを見ながら突っ込んでくる。そのまま仁科に同意を求めると、仁科もまた、一口飲みたそうにする。


「……いや。二十までは我慢だぞ。な。そしたら飲んでいいから」

「先生ならそう言うって分かってましたけど……」

「俺だってそんな大量に飲むわけじゃないからな。これだけだ」

「はーい」


 話を聞いていたスペルセスも苦笑いをする。スペルセスも俺達の国では酒は二十歳になってから、という決まりがあることは知っていたが、それを実直に守ろうとする俺を見て「意外と頑固だなあ」なんてつぶやく。


 この世界には法での飲酒の年齢は定められていない。それはやってくる転移者たちの元の世界にって飲酒年齢がバラバラというのもあるらしい。

 それでもこの世界では16歳位で大人と見られる為、そのくらいで普通に飲む者が多いらしい。


 二人共そこまでしつこく言ってくるわけじゃなく、布団に潜り込み再び寝ようとする。俺はそんな二人を横目にスペルセスと酒と会話を楽しむ。

 


「ふむ。ま。いずれにしてももう少しだろう。三人が七階梯になればワシもまたマニトバに帰るからな」

「あ……そういう話でしたね。でもちょっと寂しいですね」

「同じ国で暮らしていればまた会えるだろう」

「はい……」


 そう、当初の予定より7階梯までの話だ。致し方ない。


 ……。


 ……。


 それから俺たちはひたすら狩りを続けた。やはりギャッラルブルーにより近い場所というのもあり、魔物の強さはかなり高くなる。今までは奥地までやってきて数日野営をして帰るようなやり方をしていたが、ちゃんとしたベースがあるために長期滞在がかなり楽になる。


「じゃあ、行ってきます……」

「うむ、村の守備は私に任せて思う存分狩りをしてくると良い」

「はい。ありがとうございます」


 なぜかビスモンティは俺達が外に出る時に、常に留守番をしている。階梯上げをしている素振りがまったくない。


 確かに村に一人居てくれたほうが安心して遠くに行けるのだが……。ランキングがかなりギリギリで天位を維持するために階梯を上げるというのが目的だったはずだが、日中はずっと、鍋の火の番をしてくれている。


 夜は壮大ないびきを響かせているし。



 火の番も実際かなり助かる。ここはドゥードゥルバレーからも3日の距離というかなり僻地にあり、食料に関してはここである程度集める必要はある。


 ここでの倒した魔物を持ち帰り、捌いて食肉とする。元々素材などを州兵の詰め所へ卸していたため、捌くのは十分に慣れているため思ったより問題なく行える。


 ただ、問題は肉がとても硬いという事だ。


 日本で食べる霜降り牛などとは違う為、鍋で長時間煮なければ硬かったりと手間は掛かるのが難点で、日中ずっと、火の番をし、水が蒸発して足りなく成れば水を足す必要がある。そうすると誰かが付きっきりにならないといけない。



「十階梯にするのってかなり大変っていうじゃないですか。天位でも十に到達している人はそんなに多くないって言うし……諦めているんじゃないですか?」

「九階梯まで上げているんだ、さすがに諦めるとかはしないんじゃないか?」

「でも……ミーモさんに怒られますよね?」

「それは、そうだよな」


 そんなビスモンティに仁科が辛辣な推測をする。毎晩のイビキのせいで寝不足に陥る仁科は、少し恨み節だ。

 だが、それを聞いていたスペルセスは何かを知っているようにニヤニヤとしている。


「スペルセスさんもそう思いますよね?」


 そんなスペルセスの表情に気がついた仁科が聞く。


「あやつはあやつでちゃんと階梯上げをしているぞ?」

「え? いやしかし。そんな素振りを一度も見せたこと無いじゃないですか」

「あやつの特技はなんだ?」

「ゴーレム……ですか? ……え? そうか。ゴーレムを召喚して狩りに行かせてるんですか?」

「そうだ。あやつが村に居ながらも、外でゴーレムたちが勝手に魔物を殺してる」

「そ、そんな……それって、放置ゲームじゃないですか?」

「放置ゲーム?」

「あ、いや。なんでもないです……」


 ……なるほど。確かに仁科が驚くのも当然だ。スペルセスの話が本当なら、ビスモンティは、村でゆっくりとしながらも勝手に経験値的なのが溜まっているということだ。


 やばい。


 ある意味最強のぐうたら階梯上げだ。

 命の危険を冒さずに、階梯が自然に上がっているということか……。


 ……。


 太るわけだ。



※更新少し空きました。

 東京で、編集さんと初顔合わせをしたり、執筆メイトたちと遊……情報交換会など行っていたもので。

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