第142話 君島の精霊


「これは……桜木の順位に近いか?」

「そうですね。美希ちゃんと同じくらい、だっけ?」

「はい。あたしも今500位代だったので、同じくらいですね」


 ……。


 なんだろう。入り込んだエネルギーのようなものを君島の守護精霊が吸収した感じなのだろうか……。

 確か君島はこれまで四桁だったと思ったが。一つ以上階梯が上がった位の上がり方に思える。気絶してから目をさますのも普段の階梯上昇時と比べてだいぶ長かった。むしろ、天戴の桜木と同じくらいは寝ていたのかもしれない。


 順位は上に行くほど上がりにくいようだ。堂本は六階梯の段階で300を切っていたというからヤバい。スペルセスが、桜木は七階梯での天位は厳しいと言っていたのでそこら辺の感覚があるのだろう。


 それにしても……このまま君島が天位になったら。俺の護衛騎士は新しく設定しないと駄目なのか? それとも天位同士でお互いに護衛枠にしてもらえるのだろうか。そんな事も気になる。


 ……それも含め、落ち着いたらブルグ・シュテルンベルグに殴り込……いや。問い合わせに行くか。




 モンスターパレードから一日経っただけだが、街にはそこまでの惨状は見られない。君島と歩きながら、壊された店などを掃除する街の人々などの横を通り、アパートを目指す。

 君島は着替えていたが俺は、正装の制服を着ているため目立つのだろう。街の人々は通りすがりにチラチラとこちらを見てはお辞儀をしてくる。


 貴族門まで来ると、兵士たちが敬礼で俺たちを迎える。俺と君島はそれに応え門を潜った。

 すると門番のうち若い兵士が少し興奮気味に近づいて来た。何だと思って振り向くと敬礼しながら大声であいさつをされる。


「ご苦労様ですっ!」

「ん? ああ。お疲れ様です」

「今回のモンスターパレード。シゲト様が収めたと聞きました!」

「え? いや……なんていうかなあ」


 ん~。そういう話になっているのか?


 式典中に高台から飛び降りて現場に向かったんだ。そういう事にした方が、上の人間には都合がいいという事か?


 まあスペルセスがそう伝えたのかもしれないが。


 ……乗るのは嫌かもな。


「いや。確かに現場で俺も手伝ったが。今回のメインは恭平という天位の男だ」

「え? ……キョウヘイ……もしかして、天現の?」

「お、知っていたか。そうだ。その男だ。さすがは天現の男だ」

「だ、だけど。シゲト様も一緒に戦ったのですよね?」

「ああ。一応な。あと、夜嵐……13位の天位の男。彼も居た」

「夜嵐……そんな大物が……」

「そうだ。いずれにしても、あれだけの事が起こったんだ。そのほかにスペルセスさんや、マイヌイさん。2人が居たのも助かった」

「そうですね、賢者様と一緒に向かっていましたからね」

「そう。だから、けっして俺一人でどうこうと言う話じゃないんだよ」

「な、なるほど……。でもっ! ありがとうございますっ!」

「ははは。被害がそこまで大きくなかったようで良かったよ」


 そっと、堂本の名前を入れてみたが……。

 やつはそんなの喜ばないかもしれないが。俺の手柄にしてしまうには心苦しい。


 横を見ると君島も笑ってる。


 これで良いのだろう。



 ……



 住み始めて間もないアパートだが、帰宅すると家に帰ってきたという心の安らぎを感じる。


「先にシャワー浴びなよ」


 刀を置きながら君島に声をかける。


 君島は自身の傷で服が血だらけになっていた為、服は流石に着替えさせられている。アッキャダを飲んで落ち着くと、すぐ寝てしまったので、寝室で桜木やビトーが体を拭いて着替えさせたようだ、それでもシャワーでも浴びてさっぱりはしたいだろう。


 君島も嬉しそうに服を脱ぎかけるが、すぐに動きを止めてこっちを見る。


「うーん。先生一緒に入ります?」

「……はい?」

「なんか、疲れてしまったので、お湯を溜めたくなってしまいますね」

「……えーと?」

「イエスですね。その顔」

「……う」


 まあ、今更だが……。


 二人で入ると足も伸ばせないし……。


 まあ。


 ……頑張ったご褒美だな。



 ……


 

 アパートの守衛から俺たちが帰ってきたのを聞いたのだろう。お昼くらいにマイヌイが部屋に訪れ、スペルセスの部屋に招かれる。

 丁度昼飯をどうしようと考えていたところだったので、それも用意していると言われ甘えて応じる。


 スペルセスの部屋も間取りはあまり変わらないのだろうか。ただ、生活感の強めな俺たちの部屋と比べ、魔法の書籍や、道具などが乱雑に積み重ねられており、賢者の部屋だなあと感じさせられる。


 荷物などが部屋の隅に追いやられ、その真ん中で綺麗になったリビングのテーブルにはデリバリーしてもらったと思われる料理が並べられていた。


「昼飯は食べてないっていってたな? 適当に頼んでおいた」

「ありがとうございます。ごちそうになります」


 そして、四人で食事をとりながら、ドゥードゥルバレーへ帰る日程などを調整する。


「そういえば。一度文句を言うつもりなんだろ?」

「え?」

「明日になるが、大統領の面談の時間を取った。今回の事、少し話してみろ」

「はい。わざわざありがとうございます」

「ワシも黙っていた口だがな、お前さんの事を知ってるだけに申し訳なくてな」

「いや……そうですね、ちゃんと自分の立ち位置を決めておくようにします」

「そうするがいい。この世界に来て色々と流れのまま物事が進んでしまっているだろうしな。少しづつでも自分の主張も出していくと良い」


 それから、君島の状態についてもスペルセスは心配して聞いてくる。だが、調子は前より良いくらいという言葉と共に出た、ランキングの上昇していることに再び難しそうな顔になる。


「ランキングが……。ふむ……。カードを見せてもらって良いか?」

「はい。大丈夫です」


 そういうと君島はカードを取り出しスペルセスに見せる。

 スペルセスはカードを一瞥すると、両の手でこめかみをグリグリと揉みながら目を閉じる。確かに、これは悩むだろうな。そんな気持ちでしばらくスペルセスを眺めていた。


「……グリベルに言っておいた方が良いか」


 そう呟くと、俺たちに午後の予定が無い事を確認する。


 ……。


 食事を終えるとスペルセスと共に神殿へ向かう。そして以前と同じようにスペルセスはグリベルを呼び出した。

 案内された個室でしばらく待っていると、不機嫌なグリベルがやってくる。


「昨日の騒動でこっちは忙しいって分かるだろ? 今度はなんだ」

「おう、頼りにしてるんだぜ。で、また神民カードを見てほしくてな」

「ん? こないだ見たばかりだろ……なんだまた階梯が上がったとかか?」

「いや、そうじゃない。今度はそのお嬢さんの方だ」

「この子が? ……どういうことだ?」


 グリベルは少し困惑気味に君島の方を見る。前回、所属の登録をした際には何も問題なかったのだが……。

 君島は神民カードを取り出すと、グリベルに渡す。

 

「ん……ん? いや……」

「今日、ランキングが上がっているのに気になって神民カードを確認してみたら……」

「こうなっていたと?」


 先ほどのスペルセスと同じように、グリベルは深く椅子に座りこめかみを抑える。


 君島の神民カードには、二つの精霊の名前が併記されていた。


 567位

 ユヅキ・キミシマ

 守護:セフィロト クリフォト

 階梯:6

 所属:ホジキン連邦

 スキル:剣術 槍術




※君島の元々の守護精霊は「ドルチェ」だったんですが、話的にこうした方が良いかなと「セフィロト」変えます。後からついたのを「クリフォト」に。

 と言ってもさかのぼっての修正はいつやるかw 

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