第140話 嵐の後
少し落ち着いた部屋の中、部屋の隅で堂本とデュベルが何やら話し込んでいた。
「お前たちはこの世界に来て数ヶ月だと言うが、本当か?」
「ああ。そうだ」
「魔法は、ある世界か?」
「いや、この世界に来て初めて知ったんだ」
「先程の、シゲトの話だが」
「ん? 先生のか?」
「ああ。分かるぞ。13位のこの俺ですら、奴の打ち込みには度肝を抜かれた」
「ん? 受けたのか? ……ああ、早すぎる。で、お前は受けれたのだろうな?」
「そこだ。魔法を極めるということが、そのヒントに成る」
「……どういう事だ?」
なんか、俺の方をチラチラ見ながら話している二人の会話がどう考えても俺の話をしていて気になってしまう。確かに一度デュベルの武器を破壊しようとしたが、軽くいなされてしまった。あれは正直驚いたものだったが……。
「俺の場合は、風だ。風魔法の基本は空気だ」
「空気? 空気の流れで相手の動きを知るということか?」
「近いが違う。斬撃は必ず空気の中を切り裂き俺に届く。魔法をある程度極めていくと、周囲の空気を自分の感覚のように感じることが出来る」
「空間自体を? ……風魔法、か。ゲイ・ボルグ、雷魔法では駄目だと?」
「いや、例えば、が風の話だ。お前の守護精霊がクレドールならそれも叶うだろうが、雷魔法でも同じだ。戦いのさなかに他人に感じ取れぬ様な微弱な電気を空気にまとわせることで同じことが出来る。その元の持ち主……ロシュフォールもそうだった」
「ロシュフォールが……」
「まだ七階梯だろ? 上がれば身体能力だけで対処できるように成るかもしれないがな。上のものと戦うには必要な技術だろう」
「なるほど……重ね重ね感謝する」
「強くなれ。俺を満足させろ」
フーとため息をつく声に横を見ると、困ったように、でも優しげに笑みを浮かべるメレルが居た。この感覚。俺にはわからないが、そこまで嫌悪してる訳じゃなさそうだ。
俺としても、何やら俺への対処法を話しているようだったが。堂本が強くなる分には気にはならない。負けないように俺は精進を続けるだけだ。
「さてっと」
メレルが立ち上がりそろそろ帰ると告げる。
「デュベル。貴方も行くわよ」
「まて、風呂を借りてからでも……」
出かけようとしたデュベルが今更返り血で汚れた自分の姿に気がついたようだ。
「もう良いわよ、ホテルのシャワーを使って」
「……は?」
「どうせ警護が、とか言うんでしょ?」
「いや、だがしかし」
「ホテルの廊下で寝られても、ホテルの人に迷惑なのよ」
「あそこが警備では一番――」
「今回の講演旅行、気がついていた?」
「な、なにを?」
「私はずっと二人部屋を取っていたのよ?」
メレルの言葉にデュベルが固まる。聞いていて良いのか悩むが、否が応でも気になってしまう。堂本達も黙ったまま二人のやり取りを見つめる。
「ロ、ロ、ロシュに……申し訳――」
「気にしないで、そういう約束だったんだから」
「約束?」
「あいつは不器用だが悪いやつじゃない。もし俺に何かあれば受け入れてやってくれ。そう言っていたわ」
「ロシュフォール……が?」
なんだ? ロシュフォールが? どういう事だ?
俺は理解できないが、二人の中では何かが通じているようだ。
「ゲイ・ボルグも、キョウヘイさんに渡してしまえば、貴方もロシュを意識しないで済むでしょ?」
「……」
「じゃ、行くわよ」
「お、おう?」
俺は全く理解できず、ふと堂本の方を向くと、何か納得したようにうなずいていた。
さすがに他人の色恋沙汰について生徒に聞くのは憚れるな……我慢するか。
それにしても……。
「あ、この宿は皆で借りたのか? 一軒家じゃないか」
「ああ。ギルドで貸し出てたんだ。もともとは冒険者向けの賃貸らしい」
「なるほどな、貸し出されてないのもこうやって使えば無駄はないしな。……君島だが、大丈夫か? 寝室一つ桜木と君島で使わせてもらっちまって」
「気にしないでいい」
それから昼飯なども食べる。なぜかビトーと一緒に佐藤が台所で働いていたが。他のみんなの様子を見ると割と自然な感じなのだろうか。ここまで来るのに苦労をしたのだろうな。
少し落ち着けばいろいろ聞きたいことも出てくる。堂本たちが下界に降りてからの話なども気になる。そんな事を聞いたりする。
その中で、頼んではいたが、レグレスの名前が出てくるとは思わなかった。というより忘れていた。
「レグさんかあ、元気だったか?」
「ああ、何者だ? あいつは」
「ん? なんていえば良いんだろう……預言者? みたいだな」
「そうだよっ。俺の鉄棒だってさ、会う前に持ってきてたからな。たまたまとは思えねえよ」
「鉄棒?」
「俺の特性は身体能力のアップだ。いくら力が強くなっても刀じゃ刃こぼれするから鉄の棒で思いっきり殴ったほうが強い。そういって武器を持ってきてくれたんだ」
「ああ、そういうところあるよな」
堂本も袋からゲイ・ボルグを出し見つめる。
「俺も、そうだな。まずは雷を極めろと……お前に合う武器が手に入る。そういわれた」
「それが、その槍なのか?」
「そこまでは言われてないがな。槍を引き抜くために握ったとき、直感でこれだと感じた」
「……そうか。俺は生徒が『お前のものは俺のもの』なんて言い出したと思って焦ったけどな」
「やめてくれ……」
ふふふ。聞いていた辻も笑いをこらえる。どうやらこの世界にやってきたときのギズギス感は少し取れたのかもしれない。
話をしていると、寝室の方から桜木がそっと出てきた。
「おお。桜木! 大丈夫か? まだ無茶はするなよ」
「あ……せ、せんしぇい!」
桜木は言葉にならない声を上げると俺に飛びついてきた。そしてそのまま俺の胸の中で大声で泣き続けていた。
仁科から、桜木はかなりの日数エバンスという組織に誘拐されて拘束されていたと聞いている。ビトーも一緒に攫われていた感覚から、魔法陣の大事なカギとして大事にはされていただろうとは言っていたが。
……ずっと不安だっただろう。
十六歳の子供だ。PTSDだって心配だ。
俺は、泣きつかれて再び寝てしまうまで、桜木をそのままにしてあげた。
※ちょっと本気でジャンプ+の原作大賞に一作品送り出したいので頑張らせて下さい。あと週末旅行にいってしまうので、更新は。。。。。。ちょっと待て。
あとは、章の締めだけなんだけど。書けたら随時更新で。
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