第134話 モンスターパレード 7
階段に向かいながら堂本は再度振り向く。
辻と佐藤は、慣れた連携でカマキリの魔物を攻め立てていた。攻撃力そのものは圧倒的に辻が上だ。その上で、バリアを組み合わせながら上手く、辻の攻撃が当たるようにとフォローをしている。
ガコン! ガコン!
辻はあらん限りの力で攻め立てる。流石の魔物もその威力を殺せないでいた。鎌で受ける度に鎌が歪むような衝撃を受け、受けた直後の反撃の手も出しにくそうにしている。
その横で佐藤は、バリアを小刻みに展開して魔物を牽制する。なまじ魔法が見えるだけに、魔物は佐藤のバリアに反応する。それが功を奏し、辻は防御への意識を少なめに、攻撃に力をかけれていた。
それでも魔物の鎌の頑強さはかなりの物なのだろう。フルスイングの鉄棒を受け続けているが折れることはない。
そんな二人を見て堂本はぐっと歯を食いしばる。
辻はああ強がっているが、全力での戦いでは身体能力を上げるためにかなりの魔力を消費する。筋力がアップすればスピードも増す。辻には魔法での攻撃はないが、全力時の辻の近接戦闘力は堂本を凌ぐものがある。
だが……燃費はそこまで良くはないのだ。ここまで来るにも辻は魔力を使い続けている。更にここに来ての全開モード。おそらく長くは続かない。
果たして魔力が尽きる前に、魔物を押しきれる事が出来るのだろうか。
――なるべく早く戻らないと。
前を向いた堂本はそのまま階段を降りていった。
地下からは、なんとも言えない嫌な気配が漂っていた。あのカマキリの魔物がボスだと辻は言っていたが。果たして……。
……
……
「オラァ!」
辻の放つ力強い一撃。それが繰り返される。
その度に魔物の体は流れ追撃の手を止める。
下からの打ち上げに受けた体ごと浮き上がりたたらを踏ませ、上からの打ち下ろしに膝を軋ませる。
「このまま行くぜ。哲!」
「おう、押し切るぜ」
佐藤もバリアだけではない。果敢に刀を振るい攻撃の手も入れる。辻の鉄棒を両鎌で受ける魔物に次第に佐藤の刃も届く。
だが、外骨格の硬い表皮になかなか深くは斬れていかない。魔物もそれを感じるのだろう対処のメインを辻に向けていく。
ブブブッ!
「うぉぉ!」
突然魔物が口から黒い玉を吹き出す。前のめりで攻め続けていた辻が慌てて後ろに下がり避ける。
佐藤もバリアを必死に飛ばし次々に放たれる黒い玉を、対消滅させていく。
「何だっ!」
「わからんが、当たらない方がいい。堂本の魔法もこれで無効化されていた」
「くそぉ!」
追い詰めたと思った二人だったが、一気に攻めの手が緩む。攻めようにもタイミングを計ったように放たれる黒い玉に集中がかけ、攻めきれない。
――これではジリ貧だ。
そう考えた佐藤が辻に向かって叫んだ。
「黒い玉は俺が全部受ける。大慈行け!」
「ぅおおおお!」
今、一番大事なのは信頼だ。今の二人にその心配は……。
まったく無かった。
佐藤を信じ切り、完全に守りの手を捨てた辻が再度攻めに転ずる。佐藤は全力でバリアを生成し続け黒い玉を完全に封じ込めていく。
「だっしゃゃあ!!!」
とうとう辻の渾身の一撃が均衡を砕く。受けた魔物の左手の鎌が鈍い音ともにあらぬ方向へへし曲がる。
「ギギッ!」
さらに、必死に添える右手の鎌を弾き飛ばし、魔物の顔面ががら空きになる。
これ以上ないチャンスに、鉄棒を振りかぶる辻の表情が歪む。
「ちきしょぉおお!」
カンッ!
完全に無抵抗の顔面に届いた鉄棒が軽い音を奏でる。
明らかに威力の足りていない打撃に佐藤が訳が分からんといった表情になる。
「はっ?」
「すまん! 魔力が切れた!」
「うっ嘘だろ!」
ゴゴゴゴ……。
言葉を解さなくても、魔物は十分に状況を理解したのだろう。左の鎌をぶらんと垂れ下げながらも、膝を落として生きている右の鎌を構える。
ジリジリと後ずさりをする二人をじっくりと追い詰めるように前に歩みだす。
◇◇◇
「こっちだっ!」
走り続けた俺たちは通りを曲がると、正面に玄関の門がへしゃげた状態になっている建物が見えた。おそらくあの建物だろう。
しかし、モンスターパレードの中心部の筈だが、今は周りには魔物の姿が見えない。俺は少し拍子抜けしたが、それでも目の前の建物からは並々ならぬ異様な気配が漂う。
間違いないだろう。
「魔物が居ないですね」
「モンスターパレードと言っても、人が作り出した魔法陣だ。自然に起こるものと規模は違うのだろう」
「それじゃあ、もう終わってるんですか?」
「どうかの。終わっる雰囲気じゃないが。大物が残っている気配はする……」
やはりこの異様な気配はスペルセスも感じているのだろう。険しい顔で走り続ける。
モンスターパレードが終わったとは言え、魔物の気配は残っている。確かにそれはボス的な存在を意味しているのかもしれない。
そして中には俺の生徒たちが突入している。まだ魔物を仕留められていないということだ。
……あまり悪いことは考えたくない。だが、急いだほうが良い。
俺達は一気に校舎の玄関へ飛び込んだ。
「どっちへ行けば?……アレは!」
建物の中の構造など知らない。だが、すぐに廊下の奥の方で二人の男が何かと戦っているのが見える。
今の俺は、階梯も上がり、おかげで遠くのものまでよく見える。見えすぎるくらいに。
そこでは辻と佐藤が、昆虫のような魔物と戦っていた。魔物は両手の鎌を振るい数的不利を感じさせない余裕を見せいてる。
どうも旗色が悪い。二人共なんとか相手の攻撃をしのいでいる状態だ。
「だっ大丈夫か!」
「辻くん! 佐藤くん!」
俺と君島の声に。二人が反応する。
「やっと来たかっ!」
「もう魔力がねえ! 頼むっ!」
二人は振り向く余裕も無いが、声はまだ通る。状況は良くないが二人の無事を確認し、おれはひとまず安心する。
「ちょっとだけ耐えろッ!」
「やってるっ!」
よし、気は折れてない。
走りながらもスペルセスが、片手を上げ、手のひらに炎の槍を作り出す。そして、投矢の要領で魔物に向かって投げつけた。
「魔法だ。左右に避けろっ!」
戦う二人が居るのに突然遠距離攻撃をするスペルセスにヒヤリとする。だが、火の槍を投げつけながらスペルセスが叫ぶと、戦いながらも二人が必死に左右へ分かれた。
開いた斜線の奥で、唸りを上げて向かってくる火の槍に向かい魔物が黒い玉のような物を吐き出す。
なんだ?
火の槍は、黒い珠に当たった瞬間、シュルン。とかき消されるように消える。
「ぬ。アンチマジックか? ……れなら」
火の槍が防がれたスペルセスは、焦ること無く先ほどと同じ様に手を挙げる。再び火の槍が出来上がるが今度はその色が違う。黒い。
「闇炎じゃ!」
ゾクリ。黒い炎が槍の形に整形される。先程の火の槍と形は殆ど変わらないが、先ほどとは異質な波動を漂わせていた。そのまま投じられた槍は再び魔物に向けて放たれた。
昆虫のような表情のない魔物は、先ほどと同じ様に黒い玉を槍に向かって吹き出す。
……。
黒炎の槍は、バチバチと黒い玉に寸刻干渉したかと思うと勢いそのままに玉を突き抜ける。魔物は鎌で必死にガードする。
槍が当たり、発生する僅かなスキ。
「二人共後ろに下がれっ!」
「助かる!」
「堂本は?」
「地下に行った!」
地下?
……確かに地下にもやばいのが居そうだ……。堂本は大丈夫なのだろうか。
行く。
俺は持っていた剣を鞘に収める。走りながら左手で鞘をぐっと握る。そっと右手を柄に寄せながらグッと体勢を低くしていく。
体全身で刀を意識し、集中していく。それと同時に意識が広く広がっていく。魔物の気が俺に向くのを感じる。更に意識は広がり、地下で魔物と戦う人間が居るのを感じる。
……堂本。
意識の集中とともに全身の身体能力も上がっていく。俺は更に加速をしていく。
前を飛んでいくスペルセスの火の槍を低い軌道で追い越しながら、鯉口を斬る。火の槍に対応しようとした魔物は、俺の肉薄に驚き躊躇を見せた。
とっさに鎌を叩きつけるように振るおうとする魔物を前に、最後の加速をする。
空気の層を突き破り、急加速された俺は、体を数度左右にフェントを入れながら抜く。抜刀と同時に浮き上がるように切り上げた。
軽い抵抗と共に刃は魔物を分断する。
直後に飛来する黒炎の槍が浮いた魔物を炎で包んだ。
まだ止まれない。
俺は振り向きつつ、先に見えた階段を指差す。
「堂本はそこだなっ!」
「え? あ、ああ……え?」
「楠木……先生?」
ずっと戦い続けていたのだろう。二人はあまりにも疲労しすぎて要領が無い返事が返されるが、おそらくそこの階段で間違いないだろう。
それにしても、なんだか昆虫のような魔物だった。ドロッとした体液が残るのを気にし、階段へ向かいならがハンケチで軽く刃を拭う。
そのまま止まること無く地下に向かって駆け下りた。
※メリークリスマス!
なんとかアップ!
※2
感想コメントに、辻と佐藤のハッスルシーンを見たかったとのコメント。僕も実際にそのシーンを書きたい気持ちもあり、でも主人公を求める読者さんの気持ちも受けて一度は省略したのですが。
はい。1000文字加筆させていただきました。
頑張る辻と佐藤。でも主人公になり切れない彼らの頑張りを楽しんで頂けたらと。
ていうかクリスマスにギフトとかありがとうございます!頑張ります。
☆もとうとう9000を超えました! 1万に手が届くかはわかりませんが、いつか。必ず。書き続けて。
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