第133話 モンスターパレード 6

 校舎の中を桜木を探して進んでいる三人は、魔物の流れが徐々に少なくなってきてるのに気がつく。明らかに魔物の流れが減り始めていた。


「これは……ピークが過ぎたのか?」

「わからん。だが、アレも原因がありそうじゃないか?」

「……人か?」


 魔物の流れが切れると同時に、一匹の魔物が角から顔を出した。


 その魔物は、複眼の様な大きめの目に、緑がかった顔。両の手は長く、先は鎌のように伸びている。足も長く。足先には三叉の長い指が床を掴んでいた。


「カマキリ……か?」

「さあな。いずれにしても気配がやばすぎる」

「哲、シールドをすぐ展開できるように」

「……バリアだ」

「どっちでも良いじゃねえか」

「大事なんだってっ! 来たっ!」


 三人を認識した魔物は、一瞬立ち止まる。そしてその刹那、床を蹴る破裂音とともに向かってくる。慌てて佐藤がバリアを展開する。魔物はバリアと交差する直前に左手の鎌を降る。バリィィィ。という嫌な音と共にバリアは一瞬で引き下がれる。そのままスピードを変わらず突き進む。


「もう一枚!」


 カマキリの魔物がバリアに鎌を振ろうとするときには佐藤は既にもう一枚のバリアを重ねていた。しかし、魔物は右手の鎌を振るい、いとも簡単に引き裂く。


「くっ! こいつバリアが見えてるぞっ」


 バリアを抜けてくる魔物に辻の刃が襲いかかる。

 カマキリは急制動を掛け、そのスピードが一気に止まる。間を外された辻の刃は空を切る。

 つんのめるようにバランスを崩す辻に、今度は魔物の鎌が襲いかかる。


「辻!」

「ぅぉぉおお」


 唸りを上げ振り下ろされる鎌を、辻は必死に避ける。それにより崩れた体勢がさらに乱れた。死に体の辻に無情にも振り下ろされる鎌は、堂本の刀がなんとか防ぐ。


 転がる様に後ろに下がる辻と変わり、今度は堂本が向き合う。


 魔物の鎌は両手に付いている。いわゆる二刀流の状態だった。鎌を防ぎ刀が止まれば死角からもう一つの鎌が伸びてくる。刀を煌めかせ縦横無尽に振るうも、堂本も次第に攻めの手が減り始める。


 そしてもう一つ問題が有った。戦う相手の視線が見えないというのは、思いの外やりにくい。複眼のこの魔物が、どこを見て、どう考え、何を感じているのか。表情すらわからない事に、堂本は戦いにくさを強く感じていた。


「大丈夫か!」

「手数が、足りなければっ」


 堂本は戦いながらも、周りに火球を浮かばせる。その瞬間シュッシュッと魔物口元から黒い球のような物を吐き出す。その球は次々と火球を霧散させていった。


「なんだ? 魔法かよっ」

「わからん。アンチマジックってやつか?」


 魔物の魔法にうろたえる堂本に鎌がうなりをあげて襲い掛かる。

 堂本はそれを受けず、抜き胴の要領で魔物の胴を払いながら横に抜ける。その試みももう一つの鎌が防ぐ。攻めも守りも隙が無い。

 隙が無ければ力押とばかりに、鎌の上をすべる刃に魔力を上乗せし、ギリギリと鎌ごと斬らんとする。


「うぉぉぉおおお!」


 当然魔物もそれに抗う。黒い靄のような物が鎌に集中する。お互いの魔力が干渉しあい嫌な不協和音が響く。

 魔物の鎌を斬れぬまま横をすり抜けた堂本は振り向きざまに雷撃を放つ。同時に後ろからは佐藤がバリアを纏ったパンチを向ける。辻もチャンスとばかりに攻撃に転じる。


 三方向からの攻撃。三人共に行けるという確信の中。目の前で驚くべき光景が展開される。


 再び魔物は口から黒い珠を吐き出し、バリバリと迸る堂本の雷撃を霧散させた。佐藤のバリアを纏ったパンチは振り向きもせず、魔物はスウェイで避けながら右足を伸ばす。完全に虚を突かれ鳩尾に魔物の足先が食い込む。

 とっさに腹にバリアを展開するもののその力を受け止めることが出来ず、佐藤は廊下の壁にふっとんでいく。

 辻の斬撃も魔物に及ばない。身体強化で強化された辻の怪力も、クロスさせた鎌によって完全に止められる。


「哲!」

「くそっ。マジかよ!」


 吹き飛ばされながらも佐藤はすぐさま立ち上がり戦闘を続ける堂本と辻に元に駆けつける。


「こいつ、魔力が見えるんだ!」


 初めのバリアの時もそうだが、先ほどのバリアを纏ったパンチも魔物は完全に見えた状態での反応をしている。見えない壁。そんな初見殺しに絶対的な自信を持っていた佐藤は、魔物の底知れぬ強さに震撼する。


「魔力だけじゃねえ。三百六十度全てが見えてるっ」

「くそっ……時間がかかる。堂本。先に行けっ!」

「……何を、言ってる?」


 突然の辻の発言に堂本が眉を寄せる。


「俺たちが時間を稼ぐ。とっとと桜木を助けてこいっ」

「しかし……」


 逡巡する堂本に、ふと辻が手に持っていた刀を投げる。


「なっ……」

「お前なら二刀もいけそうじゃね?」

「……そうか。アレを?」

「レグさんの言いなりに成るのは癪だけどな。かっこ悪いしよ」


 そう言いながら辻は腰に固定してあったカバンに手を入れる。カバンから手を抜く時、その手には真っ黒な棒が握られていた。

 棒の長さは刀とあまり変わらないが、ずっしりとした厚みを持ち先に行くほどやや細くなっている。さながら伸ばした特殊警棒のような見た目だ。


「刀だと刃こぼれするから全力で振るえないからな……全開で行くぞ。哲」

「おう。ヤンキーっぽくて似合うぜ」

「ヤンキー言うんじゃねえよっ」


 佐藤も腰の刀を抜き中段に構える。


「おそらくこいつがボスだ。魔物の出現も止まってる!」

「分かった……」

「死にはしない。その代わり、桜木を見つけたらすぐに戻ってこい」

「無理はするなよ……楠木もきっと来る」

「分かってる。そっちは頼んだぜ」


 カマキリの魔物が出てきた廊下の先には下に降りる階段が見えていた。堂本はそこに向けて走り出す。その堂本に一瞬気を取られた魔物に後ろから辻が鉄棒で殴りつける。


 ゴンッ。


 鉄棒の重い一撃を振り向きざまにクロスした鎌で受け止めるが、流石に魔物の体が一瞬浮く。


「さあ、覚悟しろよカマキリ野郎」


 辻は獰猛な笑みを浮かべ魔物をにらみつける。

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