第91話 3人の異世界
「行っちゃったね」
「一緒に行きたかったか?」
「うーん。でもそのうち行けるでしょ。今日は食器と調理器具を探しまーす」
「そうだな」
広場の屋台で朝食を済ませた三人は、そのまま再び街の中へ入っていく。
街はそれぞれの店の種類ごとに固まっている。洋服屋の区画は洋服屋が多く並び、食事処はそういう区画があったりする。当然、まだまだ街の配置が分かっていない三人は、店探しに苦労していた。
その時、桜木は、ふと街角に目深にフードを被った怪しげな人が、小さな机を前に座っているのに気が付く。机をはさんで目の前には、若い女性が何人か集まり一人がそのフードの人の前に座っている。
それを見てすぐにそれが何か思い当たった。
「鷹斗君! 見てっ。占い!」
「ん? ……占い、なのか?」
そのフードを被った人の雰囲気の怪しさが半端なかったが、仁科も他の客がいるのを見て桜木と同じ結論に至った。だが、特に占いに興味のない仁科はそのまま通り過ぎようとする。
「えー。やりたい!」
「な、なんでだよ。占いなんて」
「だって、魔法のある国の占いだよっ! 当たる率半端なさそうじゃん!」
「お、おお……まあ、そういえばそうだけど。でも何を占うんだよ」
「んと……恋愛?」
「れ、恋愛???」
「君島先輩と先生が上手くいくかとか?」
「あ、ああ……先生と先輩ね」
「ん? ん~」
「な、なんだよっ」
「おやあ?」
「お、おい。近いって」
「ふふふ」
意味ありげな目で桜木が仁科を見つめる。そんな桜木に思わず仁科がたじたじになる。丁度その時、占い師の前に居た女性たちが嬉しそうに礼を言って離れていった。仁科が止める間もなく桜木が占い師の前まで走っていき、椅子に座る。
占い師は、フードの中からジロッと桜木の方を見る。
「深淵なる末末を覗き見ることを望む者か?」
「え? 末末?」
「……占いをするかと聞いておる」
「あ、はい」
「それでは先に見料の3000エルンを……」
わざとらしく偉ぶるような言葉遣いの占い師を、後ろで聞いていた仁科は胡散臭そうに見ていたが、桜木はためらいもせずに見料を払う。
「ふむ……。それではこの宝珠に手を乗せなさい」
「はーい」
「そしたら、魔力を宝珠に込めるのじゃ」
「はーい」
占い師の前には握りこぶし大の水晶玉の様な物が置かれ、それに手を乗せるように言われる。それはなんとなく天空神殿で能力を測った珠に似た感じだが、あれと比べるとだいぶ小さい。
桜木が手をかぶせるような感じで乗せる。
……と。
宝珠はぼわっと明るくなったと思うと、徐々にその光が強くなっていく。
「お、おお……」
その光に占い師も言葉を失う。
その時。
ピシッ!
光る宝珠から嫌な音が聞こえ、桜木が反射的に手を放す。見れば宝珠には亀裂が入っていた。
「あ……」
「え……」
桜木がなんか不味いことをしてしまったと、恐る恐る占い師を見上げると、占い師はワナワナと震える手を宝珠に伸ばす。
「ご……ごめんなさい……」
「あ、いや……大丈夫……です」
「これ、高いですか?」
「え? いや……貴方は?」
「弁償ですか?」
「……だだ、大丈夫です」
占い師は自身の宝珠が破損したショックで呆然としているが、桜木の弁償の申し出を断る。いたたまれない気持ちで、慌ててその場を立ち去る桜木をしばらく見つめていた占い師が、ふと我を取り戻す。
「見つけた……あれだ」
「たくっ。ビビらせるなよな」
「だって、魔力を通せっと言われたから通しただけだよお」
「お前が天戴の全力を込めたりしたんだろ?」
「そんなんじゃないよ」
冷や汗をかいたのは見ていた仁科も同じだ。弁償は大丈夫と言われたが、ああいう宝珠ってめちゃくちゃ高いイメージはある。先生から食器や調理器具の買い物を頼まれたときにそれなりのお金を渡されてはいたが。足りるかなんてわからない。
仁科はブツブツと文句を言いながらも、やがて食器などを置いてありそうな店を見つけ、気分を変えて買い物を楽しむことにする。
「まずは食器だよな」
「そうだねえ。かわいいお皿とか欲しいな」
そう言いながら食器店の中を回る。ガラス製品や、陶器の食器など日本と同じ様な物がならぶが、絵柄があるものは少ない。3人でブツブツ言いながら見ていると、店員が話しかけてくる。
「いらっしゃいませ。どのようなものをお探しですか?」
「普段使う食器などをって思ってます」
仁科が答えると、店員は少し悩んでから、3人で買いに来たのか聞いてくる。たしかに、仁科たち15歳くらいに成れば大人として扱われる世界であったが、そんな2人と12歳の、更に同年代でも小柄で幼く見えるビトーの3人で居れば、少し気になるのであろう。
一方仁科たちからすれば、この世界では大人として見られるとしても、自分たちの意識はまだ成人前の子供である。子供3人で食器を買いに来る事に違和感を持たれるという感覚も理解できた。
「えっと……ぼくらデュラム州の州軍の所属で……。その新しく取り戻した街などで駐屯地に使う食器などを買いに来たんです」
「おお。なるほど、それでは……ここの陶器製とかより金属や木の食器のほうが良さそうですね」
話を聞いて店員は、軍人の食堂で使うものと考えたようだ。確かにドゥードゥルバレーの食堂でも、そう言った乱暴に扱っても割れたりしない食器を使っているのだが。3人は自分たちはガラスやセトモノの食器を考えていたため慌てる。
「あ、いや。でも、どちらかと言うと……ほら。連邦のお偉いさんが来た時とかのなんで、ガラスとか、陶器の物をと考えているんです」
「なるほど……」
店員としてもそういった軍部の事情等はよく分からなかったが、そういう事もあるのだろうと、3人のイメージなどを聞きながらアドバイスをする。
「このお皿って随分高いですね……。有名なブランドだったりするんですか?」
「ああ、これはですね、ほら裏を見ると魔法陣があるの分かります? 耐熱や、耐衝撃の魔法がエンチャントされているんです。そっとやちょっとじゃ割れないんですよ」
「へえ。あ、ホントだ。すごいっすね」
実際にブランドや人気の陶芸家の様な作品もあるのだが、この世界のそういった物を知らない3人はあまり気にせず気に入ったデザインで選んでいく。今回の為にビトーがシゲトからまとまったお金を渡されているのも有り、あまり値段の心配もしていない。
魔法がエンチャントされているような高級品をどんどんと選んでいく3人に店員も次第に不安になってくる。
「恐れ入りますが……。そのう。お金は、州からでるのでしょうか?」
「え? あ、ああ、そんな感じです」
「な、なるほど……」
普段の生活で必要そうな分の食器を選ぶと、それを計算してもらう。それを「ちょっと高くなっちゃったね」位の反応で支払いを済ませるとようやく店員もホッとする。
実際魔法がエンチャントされていると言っても絶対に割れないということではない。店員がそこら辺の注意事項を3人に説明しながら、品物を纏めていく。植物の綿毛のようなものをお皿等に挟みながら梱包していく姿を見ながら、ふと仁科が自分のカバンを見ながら言う。
「あれ、これって……入るかな」
仁科も桜木も天空神殿でもらったショルダーバッグのタイプのカバンだが間口のサイズ的に大きめの皿などが入らない感じがする。店員もそれに気が付き、もし入るようなマジックバッグを買うならと、少し離れたところのお店を紹介してくれた。
※明日も祝日なんですよね。あとストックが1話あるので出しちゃうかな……。
その後数日休みいただきたくなっちゃいそうですがw
ここから話を動かすのですが、ちょっとしっかり作りたいですなあ。
とま、これから、子供を連れて……。
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