第87話 肉食ワーウィック

 チェックインをすると、そのまま街に繰り出す。メラは君島の部屋に鳥用の止り木の様なものを用意してもらえた為ホテルに留守番をしてもらう。少しづつヒヨコから鳥になり始めて、君島から離れるのも出来るように成ってきてる。

 まあ、大体は寝ているのだけど。


 せっかく街に出たが、もう夕方。あまり多くの店は回れなそうだ。俺たちは適当にカプトの街を歩きながら、夕食を食べる場所を探すことにする。


 デュラム州はノーウィン人が多く居たため、どちらかと言うとノーウィン文化の濃い料理がメインだったが、スペルト州はそこまで特定の人種が多いわけじゃないらしい。ただ元々この世界の半分近くがマーティン人ということで、マーティン人の文化の食事の店が多く立ち並ぶ。マーティンの料理は日本で食べる洋食に近い感じだ。

 段々と日が暗くなってくると、街灯が点き

「ああ、街が変わればこんなに夜が明るいんだな」

「なんか、高校時代は夜遊びとか駄目だったから……なんかこう言うのワクワクします」

「そうだよな。まあ遅くまで塾で勉強している生徒は居たけどな」


 君島もキョロキョロと周りを見渡している。連邦締結前は一国の首都だった街だ。ここ数ヶ月ドゥードゥルバレーがこの世界の基準のように生活していた俺たちにはいささかのカルチャーショックを受ける。


「あら。お兄さんたち。お店探してるの?」

「え? いや……せ、先生!」


 キョロキョロしていると夜のお店のお姉さんに仁科が声を掛けられる。その仁科は扇情的な衣服に身を包む大柄な……女性にシドロモドロになっていた。かなり美人ではあるのだが、肩の筋肉もたくましく。ちょっと体格が日本人とはだいぶ違う。

 俺は苦笑いしながら対応を変わる。


「ああ、食事を。と思ってるんだがおすすめの店はあるか?」

「あら。うちのお店は、軽い軽食しかないのよ。でも楽しいわよ~。お酒と女の子はいっぱい~だから。ね?」

「いや、皆酒も飲めないからな。レストランが良いな」

「そう? 残念ね。ん~。ワーウィックで良いかしら?」

「ワーウィック? 食べたこと無いな。どんな料理なんだ?」

「私達の世界の料理よ。お肉が好きなら気に入ってもらえるわ。そ。れ。で。子供たちが寝たら、お兄さん一人で来てよ」

「お、おおう」


 女性の話を聞いて厳しい顔をする君島の横で、桜木は嬉しそうな顔をする。


「先生。お肉にしましょうー!」

「美希は、すぐ肉だな」

「へへへ」


 ま、肉なら俺も嫌いじゃないし。皆肉は好きだからな。試してみるか。

 自分の店ではないが、同じ人種の仲間の店だからなのだろう、女性は俺たちをレストランへ案内してくれる。


 ワーウィック人は、大柄な人種なだけあって一品一品の量がやばい。適当に人数分を頼んだら食べ切れないような量が出てくる。料理は長い鉄の串に肉を大量に挿して焼く料理がメインのようだ。それに味わったことのないスパイスを掛けて食べる。スパイスも色んな種類があって、自分の好みでかけるのが楽しい。

 やはり肉は万国共通だ。客層はワーウィック人ばかりというわけでもなく、いろいろな人種の客が食べに来ていた。


 そして、皆出されたものは残さない主義だ。しかし……。


「はぁ。はぁ。先生。これ持ち帰り出来ませんかね?」

「持ち帰りか、そうだな。聞いてみるか」


 味は皆大満足だが、いよいよ限界が近づき店員さんに持ち帰りをする入れ物があるか尋ねる。すると、スグに紙の袋を持ってきてくれる。かなり脂っぽい料理だが、紙の袋は内側に撥水加工のようなものがしてあるようで、肉料理を入れても問題ないらしい。


 俺たちはお礼を言い、袋につめる。

 すると、それを隣で見ていたワーウィック人らしき男の客が声を掛けてくる。


「なんだ、兄ちゃんたち。少食だなあ」

「え? ああ。さすがワーウィックの人達は一杯食べますね」

「おう、そりゃあな。数ある世界でもワーウィック人は最強だからな。食う量だって最高だぜ」

「ははは。大きいですもんね」


 なんとなく、カートンやゴードンと戦ったときの事が思い出され、俺は適当に相槌を打ちながらその場を終わらせようとする。だが、酒も入っているのだろう。男はワーウィック最強論を展開し始める。


「今はワーウィック人の天位は五人しか居ないがな、全盛期は十二人の天位がいたんだぜ」

「十二人も? すごいですね……」

「ああ。すげーんだ。まあ今の最高位は21位のダーゴンだけどな。実際に戦えば大天位にだって負けねえんだぜ」

「おおう。大天位に」

「それだけじゃねえぞ。42位「鉄豪姫」イスメラルダは知ってっか?」

「えっと……」

「なんだ? 鉄豪姫もしらねえのか? おめえ馬鹿にしてるのか?」


 それは知らない。田舎から出てきたばかりの俺たちが知りようがない。だが、自分たちの人種の英雄の名前を知らないとしると、男は急に不機嫌になる。かなり酔っぱらっているようだ。俺は慌ててフォローをする。


「いえ……まだ僕らはこの世界に来たばかりでして……その、ランカーの人とか良く知らないのです。」

「ん? そうなのか? まあ、いずれにしてもこの世界はワーウィック中心に回ってるってことだ」

「へ、へえ……」


 そこで、男はドンと目の前の机を叩く。周りの客もなんだ? とこちらを向く。


「それなのによう! なんで……カートン負けちまったかなあ……。あいつは大天位だって狙えた人材なんだぞ?」

「へ、へえ……」

「8階梯で87位だ。9階梯、10階梯と上がれば、まさに大天位しかねえ。天曜だって取れてたかもしれねえ! そう思わねえか?」

「そ、そうですね……」

「くそう……どこのすっとこどっこいだ。クスノキ? そんな変な名前のやつに……」

「そ、そうですね……」

「ぐすん……」


 やばい。いたたまれない。男は何か気持ちが乗ってきて、涙目でワーウィックの強さを語りだす。

 その時。違う席で突然ワーウィックのおっさんが、聞いたこともない歌を歌いだす。すると、他のワーウィック人らしい客たちも同じように立ち上がり合唱が始まる。

 きっと……あちらの世界の歌なのだろう……。ワーウィック人達が嬉しそうに歌っている。歌詞はこの世界の言葉なので、メロディーだけが向こうの世界の言葉なのだろうか。こっちの世界で生まれたワーウィック人がいるのだから歌詞を訳した物があるのだろう。

 あっけにとられたほかの人種の客たちが黙る中、歌がサビに向かい盛り上がっていく。


 誇り高き獅子たちの、アギトで齧る串焼きの♪

 美味さは絶品 リュー飯店~♪


 え?


 ……CMソング?


 横をちらりと見ると、生徒たちも何とも言えない表情をしている。


 俺たちは、ワーウィック人の店はしばらく辞めておこうと心に決めた。

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