第88話 グラブルベル書店
翌日、俺たちは買い物に出かける。
書店に関してはおそらく俺しか行く人間がいないと思い、別行動も考えたが、初めての都会で何かあったら怖い。仁科たちと別れるまでは一緒に行動することにする。まずは俺の目的である書店に向かう。
しかし。やはり書籍というのはあまり売れないのだろうか。その書店は街の隅にひっそりとあった。
ギィ……。
書店は珍しく木組みの中世っぽい建物だった。珍しいと言ってもこの区画は割とこういった建物が並んでいる。もしかしたらこの街の成り立ちや、その建てられた時代のや、住民の種族の集まりなど、そういうものがあるのかもしれない。
少しかび臭い店の中は、びっしりの本棚が……なんてワクワクするシチュエーションを期待していたが、店内に入ると予想を裏切る光景が目に飛び込む。
だだっ広い店の中には何個ものテーブルが置いてあり、そのテーブルには向かい合うように椅子が置いてある。そして、テーブルの上には将棋のような、チェスのようなボードがおいてあり、沢山の老人たちがそのゲームをプレイしていた。
「なっ……店……間違えたか?」
慌てて店の外に出て釣り下がっている看板を見るが、やはりスペルセスさんに教わった店で間違いない。俺は首をひねりながら店の中に再び入る。
近くのテーブルではプレイする二人の老人を、周りで何人ものおっさん達がヤンヤ言いながら観戦していた。その一人が俺たちに気が付き声をかけてくる。
「どうした? にいちゃん」
「えっと……ここって、グラブルベル書店……ですか?」
「おう、そうだよ。兄ちゃんもバーセルやりに来たのか?」
「え? バーセル?」
「ん? バーセルじゃねえのか? ほれ、このゲームだ」
「あ、はい……本を見せてもらおうと……」
「本だ? ああ、スケベだなあ兄さん。ん~ だが、ちょっとまってな。今店長が、ほら……」
話しかけてくれたおじさんが指さした先には、必至に盤面を見つめる老人が居た。ツルっとした頭皮と対照的に机に届きそうな長い髭を生やした老人が腕を組みジッと厳しそうな顔で唸っている。わき目も触れずとは、まさにこの事だろう。
……これは、無理な感じかも。ていうか、本にスケベも何もないだろう。
ここは本当に本屋なのか? と思い周りを見渡すと、確かに壁にそって本棚が並んでいる。それも、全部は埋まっておらず、バーセル? と思われるゲームのボードや駒がしまわれていたりと、本棚以外の仕事もしていた。
とりあえず俺は、本棚に近づき目に入った書籍を眺める。
……あれ。
何冊か手に取るが、そのどれもが読み物系の小説だ。しかも……なんていうか性的描写の多そうな。そんな方向性の本ばかりだ。
いや、本を読む習慣の少ないこの世界で、書籍がビジネスとして成り立つには、こういった作品じゃないと駄目なのかもしれない。ていうか、スケベってこの事だったのか……。俺が思わず固まっていると隣に君島がやってくる。
「どうですか? なんかいい本ありそうですか?」
「きっ君島! いや。無い! 無いぞ!」
「へ? ど、どうしました?」
「いや。ここら辺はちょっと違うようだ。あっちの本棚を見てみよう」
なんだろうと本棚に手を伸ばす君島の手を慌てて抑える。君島は俺に手を取られて少しうれしそうな顔をしているが、それどころではない。少し離れたところにほかの本の塊があったので手を引っ張り、そちらに向かった。
ただ、そこのコーナーはガラス戸の中に本が並んでおり、見ると鍵までかかってる。ガラスの外から背表紙を眺めると、少し学術書っぽいタイトルが並ぶ。
「こっちは……おう、学術書っぽい」
「今日は先生……。少し積極的ですね」
「あ、ああ……。お。魔法の本じゃないか」
「私はもう。恋の魔法にかかってしまいました」
「き、君島?」
「ふふふ。冗談です」
「おおう」
学術書かと思ったが、ここには魔法の本などが並べられているようだ。君島の揺さぶりに動揺しつつも、俺は少しホッとして背表紙の文字に順に目を通していく。
すると一冊のタイトルに目が留まる。
『無属性魔法大全』
確かに俺は適正の殆どが無属性だった。無属性魔法はその属性が無いわけじゃなく。レアな属性のため自分の魔法が何かを知らないと使えないという状態だ。
精霊の情報があればその属性が推測されることもあるが、その人自身の資質ということもある。割とすんなりと属性が分かるものもあれば、死ぬまで自分のほんとうの属性を知らないままという場合もある。
……これをみて色々試すのは。
少し悩む。この鍵付きの棚に入っているという時点で相当高いのは分かる。悩んでいると後ろから声がかかる。振り向くと先程ゲームをやっていた老人が眼光鋭く俺を見つめていた。
「気になるのがあるのか?」
「え? あ、この無属性魔法大全というのが……」
「2億3200万エルンだ」
「……え? は?」
「神の子フェールラーベンの残した資料を、その孫のカーンケーン1世が纏めたと言われている本だ。 精霊由来の無属性なら大抵は分かるという。本来なら神殿から持ち出しが禁止されているが。……色々有ってな……」
「ほ、本物……なんですか?」
「偽物に決まってるだろ」
「へ?」
「そういう触れ込みで、100年ほど前のリガーランド出身の賢者が書いた本だ」
「それでも、賢者の……」
「これを書いて、称号が剥奪されたがな。ほっほっほ」
「……」
な、なるほど。この一冊の本にも歴史があるようで。面白い。きっと。それでもかなりの値段がするのだろう。
「あ、ゲームは?」
「ん? ああ。もう詰みまで読み切ったわい」
その時、テーブルで対戦者がコマを動かす。見ていた客達が、その場所と駒を店主にむかって大声で叫ぶ。それを聞いて、店主が少し考えてすぐに答える。
「ふむ。3-7に男爵!」
「おおお!」
店主が答えると、言われたように見ていた客が駒を動かしていた。皆それを見て「おお!」と反応を見せる。対戦相手は髪の毛をグジャグシャにしながら悩んでいる。
……。
「あ。すいません。この国の歴史を書いた本などあればと思って」
「歴史書か? それとも物語か?」
「出来れば史実が知りたいので……」
「ふむ……歴史書は、売れんからあまり置かんのじゃが……1つくらいはあるかな?」
そう言うと、まだ見ていない棚を眺め、やがて一冊の本を持ってきた。
「ジーベ王国の建国史じゃ。これくらいじゃな」
「あ、是非売って下さい」
「それでも高いぞ? ……そうじゃな。80万にしておいてやる」
げ、マジか。本は高いと言っていたが……まあ殆ど売れない本を置くリスク等を考えると結局こういう値段になるのかもしれない。俺は、その値段で了承し神民カードで支払いをする。その間にも、ゲームは続いて居て、店主は盤面を見ずに、どうやら対戦相手を追い込んでいるようだ。
詰みまで読んだというのは本当なのかもしれない。
「このゲームも商売なんですか?」
「ん? 本じゃ食っていけねえからな。その本だって仕入れた時は120万はしたんだぞ?」
「え?、こんな安くしてもらって良いんですか?」
「40年も売れなければ、そんな値段になる。かまわん」
「なるほど……あ、もし歴史書が手に入りそうでしたら抑えておいてもらっていいですか?」
「ん? 本気か? いや。だがワシはおまえさんの事なんて知らんぞ?」
ううむ……あくまでも直感だが、俺はこの老人を信じることにする。神民カードの名前を見せ、連邦軍の所属であることを明かす。俺の天位を表す数字に「ほう」と眉毛をあげ、再び俺の方をジロリと見つめる。
「確かに金は問題無さそうじゃな。分かった。手に入ったら軍の駐屯地に知らせよう。歴史書じゃな?」
「は、はい」
俺は、店主に例を言って店を後にしようと……した。
すると先程の棚の前で、仁科が本に手を伸ばそうとしている姿が目に入る。
「お、おい。仁科! その棚は駄目だ!」
※やべ……2話連続コメディっぽい落ち付けちまった。
と、この先の起こる事件のためにビトーを女子化までさせたのですが、全然自然な流れにならずに困ってますw しかもビトーの性別元のままでも全然問題なさそうな感じだしw
もしかしたら少し詰まるかもしれませんが、優しい目でよろしくです。
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